三千界のアバター

氷雪少女と獣達の遊び

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氷雪少女と獣達の遊び
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第1章 氷だらけの町とリリィ

「はあ、はあっ――」
 ユミ・ハーマインは、氷付けの町を駆け抜ける。
 町を凍りづけにした犯人の方、「きゃっきゃっ」とはしゃぐ声のする方へ目指して進んでいたのだった。
「きゃっ!?」
 気をつけてはいたものの、凍った地面に足元をすくわれ尻餅をつく。
 幸い怪我はないが、強い痛みがお尻を襲う。

「痛たた……」
「また事件に首でも突っ込んでいるのかい?」
「あ……」
 なかなか立てずに居るユミに、葵 響佑は手をさしのべる。
 その後ろには如月 蓮エリザベス・オルラントの姿もあった。

 ユミはリリィを追いかけ、騒ぎを止めようとしていることを話すと、響佑は「なるほど」と頷いた。
「分かった、今回は支援に回るぞ。どれだけ成長したか見せて貰おう」
 目的が同じという点で蓮達も手伝うことに同意する。
 中でもエリザベスはリリィを捕まえることに燃えていた。

「いくら名家って言っても、これはもうテロ活動よ!」
 それを聞いた蓮は小さくため息をついた。
「リサ姉、初めはリリィから話を聞いてみようって言ってたんだけど。町の状態を見るなり、怒り心頭らしくて」
「なるほど」
 エリザベスの強い口調に圧倒されているユミと響佑に、蓮はこっそりと事情を説明する。
 そんな3人をエリザベスはじろりと睨み付ける。

「り、リリィを早く捕まえないとね!」
「あ、危な――」
 響佑はユミへ警報を放つが、ユミは、再び凍った地面へと尻餅をつく。
「うーっ……あの娘、捕まえたらお尻ペンペンじゃ絶対すませないわよっ!!」

 響佑はユミ達がこけないよう、近くの土砂を”マグナ”で操り、凍った地面の上にかぶせておく。
「むやみに動くのは危険だな」
「なら、罠なんてどうだろう?」
「そうだな」
 そう言って建物の影から現れたのは浅井 侑果だった。

   §

「きゃははっ! どこも氷だらけだ~っ♪」
 ふりふりのゴスロリ服に身を包み、幼い少女リリィは空を高く飛びながら、楽しそうに自分の成果を見渡していた。
 だが、やり尽くしたという達成感と共に、飽きもリリィを襲いつつあった。
「こんどは何をしようかな~うーん?」
「――♪」
 その時だった、地面のほうから賑やかな声と、綺麗な歌声が聞こえてきた。
 リリィは地面を見下ろすなり、「わあっ」と歓喜の声をあげた。
 そこにはドレス姿に様々な色の、”浮遊電飾”を纏い、ライアーを弾きながら唄う侑果。
 そして、重ねるように合唱するエテルナの司祭の姿があった。 
 見るからに面白そうなものをリリィが見逃すはずも無かった。

(――来た)
 ドレス姿にライアーを持って、唄っていた上空から近づいてくる気配にいち早く気がついた。
 侑果は横を一瞥し、物陰で待機していた響佑へと合図を送る。
「よし」
 砲金色で獅子の横顔が描かれた魔銃を響佑は取り出すと、リリィへと構える。
 途端その先から魔方陣が展開され、頃合いを見て響佑は魔銃のトリガーを勢いよく引いた。
 響佑は離れた場所にかかわらず、”グラビス”を込めた弾丸を、魔銃を媒体にリリィへと放ったのだった。
「にゃあ~!? なんか、おもいー?」
 体が思うように動かない感覚にリリィは体をじたばたさせる。
 そんなリリィをユミや響佑達がぐるりと囲む。

「はにゃ? お姉ちゃん達どうしたの?」
「青の元素は、生命(いのち)を繋ぐ大切な友だ。悪戯に使うものではないさ」
「む~、悪戯になんかつかってないもんっ!」
 響佑が言葉をかけるも、リリィは反省どころか開き直る。
 エリザベスの中で何かがぷつりと切れた気がした。

