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あたらしいおともだち

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あたらしいおともだち
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おいでませおともだち

 ずんと沈んだ空気に満たされている農村――、ここはナズナ村。妖狐に呪われてからというもの、活気なく、怯えた顔の村人が行き交うばかり。しかしこの日には、いつもと違う明るい声が響いていた。
 
 
 「はーい、理香子さんっ! こっちの油揚げは任せてください!」
「こっちの具は、これくらいの大きさでいいのでしょうか。何分、不慣れなもので」
キャロル・モリアーティは、大鍋を前に元気良く声を上げる。包丁を手に理香子に尋ねるのはアルバート・エヴァンスだ。その手元を時折、大祝 夕鶴姫がぱたぱたと覗きこむ。理香子は米を炊きながら、お願いします、と両者に頷いた。
 村一番の大きな台所を拝借して、一行が作っているのは稲荷寿司だ。お狐様と村人の信仰が深められるように、と提案したのがキャロル。きちんと祀ってあげればお狐様もまた村人と仲良くなれると、お供え物を作る提案をしたのが夕鶴姫。稲荷神には稲荷寿司をお供えするものだとアルバートが同調して、村人の何人かと協力しての大料理会に発展した。一行に感化されてか、この日はあちこちの家で食事が作られている。

 「予定通りに事が進んだら、みんなで食事会ができたらいいですよね。村の人達とお狐様とみんなで!」
「そうですね、その為にはたくさん料理を作らないといけませんね」
アルバートは茸を細かく刻みながら、キャロルの言葉に答える。迅速かつ丁寧に包丁を動かすのは、想像以上に難しい。一部、ひどく不恰好になったり細かく切りすぎたりしてしまった茸を見つめて、アルバートは眉をしかめる。
「……やはり、本を読むだけでは会得できませんね、こういったことは」
慣れない作業に緊張しているせいもあるだろう、いつもより手も動かない。その袖を夕鶴姫がくいくいと引く。
「頑張るのじゃアル。お狐様はきっと寂しがっておるのじゃ、供物をしてきちんと祀れば、必ずや仲良くなれるに違いないぞ! そのためにも準備はしっかりするのじゃ」
「そうですね。……夕鶴姫さん、ちょっとお口を拝借します」
「む? ……あむ。このきのこ、うまいのう」
興奮気味に話す夕鶴姫の口に、切るのに失敗した端切れの茸をいれると、夕鶴姫は少々落ち着きを取り戻して大人しくなる。そこでアルバートはふと思い出したことを、夕鶴姫に尋ねてみた。
「その供物のための祝詞について、村長さんに聞きに行くと言ってませんでしたか?」
「うむ。そうしようと思ったんじゃがの、肝心の村長さんが呪われておるらしくての。もうしばらく待機なのじゃ」
「そうですか……。あちらもうまくいくといいですね。僕たちは僕たちにできることをしましょう。ねえ、キャロルさん」
茸を刻み終えたアルバートが、油揚げを煮込むキャロルのほうを見ると。

 「理香子さん理香子さんっ! 私、稲荷寿司のほかにも油揚げ使った料理作ろうと思ってるんです! レシピいくつか持ってきたんです! 見てもらえますか?」
「そうなんですか? 是非見せてください」
「はいっ! 定番にお餅いれて煮るのもいいですけど、刻んで緑物と和えるのも、いいと思うんです!」
キャロルは理香子に猛烈なアピールの真っ最中だった。尻尾がぱたぱた嬉しそうに揺れる。彼女の視界に入っていない鍋はぐらぐらと沸騰していた。
「……。」
アルバートは静かにその火を弱める。
「む? アル、勝手に手を出してもよいのか?」
「ええ、口よりは手を出したほうが良いかなと……」
「ふむ?」
温和な笑みを浮かべるアルバートに、夕鶴姫は首をかしげる。キャロルはそんな様子に少しも気づくこともない。理香子と話をすることが嬉しくて仕方がないといった様子に、アルバートは緊張していた手が少し和らぐのを感じた。
「どれもおいしそう。材料もたくさんあるみたいだし、作ってみましょうか。お社の修理の方の差し入れにもなりますしね」
「はいっ!理香子さん!」
理香子の言葉に、キャロルは嬉しそうに返事をした。


