■アルテラ・ラクスで冬のひとときを
昼、アルテラ、ラクスの広場。
ラクスを見て回った末広場に来た
セナリア・ロイルディースは
「体が温まりそうね」
屋台営業をする12歳の少年アーライルの呼び声に誘われほっこりすべく足を向けた。
昼、アルテラのラクスの入口。
「着きましたわよ、ラクス! 雪が降って綺麗ですわよ!」
到着早々真っ先に広がる景色に驚き感嘆を上げたのは
カラビンカ・ギーターであった。何せ元アーライルのラクスの唄姫なので。
そんなカラビンカの様子に
「……(雪化粧をしたルメナスさんを見に行って……時間があったから来たけれど……正解でしたね……)」
数多彩 茉由良は口元に微笑を浮かべた。実は朝方コルリス王国の首都ケントルムに立ち寄り大樹を見た後である。
「本当に綺麗ですわね。そう言えばラクスで何かイベントがあるそうですわよ」
大樹見学という事で当然とばかりについて来た
アシュトリィ・エィラスシードは皆と共にチラシ配布者から貰った情報を口にした。
「……イベント……美味しい物沢山……」
ナイア・スタイレスはイベントという事で食べ物に多大な期待を抱いているようであった。基本食べ物を食べていれば幸せなので。
「……(皆、楽しそうね。イベントとなればスリやナンパと色々あってもおかしくないから護衛をしよう……多分大丈夫だろうけど……念には念を)」
デーヴィー・サムサラは茉由良達を見守るお姉さん的な面持ちで仲間や眼前の街に視線を向けた。
とにもかくにも
「……行きましょう」
茉由良の言葉を合図に街へ入った。
街中。
「どこも真っ白ですわ。湖も凍っていますわよ……雪降るラクスもいいですわね……歌声も聞こえて来ますわ!」
好奇心旺盛なカラビンカは雪景色と化した故郷にきょろきょろ。
しかし
「……参加すればもっと楽しいでしょうけど、少し残念ですわ。特異者になってから日々多忙で歌に練習不足感を感じられずにはいられませんもの」
カラビンカはちょっぴり残念そうに呟いた。
「……それでもいいと思いますよ……歌うのに大事なのはぎじゅつよりも心……歌いたいなら歌えばいいですよ」
茉由良は微笑を浮かべながら残念がるカラビンカを励ました。
「そうですわね」
励ましを受けたカラビンカは表情を明るくし頷いた。
その時
「あっちからいい匂いするネ」
ナイアが鼻をひくつかせながらきょろきょろと匂いの元を辿り
「あの店ネ」
匂いの出所であるホットフードを販売する屋台を見付けるや
「食べるヨ」
迷わず駆け出してしまった。
「戦いもない平和で自由な時間ですから美味しい物でお腹を満たしてみません?」
アシュトリィはナイアの後ろ姿に笑みを洩らしてから皆を誘った。
「そうですね」
「何を食べましょうか」
茉由良とカラビンカは考え込む必要無いとばかりに即答しアシュトリィを先頭に屋台に向かった。
しんがりは
「……大丈夫かな」
皆を心配するデーヴィーであった。
屋台に四人が駆けつけた時には
「……美味しいネ」
すでにナイアの両手にはたっぷりの料理が抱えられていた。何せ彼女にとって食べる事が一番だから。
「……どれもこれも美味しそうですわね。さて、どれにしましょうか」
メニューを選びを存分に楽しむアシュトリィ。
「せっかくですから……ここならではの物を食べたいですね」
茉由良がそう言うと
「それならこれはどうです?」
地元であるカラビンカがラクスならではのある料理を候補に挙げ
「おいしそうです。ではそれに」
茉由良の希望に見事に応えていた。
「あたしはこれで」
デーヴィーは直感に導かれたかのように即決めた。
そうして四人もナイア同様にお腹を満たすだけでなく暖を取った。
この後も五人は景色や飲食を楽しみながら歩き回り湖がよく見える広場に立ち寄った。
湖がよく見える広場。
「……真っ白ですね」
茉由良が真っ白な広場を見渡した時
