荒れ果てた荒野でクロとシロは火花を散らして向かい合っていた。
「覚悟はできたのかしら? クロ?」
クロはシロの背後を見てニヤリを笑みを浮かべる。
「覚悟もなにも、オレ達の考えに賛同してくれる人数の方が多いじゃねぇか。それでも勝気あんのかよ?」
「クロといったな。戦略は人数じゃないぞ? 知識と経験がものをいうのだ」
シロの後ろに控えている
倉橋 天元が少し前に出て述べる。
「そうですよ、攻撃も大事ですが大型級や戦略を必要とする場面も出てくるはず……。戦略の大事さ、私はそれを証明したいと思ってます」
葉月 巴が優しい微笑みを浮かべて同意する。
「戦略のおかげで怪我を減らせますしね」
銀狐の付け耳をした
テレサ・ファルシエが言う。
「知略の重要性も否定しませんが、ブランクのような荒廃した世界では力こそが重要だと思いますわ。力がなければいざという時、簡単に死んでしまいますから…。」
今度はクロの後ろに控えていた
松永 焔子が少し悲しそうな表情で言う。
「同感だ。攻撃こそ最大の防御なり、俺たちの強さが無ければ戦略を考える者の意味も無いだろう」
葉月の隣の
サジー・パルザンソンが腕を組んで頷く。
その少し後ろでは
九鬼 苺炎が横にいる
アンソニー・ブリーゲルに小声で話しかけている。
「ねぇねぇ、こっち優先て師匠が言うから来たけど、そうなのかなぁ? 私達って、どっちかといえば向こうな気がするけど……」
「苺炎がそっちだと思うのなら言ってきても構わんぞ。これはわしの意見じゃからの。こういうのは、教わるより学ぶんじゃ」
「うん。じゃぁこっちでなんで師匠がこっちを選んだかを学ぶね!」
クロが戦闘の構えを取って言う。
「こんなところで言い合ってても腹は膨れねぇ!」
「そうね。癪だけど、同感だわ」
シロがクロから間合いを取り始める。
そして同時に言葉を放つ。
「さぁ、始めようか!」
「さぁ、始めましょうか!」
「焼肉パーティを!!!!!」
突如、二人の開始合図を搔き消さんばかりに大声がとんでくる。
その場にいた全員は唖然とその声の方向に目を向ける。そこはハイドホーム入り口付近だった。
そこには先の声の主であろう
ウォークス・マーグヌムが山盛りの羊肉を持って仁王立ちしていた。
「な、何事ですの?」
唖然状態を克服した松永が口火を切る。
「ライ! レフ! お前たち何して……」
続けてクロが肉を運ぶのを手伝っている二人を目撃して声を上げる。
「「ウォークスちゃん主催、焼肉パーティの準備だけど?」」
ニコニコとライとレフが声を揃える。
「子供が腹を減らしてメシの当てで諍いを起こすのなんか気分が悪い! こんな戦いで決めるのなら絶対に後で
あんなのは調子が悪かっただけだとか
仲間になってくれた人の数で決まったとか「運が良かっただけだ! と言い出す奴が出るだろう?」
ウォークスが唖然としている二部隊に向かって話始める。
「そんなんじゃ、根本的な解決にはならねぇだろうが!」
サジーが声を荒げ、それにウォークスが答える。
「もちろんだ。だが、大事なのは後腐れを残さないように決着を付けさせる事だろう? 腹が減っては何とやらだ、戦うにしろ説得するにしろ、腹を空かせたままでは上手く回らないだろうからな。というわけで、
羊肉と
羊肉と
羊肉と
羊肉で焼肉パーティーだ!! とりあえずメシ食ってから考えよう!」
「ふむ、戦闘後に攻撃部隊の腹を膨らませ、それから話をすればよかろうとは思っておったが……なるほど先にそれをさせるか。まさか焼肉部隊がいるとはの」
アンソニーが納得する。
「お腹が減っては攻撃的になってしまいますからね、一杯食べてから何をするか決めた方が良いと思いますよ」
いそいそとサイコロステーキを用意しながら
蓬・マーグヌムが言う。
「やっぱり子供はお腹一杯食べさせてあげたいですからね、今後の事を話し合うのにも先ずは冷静に話し合えるよう体調を整えないといけませんし……さあ、焼けたものから一杯食べて下さい!」
弥久 佳宵が追加の肉を運びながらにこやかに言う。
その近くでは
デストロイシェフがどんどんと肉を調理していた。
「う……美味そう……」
クロがフラフラと今や焼肉広場になってしまったハイドホーム前に向かって歩き出す。
「え!? あ、ちょ……クロ!?」
シロが焼肉広場とクロを交互に見つめる。
「シロ、お前も行ってくるといい」
倉橋が言うと、ちょっと逡巡してシロは頷き部下2人と走っていった。
「今のうちにフールドリーマーで今回の解決法を編み出してみましょう」
葉月がいい機会だとばかりに考えに集中し始める。
「一時休戦ってやつね」
九鬼がシロの後ろ姿を見ながら呟く。
向こうからは子供たちの喜びの声が聞こえてくる。
「こんなにお肉あるんだもん、きっと余っちゃうからわたしも食べる!!」
日長 終日が嬉しそうな声でお肉にかぶりつく。
「開始前に何かしようとしてルール違反が発覚した奴は肉抜きだ! 骨をしゃぶるか脳味噌なら食べても良いぞ!! っと、そこの両部隊の助っ人達!
ぼさっとしてないで食え!」
ウォークスが両部隊の助っ人達に声を飛ばす。
「羊と羊と羊と羊のお肉追加-! どんどん焼こう! あ、火が足りなかったら妖精の火で火を熾すよー!」
この世界ではめったにお目にかかれないくらいの羊の肉がバンバン焼かれてさらに山積みに盛られていく。
「せっかくのご厚意ですから、いただきますわ」
松永がそう言って歩き出すと、皆もちらほらと歩き出すのだった。