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旧式資源輸送任務の裏事情

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旧式資源輸送任務の裏事情
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 海洋都市ゼスト──。
 そのエリア10からネイティブランドの一つの街へ向けた輸送任務が今日、開始された。
 出航時から既に空は鈍色に染まっており、天気が崩れるのは目に見えていた。

 ── 航海一日目 ──

「いやはや、こんな濃霧は久し振りだ」
「まったくだ。今はまだ良いが、これ以上波が高くなると波でレーダーが誤検知するらしいぞ。──ストレート」
「あれなぁ……困るよな……。前に見たけど反応が出たり消えたりして何が何やら分かりにくい事この上なかったぞ。──フルハウス」
「やっぱりレーダーだけでも新しくするべきだな。今度、申請でもして貰おうか。──エースのフォーカード」
「てめっ!? ……まあ、他にこのルートを通る船は無いらしいから大丈夫だろ。衝突なんてねぇよ」
 波で緩やかに揺れる休憩所でポーカーをして寛いでいる船員四名。その誰もが今日の悪天候について話している。
「御機嫌よう~」
「こんにちは」
 そこに、朔日 弥生巴・ヴァーリイの二人が愛想良く入ってきた。
 その手には密造酒カクテルやシガー、コークとローズコークがある。
「暇だったので来ちゃいました。ご一緒に嗜みませんこと?」
 そう言って、二人は休憩室のテーブルの真ん中へ嗜好品を置いていく。
「おお? なんだなんだ? 見た事ねぇモンだぞ?」
 どうやらどれも初めて見る物らしく、四人は興味津々と瓶を見ている。
 その姿を見て、弥生は内心でほくそ笑んでいた。掛かった、と。
 しかし、カクテルの瓶を手にした一人が眉間に皺を寄せる。
「……これ、酒じゃねーか」
 その言葉に、他の三人も残念そうな声を上げていた。
「親睦を深める時はお酒と思っておりましたが、ダメでしたの……?」
 弥生はカクテルを持っている船員へ肩が触れそうなほど近寄り、少しばかり弱々しい声と上目遣いを使った。
 その姿にドキリとする船員だったが、すぐに真剣な仕事面になる。
「すまんな嬢ちゃん。俺達は仕事中に酒を飲まないんだよ。嬢ちゃん達も聞いてるだろ? ここら辺は輸送船を狙う奴も居るから飲む余裕なんて欠片もない」
「ですが、少しくらいならば良いのではないでしょうか」
「いいや。そういう訳にもいかねぇ。俺達は運び屋だ。酔っ払って荷物を奪われました、なんて事になったら一大事だ。首も飛ぶ。確かに俺達は休憩中なんて遊び呆けるが、荷物を守り通して届けるっていう最低限の事はするぞ」
 その瞳には確たる意志が宿っており、まるで堅固な要塞のようだ。
 弥生と巴は思う。──外堀りのこの人達ですら落とすのが難しい、と。
「だが、せっかく可愛い子が二人も来てくれたんだ。そのまま帰すのも失礼というもの」
 チラリ、とコークへ目を移す船員。
「あっちは酒じゃないようだから、それでどうだ? 俺達や嬢ちゃん達の話を肴にしてよ」
 どうしようか、と考える弥生と巴。本当に落とせるのかどうかが分からなくて何をすれば良いか考えているようだ。
「……良いですね。そうしましょう」
 何かを思い付いたらしく、巴がその案に乗った。
「皆さんの武勇伝、お聞かせ願いますね」
 おう、と答える船員達。その内の一人はグラスやツマミなんて物も用意し始めている。
(自慢話をして貰って、気を良くして調子に乗らせましょう。雰囲気が良くなった所でお酒を勧めれば、きっとこの人達も飲みだすでしょうね)
 巴が弥生へ目配せをすると、意図を読んだのか首を小さく縦に振った。
(そういう事ですわね。では、私がお酒を飲みつつ誘いだしましょうか)
 弥生が自分へ配られたグラスにカクテルを注ごうとした所──
「ああそうそう。嬢ちゃんが酒を飲むのは構わんが、それも止めておいた方が良いぞ。波で変に揺れているせいで酷い酔い方するからな」
 ──忠告を受けた。
 確かに弥生には今まで、これだけ揺れている中の船で酒を口にした事はなかった。
(……船酔いと酒酔いになんてなってしまったら、私達のやろうとしている事に支障が出てしまうわね)
 そうなってしまった時の事を考え、栓を抜いたボトルを元に戻した。
 明らかに怪しい任務──。それ故、船のコントロールを抑えて不測の事態に備えようとしていたが、いざと言う時に動けなくなっては意味がないと判断したようだ。
 堅固な要塞が、更に難攻なものへと変わっていったのを二人は感じた。
 しかし、飲みながら話してみると意外と色々な事を教えてくれる。
 その情報を、化粧直しという名目で席を立ち、朔日 睦月へ伝えた。

「……ふむ」
 睦月は弥生が入手した情報を整理していた。
 隣にはヴァンガードを控えさせ、手に入れた情報をいつでも仲間へ発信できるようにしている。
 そのヴァンガードも、弥生が文字に起こした情報を見て睦月と同じく目を細めていた。
 得られた情報を一通り目を通しても、特に不審な点が無い、なのだ。
 弥生達が船員から情報を収集している間、睦月も船内を歩き回っておかしい所がないか調べていた。
 それを踏まえた上で、船員達に不審な点が見つからない。
 ハロルドとアンジェリアについても話してくれていたらしいが、そっちも同じだった。
 むしろ、微笑ましい話だ。
 船員達はハロルド達が搭乗すると聞いて心底驚いたらしく、初めて顔を合わせた時は緊張もしていたそうだ。
 だが、その姿を見たハロルドは船長を含め、船員の全員へ酒を誘ったらしい。
 話は弾み、意気投合して仲が良くなった──そして、アンジェリアは酒で潰れた。そのアンジェリアを娘のように大事に介抱した。
 それを語る船員達はとても楽しそうだったという。
 また、船員達は侵食率48%だというのは知っているらしく、それを踏まえた上でハロルドを気に入っている。
 そのハロルドがこの任務に着いた理由は機密情報らしく、重要な荷物を運ぶ為、という事くらいしか知らないらしい。そもそも船員達はあまり興味が無いとの事。
(船員とハロルドはクリーンな関係と見て間違いないと言っても良いでしょうね)
 そして、何か妙な事を企てているとは思いにくい。
 もしそうだとしても、彼らよりも戦闘力の高い私達と敵対するメリットが無いからだ。
 仮に敵だったとしても、お酒を飲もうとした弥生へ忠告をするのもおかしい話である。
 それよりも問題なのが、この船に搭載されているレーダーだ、と睦月は思う。
 船員が愚痴を零すように『荒れた波の影響で誤検知が多くて敵かどうかの判断が難しい』と言っていたようだ。
(濃霧なのもあって、敵は相当近くに来なければ分からない……ですか。厳しいですね)
 一番の問題はこれだろう、と思う睦月。
 本当に、こんな劣悪な環境であるこの運び屋に任せたのかが不思議である。
 いくら輸出先の街が資源戦争やインテグレーターの影響で火の車だと言っても、流石にどうだろうか。
(……一先ずは途中経過連絡として皆さんに伝えておきましょう)
 ヴァンガードを通じ、睦月の整理した情報が特異者の間で広がった。
 また、弥生と巴のお陰で船員達は特異者達へ良い印象を持ったようだ。

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