三千界のアバター

赤い月夜は収穫の刻 ≪後≫

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赤い月夜は収穫の刻 ≪後≫
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■オープニング


 1日目の夜が明けた。

「見てよ、兄貴。朝焼けだ」
 町じゅうが戦場と化した長い夜。戦い続け、動き続けることで生き延びた柊 恭也は、ミシャ・ルメイの言葉に反射的そちらを振り返った。
 太陽が半分近く昇った東の空に目を細める。
 いつの間にそうなっていたのか。夜が明けてきた兆候にも、空が闇色を薄め、白くなっていることにも気付けなかった。
 つまりはそれほど余裕を失い、追いつめられていたということか。
 ほんの一時、恭也はそのことを自覚し、深呼吸することでそれを払しょくしようとする。
「恭也」
 周囲が明るくなることで、伊勢 日向が恭也のほおについた火傷に気づいた。具合を測るように指を伸ばす。
 籠城した集会所が火攻めにあい、脱出する際に負った火傷だった。外で待ち構えている敵を油断させるため、ギリギリまで炎のなかに残っていたせいで、恭也に限らず全員がこういった傷を体のあちこちに負ってしまっていた。
「痛みますか?」
「大丈夫だ」ふいと指から顔をはずして、下に向けてあったレーザーガンを持ち上げる。「それより、今のうちに各自武装の点検をしておこう。またいつどこから来るとも――」
 流した視界に路地で動く影を見つけて言葉を切る。隠そうともしていない気配に、瞬時に全員の銃口がそちらを向いた。
「きみが確認もせず銃弾をばら撒くようなやつでなくてよかったよ」
 軽い口調で路地からひょこりと姿を現したのは、中折れ帽を目深にかぶった男――同じ馬車でこの地にやってきたメルバック・グラストシェイドミナ・ロックローズだった。
「無事だったのか」
「はてさて、今われわれを取り巻く事情は何も変わっていない。まったくもって変化のないこの状況で「無事」という言葉がはたして似つかわしいとは思えないのだがね。まぁ、きみの用いた意味では無事ではあるかな」
「そうか」
 相変わらずの言葉遊びか、と恭也は内心辟易する思いでため息をつく。
「無事を喜びあう気もないなら、再会できてうれしい気持ちもないんだろ。
 何の用だ。言いたいことがあるならさっさと言え」
 疲労から余裕が底をつき始めていた。とげとげしい言葉になってしまったのは承知の上で、じっと見つめる。
「僕と会えて喜んでもらうつもりもうれしがってもらうつもりもないが……そうだな、少々の感謝ぐらいはしてもらってもいいかもしれん」
「感謝?」
「そうだ。せっかく手に入れたこれを譲ってあげようというんだからな」
 またうさんくさいことを言い出したぞ、と眉をひそめる恭也の前、メルバックは長方形の小箱を取り出した。

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