【プロローグ】
世界は大きく変化していても、その中で生活する人々の日常は変わらない。
ただ、変化の混乱の中で秩序を乱す輩も多い。
各方面で傭兵団がもめ事や争乱を治めていたが、魔物の発生も増え、辺境の町までは手が回らないのが実情である。
自警団を持とうと言う流れが強まったのも、そんな背景があった。
第3層、樹冠都市ティンガネスの周辺に点在する商業地の一つの小さな町、
ロワンド。
レスクワの店はひっきりなしに客が来ていた。
保科儀 和人(ほしなぎ かずと)が
「とにかく、オレの仲間の人達が来るまでは大人しく待っててくれ。絶対悪いようにはしないから」
そう
チアルフを説得していた。
チアルフはロワンドの町を治める自警団『グラープス』の入団テストを受ける気満々だった。
ただ入団テストは危険だとしてチアルフの姉のレスクワは反対していた。
「カズトの仲間って強いのか?」
チアルフは期待の目をキラキラさせている。
「少なくともオレなんかより全然強い」
「すごいな、ねえ、カズト達って噂の『冒険者』なんだよね? いろんな町で調査したり大きな戦いとかしているんだよね!」
「いや、オレはただフラフラ旅しているだけだよ」
保科儀は自分たち特異者の説明として言葉を濁す。
ここ最近の各地での争乱や騒ぎに駆けつけて来る『冒険者』。
彼らは人々の代わりに魔物と戦い、あるいは問題を解決してくれる——特異者の一部はそんなふうに認識されているようだ。
それは噂で広がり、こんな小さな町でもその名が囁かれる。
チアルフは保科儀がその『冒険者』の一人で興奮気味だった。
(……なんだか、ベテラン扱いで期待されちゃってる?)
青井 竜一 は、二人の会話を聞いて心の中で苦笑いする。
保科儀が助けを求めるように竜一を見ると、チアルフもキラキラした目で竜一を見つめる。
竜一は肩を竦めて一端その場を離れる。
もちろん、竜一は保科儀の呼びかけに応じて来たのであり「信頼に応えよう」という気持ちは自然に湧いてくる。
ただ、なんでもかんでも手を出せばいいものでもない、ということも感じていた。