「コフィーのスープ屋ですー。温かいコフィアやハーブがきいた飲み物や野菜たっぷりのスープやスパイスがきいたスープなどどうですかー。身体が温まりますよー、商品は全てラクスの水を使っています」
広場で営業する屋台から12歳の少年アーライルコフィーの元気な声が飛んで来た。
真っ先に反応するは
「食べるネ」
ナイアであった。手にはここに来るまでに手に入れた飲食物がたっぷりだが。
「雪降る寒い日には丁度いいですわね」
屋台に向かうナイアに視線を向けながらアシュトリィが言うと
「……行きましょう」
茉由良は行く気になり
「何を注文しましょうか」
カラビンカは興味津々の様子に
「温かい物か(ここまでは何事も無く来られたが……)」
デーヴィーは楽しみながらも警護を続けながら屋台に向かった。
屋台『コフィーのスープ屋』。
「どれも美味しいネ」
ナイアはすでにあれもこれもと食べていた。
「いい食べっぷりですねー」
ナイアの食べっぷりにコフィーは料理人冥利に尽きるとばかりに嬉しそうな顔をしていた。
「食べるは一番の幸せヨ」
ナイアは一瞬だけ手を止め自身の活動方針を言うなり食べるに戻った。
「そうですね。お腹空いていると悲しい気持ちになりますからね」
コフィーはにこにことナイアを見守っていたが
「注文いいですか」
遅れて来た茉由良に声を掛けられ
「どうぞー」
仕事を始めた。
無事に茉由良達も温かい飲食物を手に入れ
「ほわぁ、あたたまりますねぇ」
「ですわね」
茉由良とアシュトリィは温かさに和み
「……寒い日は温かい物に限りますわね」
カラビンカは自分とは違う物を頼んだお隣さんに声を掛けた。
「えぇ、身体の芯から温まって……」
お隣さんのセナリアはほっこりしながら応じた。
そうやって和んでいる時
「……歌声……どこから……」
どこからか歌声が聞こえて来て警護役を担っていたデーヴィーが真っ先に気付き
「……広場の向こう……湖から聞こえる」
出所も確かめると
「見てみましょう」
カラビンカが興味津々とばかりに向かった。
その後に続いて茉由良達と
「この声聞き覚えが……」
セナリアも続いた。
そしてリュート弾きの美しい歌声に聞き入るのだった。
昼、アルテラ、ラクス。
「……美しい雪景色……あちこちから聞こえる音楽……平和ですね……」
町中を歩く
アルテリア・ホルシュタインはあちこちから聞こえる音楽に耳を傾け平和そのものの風景に和むなり
「折角ですからどこかで一曲演奏を楽しんでもいいかもしれませんね……こういう機会は中々ありませんし、ここ最近戦う事の方が多かったですし」
自身もこの平和なひとときを楽しもうと思い立ち
「……演奏だけでなく景色も楽しめる場所がいいですね……」
雪降る中演奏場所を探し歩き始めた。
演奏場所捜索開始してすぐ後。
「……ここがいいですね」
アルテリアは絶好の場所広場が見える凍った湖の畔で足を止め
「……」
ゆっくりとリュートを爪弾き
「……♪♪」
『アーライルの発声法』で少し離れた広場にも届くよう聞き取りやすい声で歌う。
「♪♪」
落ち着いたメロディーに乗せて『清澄の唄声』による澄んだ歌声で『愛の唄』を口ずさむ。
「♪♪(……音楽は心を込めなければ人には伝わらないもの……どうか聴く人の心に届き癒しを与える事が出来ますように)」
アルテリアは心を込めて奏で歌う。
音楽とは歌い手や演奏者の思いが反映されるもの。
「♪♪」
アルテリアの心がこもった演奏と歌声は広場で憩いのひとときを過ごす者達にも届き多くの人々の心を奪った。
「……やさしい歌声……歌い手の心をかんじます……」
茉由良はふと温かな飲み物を飲む手を止め耳を澄まし
「そうですわね」
アシュトリィも同じく飲む手を止める。
「ん~……」
ナイアは少しだけ唄に興味を持ったのかと思いきや食べる事が第一のため変わらず両手いっぱいの飲食物を頬張り続け
