ミリアムとギリアムのイタズラを止めろ! 1
「クケケケケケケーッ!!」
ギリアムのおなかにあるカボチャの顔、
南瓜面瘡(かぼちゃめんそ)の笑い声が、
オクトーバーフェスト in ホライゾンヒルズの会場に響いていた。
「10月のイベントといったらハロウィンでしょ!」
「せっかくハロウィンの準備してるのに、オクトーバーフェストなんて、
別の祭で楽しむなんてゆるさないニャ!」
ミリアムと
ギリアムは、次々にビールとソーセージを麦茶に変えていた。
「待ちなさーい!
勝手なこと言って! あたしのビールとソーセージを返しなさいよ!」
ブリギットと特異者たちは、
ミリアムとギリアムを追いかけていく。
「待てよ!
ビールやソーセージだって、ハロウィンのお菓子と同じくらいうまいんだからさ!」
打手 一郎も、ミリアムとギリアムを追いかける。
「そんなこといって、いたずらし返す気ね?」
「そうはいかないニャ!」
「違うって!
まったく、しょうがないな……」
一郎は、追いながら小さくため息をつく。
(祭っていうのは参加者が楽しんでこそだ。
それはハロウィンもオクトーバーフェストも同じなのに……。
あいつらにこのことを教えて反省させないと)
そう思いつつも、一郎は、ハロウィンの準備を頑張ってくれているミリアムとギリアムの気持ちも考える。
「ハロウィンの準備、そんなに大変なのかな。
だったら、手伝おうかな……。
二人だけじゃ大変だろうし」
一郎は、ミリアムとギリアムの改心を願っているが。
「そんな生ぬるいことを言っている場合ではありません!」
白森 涼姫は、
ハロウィンの
動物化によって、うさ耳バニーガールの姿に変えられていた。
アニマルローブで、姿と顔がわからないよう、さらなる変装を行っている。
「貴方達の悪戯のせいで、
元に戻れなくなっちゃったじゃない!
こんなに人の多いところで……!
どうしてくれるのよ!」
涼姫は、恥じらいつつ、ミリアムとギリアムに怒りを向ける。
「よく似合ってるわよ!」
「かわいいウサちゃんだニャ!」
そんなことを言いつつ、ミリアムとギリアムは、
屋台のビールやソーセージを麦茶に変えていく。
そこかしこの屋台から悲鳴や驚きの声が上がっている。
「そう……貴方達がそういうつもりなら」
「え……?」
涼姫が、ウサギの姿のまま、ゆらりと前に出る。
一郎とブリギットが、ただならぬ様子を感じ、硬直する。
涼姫は、目にもとまらぬ素早い動きでミリアムとギリアムに迫り、
頭突きをかまそうとする。
ヘッドハンマーで、近くの屋台のビール樽が破壊され、麦茶が噴出した。
「きゃあああっ!」
「喰らったら死ぬかもニャ!」
涼姫の鬼気迫る姿に恐れをなし、
ミリアムとギリアムが、ホライゾンヒルズの地下へと逃げていく。
「待ちなさい!(ガッツンガッツン)」
「あたしたちも、逃がさないわよ!」
「あ、ああ!」
涼姫に続いて、ブリギットと一郎も、追っていく。
■
一方、そのころ、ホライゾンヒルズの地下では。
「せっかくのお祭りなのに、地下牢に入れられるなんてかわいそうだからな。
せめて、差し入れしてやろう」
陸奥純平(むつ・じゅんぺい)のことを心配した、
世良 潤也が
ビールとソーセージを持って、やってきていた。
もっとも、
BTD(ビール トランスフォーメーション デバイス)により、
ビールは麦茶にかわるはずだが。
パートナーの
アリーチェ・ビブリオテカリオは、
パイナップル味のノンアルコールビールと美味しいソーセージを持ってきている。
「こんなに美味しいもの食べられないなんて……。
それにしても、『本物のソーセージ』ってなんのことかしら」
「おーい、誰か出してくれー!」
「純平!」
潤也たちは、地下牢を発見すると、駆け寄っていく。
「ほら、これでも飲んで元気出せよ」
「別にあんたのためじゃないけど、
仲間外れなんて気分悪いからね!」
「ありがとう、二人とも!
……ん、これは!?」
感謝しつつ、ビールとソーセージを食べた純平だが、いずれも、すでに麦茶に変えられていた。
「あたしのパイナップルビールと、ソーセージも、麦茶になってるわ!」
「なんだって? ミリアムとギリアム、放っておくわけにいかないな!」
アリーチェが怒りを燃やし、
潤也も、正義感から、決意する。
そんな話をしていると、
ちょうど、ミリアムとギリアムが、
特異者たちに追われ、走ってくる。
「待ちなさーい!(ガッツンガッツン)」
「そんなこといわれて待つわけないでしょ!」
「そこどいてくれニャ!」
しかし、潤也が、地下の照明スイッチを切り、
アリーチェが、錬成【鉄壁】により、通路をふさぐ。
「あたしのビールとソーセージ、ちゃんと元に戻しなさいよ!」
「しまった!」
「げっ、ヤバいニャ!」
ミリアムとギリアムが、壁にぶち当たったのをみて、
涼姫は好機とばかりに頭突きを繰り返す。
「あなた(ガッツン)達が(ガッツン)
悪戯を(ガッツン)解くまで(ガッツン)
頭突きを(ガッツン)辞めない(ガッツン)」
「ちょっとやりすぎなんじゃ……。
いや、このくらいのお仕置きは必要か?」
ちょっと引きつつも、一郎がつぶやく。
「そ、そんなこと言っても、
そもそも、なんでそんなことになってるの?」
「それに今日は、麦茶化のスキルしかないニャ!
装備は全部、『ビール麦茶化』と『ソーセージ麦茶化』だニャ!
今、二人とも
スキル1:ビール麦茶化1
スキル2:ビール麦茶化2
スキル3:ビール麦茶化3
スキル4:ソーセージ麦茶化
になってるニャ!」
「そっちこそ、わけのわからないことを……あっ!」
ミリアムとギリアムは、
慌てて涼姫から逃げ出すが。
「純平のソーセージでも食べておとなしくしろ!」
解錠で、純平を地下牢から出してあげた潤也が叫ぶ。
「俺のソーセージ、1本しかないんだ。どうせならミリアムちゃんに!」
純平は、言いつつ、ズボンのファスナーを下しはじめる。
「誰が食べるか! この変態!!」
ミリアムが、とっさに、近くにいたギリアムを投げつける。
「ギニャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!」
ギリアムは、大口を開けて激突し、「陸奥純平のソーセージ」を思いきり喰らってしまう。
数秒後、ギリアムは、口から泡をブクブクと吐いて倒れ、
純平は、股間を押えて、ピクピクと痙攣していた。
その様子に、女性たちは赤面し、
男性たちは、思わず痛みを想像してしまい、「うわあ……」と顔をしかめる。
「ギリアムの尊い犠牲、忘れないよ!」
ミリアムは、その隙に、一人で逃げようと走り出す。