序章
海洋世界、ゼスト。
広い広い大海原の真ん中、いくつかの大きな船がいかりを下ろされ、静止していた。その前に、一際大きな船が同じように静止している。
この日、波は穏やかで、天気も快晴。風も弱く、気温も暑くも寒くもない。
イベントを開催するにあたって、問題は何もなかった。
この日、昼過ぎほどから、一大イベントが開催された。
その名も、海上演劇。
一番大きな船を舞台に、役者たちが練習の成果を披露している。
劇の内容はオーソドックスな、姫と王子のラブストーリー。
姫と王子、それぞれの国は敵同士。望んでもいない戦が続く中、二人は出会い、そして恋に落ちました。
戦いが終わったら、ゆっくりと二人で、静かに生きていこう。そう決めたのに、残酷な運命は二人を引き裂こうとしてきます。
知ってしまったお互いの身分。静かに忍び寄る暗殺者の魔の手。何かと理由をこじつけて戦争を起こそうとする家臣たち。
戦争を止めるため、愛する人のため、次々と襲う試練を乗り越えて、二人はついに、ある行動に出ました。
――婚儀を執り行う!
なんと、大胆にも互いの国民全体に向けて結婚を宣言。
ゼストならではの、大海原での結婚式が、今まさに行われようとしていました。
観客たちが、観覧用に用意された船の上で、オペラグラスや双眼鏡を使って見守る中、劇が粛々と進む。
「アーグ王国王女、エミ様」
結婚式の為に装飾された船の先頭、果てしなく広がる海を前に、神父の前に二人の若い男女が立っている。そしてウエディングドレスに身を包んだ少女の名が呼ばれた。
少女、エミ姫は一歩前に進み出た。彼女が来ている花嫁衣装は、やはり王族なのか、宝石で装飾され、豪華なネックレスに、美しい宝石をちりばめたティアラ、ドレスの各所に金色の糸で刺繍されていた。もちろんすべてイミテーション。ドレスも市販のものを改造したものだったりする。
「汝はいつ、いかなる時も、ヴェルネ王国王子、ルード様を愛し、尽くすことを、母なる海に誓いますか?」
「……誓います」
途端、デッキの後ろで控えているギャラリー(エキストラ)達がわっと湧いた。
「では……ヴェルネ王国王子、ルード様」
呼ばれ、エミ姫の隣に立っていた少年、ルード王子が一歩進み出た。
身を包むタキシードは黒を基調に、金色のボタン、金の糸の刺繍はもちろんのこと、腰には豪奢な装飾が施された剣を、指には何かの紋章が掘られた銀色の指輪をしていた。
「汝はいつ、いかなる時も……」
神父の誓いの口上、その途中。
かくして、試練は始まった。