三千界のアバター

無謀な対決?

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無謀な対決?
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プロローグ
 父娘で営む町の食堂の存続を賭けた勝負を翌日に控え、エリカは唇を固く結び、相手料理店の方をキッと睨みつけた。あんなやり方をする店には負けない。いや、なんとしてでも勝たなければならない。
「町のみんなのためにも……」
 しかし、強力な相手に勝つ方法を、彼女はとうとう思いつくことができなかった。なによりも相手に勝てるほどの売り上げを出せる食材が手に入らない。父親との二人だけでは調達にも行けず、不安は募るばかりだった。
「お願いよ、誰か助けて」
 そんな風に目を閉じてうつむいたエリカの前に、複数の人影は現れた。
「あなたたちは――」

食材はすぐそばに!
 町から徒歩でそれほど遠くない、山の中。一見何の変哲もない自然が広がるそこで、目を凝らしてみればわずかにごそごそと動く茂みがあった。
 黒髪の少女が全身に植物をまとい、静かに息をひそめる。
間違いない、獲物はあの茂みにいる。
 少女――葛城 吹雪はゆっくりと音を立てないよう匍匐前進で進んだ。一見すれば狩人のような彼女だったが、静かにかつ素早く地を這うその動作は歴戦の兵士そのもの。
「フフフ……自分から逃れることはできないのであります」
 その鋭い眼光が、一瞬を見極め、握りしめたコンポジットボウに力がこもる。
「今!」
 放たれた矢が鋭い風音を立てて空間を切り裂く!
 それは茂みから飛び出してきたウサギのような姿の小動物の急所を射抜き、見事に仕留めていた。
 吹雪のスキル、隠れ身、疾風の矢を最大限に生かした無駄のない狩りは、見ている者がいれば思わず感嘆の息をもらしたであろう鮮やかさだった。
「これくらいあれば料理の種類も豊富になりそうでありますな」
 小動物を拾い上げ、これまでの戦利品をぐるりと見回す。
 動物に限らず、食べられそうな木の実やきのこなど様々なものを集めた袋はずっしりと重そうで、はち切れんばかりだった。
 満足げに笑い、さっそく戻って報告をしようと彼女は袋を背負いあげた。

 そのころ、町の周辺部を駆け回り、農家への交渉を試みていた結城 しゅーりは本日何人目かの住民と遭遇していた。
「そうは言ってもなあ……新しい店の方が高く買ってくれるからうちとしてはそっちの方が助かるんだよな」
 この日の収穫を終えて、うずたかく積まれたブラッシカを一瞥し、男は困ったように頬を掻く。なんでも、収穫できた分だけ売ってほしいと頼まれているらしい。
「そうか、情報通り手が回っておるんやね」
 にやり、と彼女は微笑む。
その笑顔に何かよからぬものを感じた男が一歩後ずさりをするも、時すでに遅し。しゅーりがワールドイズマインを発動し、気づいたころには農家の男は女装のむさくるしい男たちに囲まれていた。
「な、な……!」
 混乱状態に陥り、言葉をなくす彼にしゅーりはさらに追い打ちをかけてドリーミングを発動させる。あっという間にフリフリドレスに身を包んだ、これまたむさくるしい男が完成した。
「よし、これで完成や!」
 そういってフィルムカメラをぱちり。
「これ、今の姿をばっちり記録してんねん、ばら撒かれたくなかったら……わかっとりますね?」
 食材を分けてくださいますよね、としゅーりは迫る。
男は女装をさせられたショックに、カメラが本当にその姿を記録しているのかどうかを確認することなくぽっきりと折れたのだった。

「な、なにをしているの?」
「ああ、ええところに!ちょっと手伝ってくれへん?」
 行商人らしき青年と街道方向からやってきた白森 涼姫がしゅーりの前にうなだれる農家の男と交互に見て首を傾げた。そして荷車いっぱいのブラッシカを見てあわてて駆け寄ったのだった。

 話は少し過去にさかのぼる。涼姫はステイティオに足をのばしていた。
 家庭的な味を売りとしているアレク食堂だ、エリカとアレキサンダーの希望により、あまり高価な食材は避けてほしいとのことだったが、店の目玉となりそうないいものがあればと彼女は考えた。
「カーセウスはいかが?よく熟成されたいいやつが手に入ったんだ!」
「カーセウスか……」
 聞き耳を発動して最大限に情報を集めていた彼女は聞こえたその声を逃さない。
 チーズによく似たカーセウスは保存性もよく、様々な料理に使える。
「すみません、カーセウスを見せていただけませんか?」
「もちろんさ!遠くの酪農家が大事に作ったカーセウスだ。そのまま食べてもよし、パーニス(パン)に乗せて焼いてもよし!」
「これ、少しお安くなりませんか?」
 遠くからの品物なので少々値が張ってしまう。涼姫は行商人の交渉術で値切りを試みる。
 はじめは渋っていた行商人の青年だが、町の料理店が定期的にまとめて買い取るように交渉すると涼姫が言うと、それならば少しは安くしてもいいとの考えを示した。販売のライバルもいるし、いつもいつも売れるとは限らないからだ。
 そうして涼姫は行商人の青年を伴って、町へと戻ったのだった。
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