三千界のアバター

ユグドラシル

凛冽を往く

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凛冽を往く
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3 ショクフェの村

 暖炉の焚かれた部屋の中では、ルカ姫とルキナ・クレマティスがお茶を手に談笑している。
 扉の向こうではユキノ・北河モリガン・M・ヘリオトープが、二重窓の向こうには世良 潤也アリーチェ・ビブリオテカリオが、それぞれ警邏に詰めていた。
「外は一段と冷えるな、アリーチェ。ほら」
 潤也が、暖かい木筒をアリーチェに手渡した。中に入っているのは、果実のジャムを溶かした白湯だ。ふうわりと甘酸っぱい、ゴダンジールの実の香りが、優しく漂う。
「ええ――あ、ありがと」
 硬い夜具では疲れも取れぬだろうという、アドラー将軍の計らいで、一行は道中の村で宿をとることとなった。
 しかし、村のものたちの反応は冷たく、通された部屋も、夜具と暖炉が置いてあるだけの粗末なもので、姫の行おうとしている貿易協定が、ブルクハルトの民に歓迎されていないことを、如実に物語っていた。
「それにしても、ルカ姫って嫌われ者なのかしら」
「そうさなあ。俺はああいう生き急ぐタイプ、嫌いじゃないけどな」
「あんたの話じゃないわよ」
 ゴダンジールの実は、商品としての価値が高い一方、このブルクハルトでは、神の賜物として大切にされてもいる。それを輸出しようという提案は、ブルクハルトの人々にとって現実的であっても、耳障りのいい話でないことは、想像にたやすい。
 何事かをひとりごちて、アリーチェが再びぐるりと回りを見渡した。すると、彼女の広角視野に、何者かの姿がとらえられた。
 アリーチェが潤也に合図をして、二人が身構えるや、民家の陰からルーンの光がひらめきながらこちらへ飛び込んできた。それをかわすと、今度は着弾した地面に赤く燃える火がともされた。
「――しまった!」
 燃える炎が、二人の姿を照らす。そしていくつもの気配が、こちらに対して大回りに移動を始めたのがわかった。
 それから二つ、こちらへ近づく影を、アリーチェはみとめ、潤也に合図を出した。
 前に出ているのは、細剣を携えた騎士だ。潤也はこれに己から向かっていき、素手でもって正面から対峙する。
 騎士の繰り出す突きざみの攻撃を受け流すと、潤也は細剣に竜の貫手を打ち付け、その手から取り落とさせた。だが騎士はその手を掴んで引き、寝技に持ち込もうとする。
 背中からぶつかられ、引き倒される潤也。だがそのまま腕を極められる前に、アリーチェが魔獣のブーツをひらめかせて旋脚を浴びせ、騎士を昏倒させた。
「ごめん、ありがとな!」
「言う暇があったら、次!」
 立て続けに発火のルーンが放たれ、小さな火がついては消えていく。それらをアームディフェンスでいなしながら、潤也とアリーチェは両側面から敵に攻め入った。
 そして、攻撃は同時であった。黒衣のルーン魔術師をとらえた竜の貫手と旋脚は、杖を二つに折り、意識を刈り取った。
「……中が、心配だな」
 遅い来た敵を倒した潤也とアリーチェは、残心もそこそこに、館の中へ飛び込んでいった。
 勝手口へ回ると、入り口のすぐそばでは、二人の剣士を相手取ったユキノが、小さな体を巧みに駆使して戦っているのがわかった。
 ユキノの放つ死の鱗粉の毒によってしびれた体に、攪拌の呪歌を折り重ねられ、彼らは剣を握っているだけでやっとというような状態だった。
「苦しいでしょう、お逃げになってもかまいませんよ」
「ッ――!」
 肉厚のロングソードは重さで振る武器であり、的の小さなアールヴを相手にするには、相性が悪い。二人の剣士は同じ相手に翻弄されるあまり、互いの剣を避ける羽目になっていた。
 そうして舞うように剣士たちの攻撃をかわしながら、ユキノはさらに革鎧の継ぎ目をねらってアルヴレイブを振るい、肩当てや草摺の前を切り落としていった。
 鎧を支えるベルトを断ち切られると、胴当てが枷になり、二人の剣士は目に見えて動きが悪くなった。ユキノは駆け寄ってきた潤也とアリーチェに目配せを出し、この不届き者を倒すよう促した。
 それに応えるように、彼らはそれぞれ、鋭い貫手と脚を敵へ見舞った。
「すみません、進入を許してしまいました……!」
「それなら見張りを気取られたあたしたちも同罪よ」
「……物音だ! 急ぐぜ!」
 さらに三人が歩みを進めるなか、その奥の広間では、モリガンが二人の騎士を相手にみごとな防戦を繰り広げていた。
 短槍をしならせ襲いかかる騎士を、無垢のガッダで巧みにそらし、そのまま石突きで胴当てを打ち据える。よろめいた槍の騎士をかばうように、細剣を携えて襲いかかるもう一人の騎士を、モリガンは光を導く者の盾を構えて防いだ。
 守護領域の加護を受けた盾は堅固で、並の武器では傷一つつかない。モリガンが、防いだ剣に盾をたたきつけると、騎士はたまらず後ずさった。
「姫様はやっと、柔らかなベッドでお休みになれるというのに――」
 体制を立て直して襲いかかった騎士の槍を盾でいなすと、モリガンは、無垢のガッダを強く当て、敵の槍を跳ね上げた。
 大きく開いた前の隙に向かって無垢のガッダを滑らせると、厚い革鎧にパックリと傷が引かれ、斬撃の勢いで騎士を床に転がした。
 だがそのかすかな注意の揺らぎを見計らい、細剣の騎士が、低姿勢で懐に潜り込み、下から細剣を振り抜いた。モリガンが危うくそれをかわすと、たたらを踏んで体勢を崩した。
 それを好機と、騎士はさらに、細剣を突きざみに踏み込んでくる。だが、モリガンは不安定な姿勢から無垢のガッダを回転させ、その防御能力を励起して攻撃を凌ぐと、踏み込んできた騎士の手元に、盾をしたたか打ちつけて、剣をたたき落とした。
「大丈夫ですか、モリガンさん――!」
 敵の間に飛び込んだユキノは敵に攪拌の呪歌をかけ、続いて躍り出た潤也とアリーチェが、それぞれ貫手と魔獣のブーツを構えた。
 起きあがって潤也に飛びかかった騎士は、その槍を竜の貫手に打ち砕かれ、そのまま英雄挟撃を受けて気を失った。
 そして懐に飛び込んだまま、モリガンに組み手をかけようとした騎士は、アリーチェの旋脚を後頭部に見舞われ、たまらず昏倒した。

 しばらく残心しつつ、追撃の気配がないことを特異者たちが確認したころ、ルカ姫とルキナが広間の方へやってきた。
「あら――何かありましたの?」
 ルキナは、不思議そうに広間を見渡し、首を傾げた。
 ユキノの見えない服のメソッドは、まるで手品のように、二人の目から襲撃者の姿を隠していた。
「いえ、何も。ネズミでもいたのでしょう。……それより、お夜食に焼き菓子でも如何ですか」
「それはいい。是非、いただこう」
 モリガンは笑み、淳也とアリーチェ、ユキノもまた、なに食わぬ顔で持ち場へと戻っていった。
 外では、かすかに雪が降りつつあった。
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