「……すっかり皆唄に気を取られて……ここはあたしが気を付けないと……でも素敵な歌ね」
護衛役のデーヴィーはすっかり歌声に興味がいっている皆に気を引き締めるもちょっぴり心を奪われたり。
「……♪♪」
歌う事が今でも好きなカラビンカは思わず小さくメロディーを口ずさんでいた。
「……素敵ね(……歌……)」
飲み物を飲むセナリアは戦友の歌声を聴きつつカラビンカをちらり。
「♪♪」
アルテリアは雪景色にぴったりな落ち着いた曲調のものをメインにリュートを奏で
「♪♪」
優しく歌う。
いくらかして
「♪♪」
アルテリアは最後の音を奏で歌を綴り終え
「……」
演奏を終わりとした。
途端
「……すてきでした」
「今日にぴったりの歌声でしたわ」
「……良かった」
茉由良、アシュトリィ、デーヴィーの称賛が飛び
「……」
唐突に褒められるのに弱いアルテリアはすぐに反応が出来ずにいた。
続いて
「……私も」
セナリアが『オンステージ』で心構え後
「♪♪(さぁ、舞姫として皆を魅了しましょう!)」
笑顔で『川の流れのように』流麗な舞を披露。
同時に
「演奏もお任せです」
コフィーはフルートを取り出し奏で近くにいたアーライル達が歌い始めた。
「♪♪」
ディーヴァのセナリアは『静かなる輪舞』による静の舞で
「♪♪(こんな綺麗な雪景色の中で踊れるなんて……)」
静かに舞い散る粉雪の如く舞い踊り
「……まるで雪のようです」
と茉由良。
「……行き交う人が足を止めてこちらを見ているわよ」
デーヴィーは行き交う人がセナリアの歌や舞に魅了され観客になっていくのに気付く。
「♪♪(そろそろ……)」
セナリアはテンポを徐々に変え
「♪♪(静から動に)」
ヒートアップして来たら『【夜】華麗なる円舞』による動の舞に切り替えて
「♪♪(より激しく鮮烈にそして華麗に)」
より動きのある舞で観客達をさらに魅了する。
とうとう
「♪♪(フィナーレは……)」
フィナーレ間近となりセナリアは纏うホワイティルスターリィドレスに段階的に魔力を注ぎ
「♪♪(一層美しく……最後まで)」
光を吸収しあたかも煌めくダイアモンドダストを纏いながら舞っているかのように魅せ最後まで一気に舞った。
舞が終わり
「……」
セナリアがお辞儀をすると
「心、うばわれました」
「最初から最後まで魅せられましたわ」
茉由良とアシュトリィは多くの観客達に混じって感想を口にし
「もう一曲、踊りをお願いします。先の人もー。また演奏しますから」
コフィーがフルートを手にアンコールを訴えると
「先にあった演奏と唄もいいな」
「舞を見たい」
口火を切ったように観客達が次々にアンコールを口にした。
すると
「……」
セナリアは笑顔で応じてから
「……(アンコールに応えよう)」
アルテリアの方に顔を向け
「……(分かりました。演奏と唄は任せて下さい)」
広場の騒がしさを耳に入れていたアルテリアがリュートを軽く爪弾く事で戦友に返答をした。
「一緒に歌おう」
カラビンカの口ずさみを思い出したセナリアは彼女を誘った。
「わたくしですか……歌う事は好きですが練習不足感が……」
想定外の事に驚くカラビンカ。
「大丈夫よ」
セナリアは面倒見の良さを発揮し
「でしたら」
好奇心旺盛さも手伝ってカラビンカは歌姫として参加した。
「♪♪(楽しいですね)」
コフィーは楽しみながらフルートを演奏し
「♪♪(舞を彩るに相応しい音楽を……)」
アルテリアはリュートを爪弾きながら『愛の唄』を
「♪♪(全てを優しく包み込む水の様に……)」
カラビンカは『清澄の唄声』の澄んだ歌声で『加護の唄』を心を込めて歌う。
二人の美しい歌声は重なり奥深くなり
「♪♪(素敵な演奏と歌声の中踊れるなんて)」
セナリアは一層美しい舞を披露した。
アンコールの舞台は観客達を感動させ多くの拍手に包まれたという。