 理香子たちが料理をしているのと同時刻。ナズナ村の裏山からは、トンカンと小気味よく木槌の音が響いていた。
 集落からやや山間に入ったところにお社はある。が、先日村を襲った大風は傍にあった木を薙ぎ倒し、鳥居と社の正面を潰してしまっている。カイル・アークライトはそれを渋い顔で見つめていた。
「……方位は問題なし、図面を見る限り構造も悪くない。老朽化はあるとはいえ、工事にそこまで時間はかからなさそう――とはいえ……。倒木か。地面に問題があるなら、ただ建て直すだけじゃまた……」
小さく唸るカイルの顔を、浅見 朱鷺子が心配そうに覗き込む。その手には花束や植物の苗が抱えられている。
「朱鷺子、それは?」
「これですか? お社の周りに花を植えようと思いまして。四季折りの花で華やかになれば、足を運ぶ人も増えるでしょう」
「花……花か。そうだ、樹木の類はないのか? 木の根で地面が固まれば、ここまでやられることはなくなるんだが」
「木の苗ですか。でしたら、村の人たちに頂いてきましょう。麓には果樹林もあったようですし……」
言いかけた朱鷺子の後ろから、ミルドレッド・リンドバーグがぱっと顔を出す。
「果樹林! いいじゃん! 栗とか柿とかどうかな? 花もいいけど、実が食べられるんだったらもっといいだろ?」
「花より団子の典型例か、てめーは」
楽しそうに笑うミルドレッドに、カイルがちいさくため息をつく。
「いいじゃありませんか。素敵ですよ、果樹林作っちゃいましょう。栗も柿も、丈夫な根を張ってくれますし」
「ほらほら! 朱鷺子も言ってるだろ!」
「わかったわかった、好きにしろ」
カイルは諦めたように首を振る。
「じゃあ朱鷺子! ちゃちゃっと苗貰いに行ってこいよ! その間に社のほう直しとくから」
「ありがとう、行ってきますね。……そうだカイルさん、この花、あとで植えるまでしばらくどこかに置いておいていただけますか?」
朱鷺子が手にしていた花達をカイルに手渡す。カイルはしばらくそれを眺めた後――、何本かの花を抜いて別に抱えなおした。
「カイルさんそのお花は?」
「植えるばっかじゃなく、供えるもんも必要だろ。こういうときは。ほら、さっさと行って来い」
朱鷺子は背中を押されるようにして、手伝いの村人と裏山を降りていく。カイルの選ぶような手つきが気になって、道すがらそのことをぼんやりと考えていた。

 ミルドレッドを中心に特異者たちの助力を受け、倒木を撤去してからは、復旧作業は順調に進んでいった。社の修理だけでなく、村の各所でお狐様を迎える支度をしているのも、村人の気力を支えているのかもしれない。
 「この分なら、明日には終わりそうだな。よかった、もっとかかるかと思ってたんだ」
九曜 すばるは社の内装を整えながら言う。小さな社だが、すばるの小柄な体ならさして苦でもない。
「なんか、お社の中にすばるが入ってるとお狐様みたいだな!」
「ついでにお狐様の気持ちもちょっとわかればいいけどな」
外から覗き込むミルドレッドに、すばるは少し照れくさそうに返事をした。
「よいしょ。じゃあ開き戸つけるぞー。中からもちょっと支えてくれるか?」
「ああ、まかせ……」
ミルドレッドが扉を支えるのを手伝おうとして、すばるはふと、妙な胸騒ぎを感じる。寂寞感、閉鎖感、そんな暗い感情だ。不思議に思って周りを見て、理解する。
 ここは、あまりにも、暗い。
 扉の閉じられた社の中は、暗くて狭くてどことなく心細い。お狐様がここにいたかはわからないが、もしもここに朝も夜もずっと居たらと考えると――少し気が遠くなる。
「……なあ、この社もっと明るくならないのか? あんまり居心地が良くない。帰る家になるかもしれないんだし、どうせならいいところがいいだろ」
「そうなのか? でも、カイルが極力元の形に戻したほうがいいって言ってたぞ。いい思い出があるところならなおさらだろ?」
ミルドレッドの言葉に、すばるはまだ納得いかずに口ごもる。やがて蝶番が取り付けられた扉を、ミルドレッドは大きく開けはなつ。差し込む陽光がすばるの目に沁みた。
「閉まってるのが寂しいなら、たくさん開けに来ればいいじゃん。これからはそうなるといいな!」
すばるは、まだやや閑散としてはいるものの、草花の種や苗が植えられた境内を見る。やがて花畑や果樹が並ぶ華やかな場所になるのだろうか。そこに人が来るのならば、たしかに寂しいことはないに違いない。
「……そうだな」
すばるは小さくうなずいた。

 「ただいまもどりました、カイルさん」
社の修繕が終わるころ、朱鷺子が社に戻ってきた。村人にわけてもらった苗を手分けして植えながら、朱鷺子はカイルに話しかける。
「わかりましたカイルさん、さっきとったあの花、日々草ですね? もうお供えしたんですか?」
「ああ、さっきな。……そんな花だったか?」
「はい。どうしてあの花を?」
「深い意味はねーよ。ほら、こっちはまだ資材の整理で忙しいんだよ」
カイルに追い払われて、朱鷺子は微笑みながら社に足を向ける。カイルが一つ一つ霊力を確かめた木材、お狐様のために元通りに建てられた、真新しい木の匂いのする社。賽銭箱の傍には、簡素な日々草の花束が置かれている。
「日々草の花言葉は、楽しい思い出、それから――、『あたらしいおともだち』」
朱鷺子は堪え切れなくなって、くすくすと笑みを零しながら呟いた。
「もう、素直じゃないんですから」

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