「『どうしたの?』じゃ無い! この一件でどれだけの損害が出てると思うの!!」
「――ひっ」
 エリザベスの気迫に負けたリリィは一気に表情を強ばらせる。
 リリィは目の前に氷の壁を作り上げ逃げようとするも、エリザベスはそれを”チャージ”で増幅させた突進によりあっさりと破壊する。
 エリザベスは”グレートソード”を取り出すとリリィに突きつける。にじみ出るような殺気にあたりは包み込まれる。
「逃がさないわよ」
「――!」
「ちょ、やり過ぎよ!?」
 慌ててユミが泣きそうなリリィとエリザベスの間に入る。
 しかり、エリザベスの矛先はリリィのみではなくユミにも襲いかかる。
「大人がちゃんと叱らないからこんな事になるんでしょ」
「リサ姉、それ逆切れ」
 収まらぬエリザベスの怒りはさらにヒートアップしていく。


「で、どうすれば良いんだこの状況は」
「とりあえず無理にでもリサ姉をとめて、リリィから話を――」
 響佑と蓮がどうしたものかと悩み始めた頃、遠くから、切り裂くような爆音がこちらへと近づいてくる。
「何の音だろう?」

 蓮は目をこらしてみると、”生体エアバイク”に乗った柊 恭也だった。
 たちまち生体エアバイクにのった恭也はリリィの元へたどり着く。
「よう嬢ちゃん、逃げてるんなら乗ってくか?」
「……うんっ!」
 恭也はリリィを生体エアバイクの後ろに乗せると、エンジンを唸らせる。
 エリザベスやユミの声はエンジン音にかき消され、何も聞こえない。

「あの子逃げるよ、響佑!!」
「ああ!!」
 侑果の言葉に、響佑は再び魔銃を構える。

「ピグちゃん!!」
 リリィが大きな声で名を呼ぶと、響佑達の目の前を黒い影が過ぎり、ユミに襲い掛かった。
 とっさの判断でユミはなんとかそれを剣で防ぐことができた。
「犬……というより魔獣?」
 4本の足にすらっとした体付きをしたそれは、鋭い牙でユミの剣に噛みついていた。
 ユミはなんとか剣を振り払おうとするが、ピグは勢いを緩めること無くユミへと追い詰めていく。
 いち早くユミの危機に気付いた侑果は響佑に”クールアシスト”でユミの危険を知らせる。
 響佑達は慌ててユミへと弾丸を放とうとするが、ユミは大声でそれを拒否した。
「こ、こっちは大丈夫だから! だから、リリィを!!」
「ああ、わかった!」
 響佑は逃げる恭也達へ向けてトリガーを引く。
 そのたびに地面から、”海陽のスカーフ”による激しい滝のような水が恭也達を襲いかかる。
 恭也は身をひねりながら、生体エアバイクを操作しそれを何とかよける。

「うおっとっと!! しっかり捕まってろよ、少し速度上げるぜ!」
「逃がさないわよっ!!!」
 恭也の生体エアバイク目がけて、エリザベスの”クロスエッジ”が繰り出される。
 だが、すべて生体エアバイクの下部をかするだけだった。
「あっかんべーだっ!」
 リリィは後ろのエリザベスに、あかんべえをしてみせると、大きな氷の壁をエリザベスの前にはやした。
 その様子に恭也も思わず「へえ」と感心する。
 ふたたびエリザベスは氷の壁へ突進を試みるも、連続での攻撃にスタミナが切れたせいか、壊れそうに無い。

     §

「ぐぅっ、このぉ!!」
「……!」
 ユミは全体重を剣に掛けることで、ようやく剣からピグという獣を突き放すことが出来た。
 だが、ピグは再び襲ってこようと体制を低くする。だがユミは全体重を掛けたことで次を防ぐ余裕は全くなかった。
 剣を離せば、避ける事も……そう思ったユミだが、どうしてもこの剣を手放したく無かった。
「っ!!」
 ユミが覚悟を決めたときだった。大きな炎の塊が目の前を通りすぎ、突進するピグへと絡みついた。
 ”炎の召喚”により召喚された炎はピグに当たること無く、周りを飛び回るだけだった。
「たいした怪我は無いみたいだけど、念のため”レフェクト”をかけるよ」
 蓮はユミへと駆け寄ると、”レフェクト”で無傷にまで快復させる。
 だが、快復が終えると同時に激しい轟音が響き渡り、ピグはあちこちの体毛を燃やしながらもユミ達の前へと立ちはだかった。
 だが、ピグは身構えるユミ達を無視し、そのまま町の奧へと消えていく。
「……高く飛び跳ねて炎から逃げたのか」

「あの子、いったいどうやってあんな獣を手名付けたの」
 ただ、呆然とユミ達は去って行くピグを見守った。

   §

「逃げたみたいね」

 蓮の”炎の召還”によって出来た、人が通れるほどの大きな穴を侑果はのぞき込む。
 だが、そこにはもう人っ子1人も姿はなくなっていた。
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