三千界のアバター

歌えないアーライルの最後

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歌えないアーライルの最後
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「――――」
 少女が目覚める。虚ろな目をした、パリナーマ。
 彼女の鼓膜に音楽や歌声が聞こえてくる。歌えない彼女の鼓膜を、心臓を震わせる。
「――――」
 耐えられなくなったパリナーマは、いつもいる小屋へ向おうとラクスにある自宅の扉を開けた。
 と。
「たのもう!」
「――」
 パリナーマの前に突如として少女が現れる。その後ろには執事のような出で立ちの男もいた。
「モ、モニカ!? いきなりで、しかも声が大きいですよ!?」
 モニカ。そう呼ばれた姿を現した彼女の名はモニカ・ウェルフェン
その後ろには多少狼狽しつつ優しげな雰囲気をかもし出す西澤 刹那が立っていた。
「おおう、そうじゃのう。ノックがなかったか。失敬失敬」
「いえ問題はそこではないのですよ!?」
 突然現れた二人は絶妙な掛け合いを繰り出していく。
 心を閉ざしたパリナーマだが、いきなりの出来事に何もすることが出来ない。というか、何もする気が起きなくなった。
「……パリナーマ様。突然の訪問、申し訳ありません。自分は刹那、こちらはモニカと言います」
「モニカ・ウェルフェンじゃ! よろしくのう!」
「少し落ち着いてください、パリナーマ様が困っています。と、いうか……さっきの『たのもう!』とはなんですか!」
 モニカの奇怪な発言を言及する刹那に対して、モニカは朗らかな笑顔を携えつつこう返す。
「なに、挑みし者はこう言うと聞いたのじゃ。してわしらもまた、パリナーマを笑わせようとする挑戦者。何もおかしな点はあるまいて」
「色々と、間違えていますから……」
 恐らく、この今の二人の姿を、地球から来た特異者が見たらならば、漫才しか何かと勘違いすることであろう。それほど、絶妙なボケとツッコミである。
 その姿を見たパリナーマの口角が少しだけひくついた。
「さてパリナーマ。いきなりで申し訳ないが、わしと友達になろうて。そして一日、話し、遊び、楽しみたおそう」
 その言葉を聞いたパリナーマの表情は暗くなり、首を横にふるふると振った。口をぱくぱくと動かす。
 どうやら『寿命、ない』と言っているようだ。
「寿命? ……はて、友達になるのに寿命が関係あるのかのう、刹那?」
「ないかと存じますよ。……パリナーマ様。不躾な申し出かもしれませんが、モニカの言う通りにして頂きたいのです。
 それに今、自分たちの仲間があなたの声を取り戻すため尽力しています」
「――」
 自分の声を取り戻す、刹那の言葉を聞いたパリナーマの顔は変わらない。その表情からは、諦めが読み取れた。
「暗い顔をするでない! 今日からわしらは、友達じゃ!」
「また強引な……。まあでも、友達になったことと、これからのためにまずは一杯」
 モニカはパリナーマの手を握り、刹那はハーブティーを差し出す。そのハーブティーは、とても優しい香りがした。
「お。花の捜索は他に任せてパリナーマの気分を変えてやろう、と思ったが……。先客がいたか」
 そう呟いた皇 仁がゆっくりとパリナーマ、モニカ、刹那に近づいていく。
 仁の気配に気づいた刹那が振り向き、一礼する。
「あなたもパリナーマ様の?」
「ああ、一緒に散歩でもしようと思ってな。……その散歩なんだが、あんまり歌とか、音楽が聞こえる場所には近寄らせたくない」
「なるほど。自分たちも散策をする予定でした。他の方は今はいらっしゃらないようですし、そうしましょうか」
「助かる。それじゃ自分も、挨拶するかな」
 仁がパリナーマに近づき、自己紹介を始めた。
「こんにちは。今日はいい天気ですね。それに友達もできたようですし、これから四人で散歩でもしませんか?」
「おおいいのう! 散歩しながら話を弾ませる! がーるずとーくじゃな!」
「なぜ率先してモニカが喜ぶのですか。というか男性が二人もいるのにガールズトークは難しいですよ?」
 モニカの言動をこまめに拾い上げていく刹那。その二人のやりとりを見て、仁は笑い、パリナーマの口角はうっすらとひくつく。
「面白い二人だ。さてと、そこの角にいい雰囲気のお店があった。ありゃ行った方がいい。行って、お菓子を食べてさ、思い詰めるのは少し休憩だ。……気持ち、楽にな?」
 仁の優しげな言葉に、パリナーマの警戒心は和らいでいく。
 そんな四人の所へ、東雲 悠がずんずんと歩きながら近づいてくる。それはもう険しい顔で。
 険しい顔をした悠が近づいてい来るのを見たパリナーマは再び警戒心を露わにする。
 仁や刹那たちも、何か危害を加えるのではと身構える。が、それは杞憂に終わる。
「ん」
「――?」
「やる」
 パリナーマの眼前で止まった悠は、ポケットから何かを取り出してぶっきらぼうにパリナーマの手に握らせる。
 パリナーマが手のひらを開けると、そこにはシンプルなデザインのペンダントがあった。露店で販売されてそうな、どこにでもあるペンダントだ。
「……」
 ペンダントを渡した悠は、またもずんずんと歩いていき四人の前から姿を消した。
「――?」
「それ、きっとパリナーマへの贈り物だ。あいつはきっと、不器用なんだろう。受け取ってやりな」
「――――」
 仁が微笑みつつパリナーマにフォローをいれてやる。突然の出来事に何が起きたかわらかないパリナーマ。
 ただ、ペンダントから感じる、口では説明しきれない温もりが彼女の警戒心を解したのは確かだった。

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