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いたずら狐にご用心?

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いたずら狐にご用心?
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 八章 神遊び

「ああっ、もう! 見つけたと思ったら囮だし! 愉快犯は出るし! こんどは放火騒ぎですって!? どうなってんのよ、もー!」
 セクハラを行った狐に復讐を誓った星川 鍔姫だったが、攪乱の効果はてきめんで、多くの特異者がそれらの捕縛に割かれたうえ、あっちへこっちへ引きずり回され、肝心の狐捕獲を目論む鍔姫たちは見事に肩すかしを食らった形になっていた。
「まぁまぁ、そのうち現れるさ。鍔姫ねーちゃん、なんか気に入られてるみたいだし」
「冗談じゃないわよ!」
 久世 紫紋が笑いながら言うと、鍔姫は首を振って否定した。そうやって会話していくうちに、遠くで声が上がる。それは連鎖するようにこちらへ急速に近づいてきて、ものすごい速さで鍔姫たちの横を通り過ぎた。ごう! と唸りを上げる風が吹き、短い悲鳴を上げて鍔姫はスカートを押さえた。
「おおっと、いつかのねーちゃんじゃねーか。まだそんな腰巻してんのかい! 脚がまぶしいのはいいけどさ、風が吹いたら中身が見えちまうぜ!」
「なっ、なっ……あんたはっ!」
 ぼろだった服があちこち焦げ、さらにすすけて黒ずんではいるが、こがねいろの髪に尾をもつその妖狐は、まちがいなく鍔姫に破廉恥を働いた妖狐、こがねであった。
「いたあっ! 捕まえるわよ!」
「おおっしゃそうこなくっちゃ! やれるもんなら、やってみなあっ!」
「うわあ、鍔姫ちゃん待って!」
 遅れる紫紋を捨て置いて、鍔姫をはじめとした特異者達がこがねに殺到する。先陣を切ったのはシア・クロイツ。九字を切り、懐から妖縛符を取り出すと、きらりと目を輝かせて待ち受けるこがねに迫った。
「……悪い子には……おしおき……です」
「遅い遅い!」
 放たれた符を躱し、直接張ろうとした手も回避する。だが、背後を取ったこがねの耳に飛び込んできたのは、いたく冷静な指示の声だった。
「ルナーリア……捕まえて」
「わかった」
 ばっと振り返ったこがねの真上からルナーリア・クロイツが降ってくる。取り押さえようとするルナーリアの体を間一髪で回避して、こがねは一転して距離を取った。
「おおっとぉ! そう簡単にやらせやしねーぜ!」
「……女の子の恰好をして……恥ずかしい思いをしてもらいます」
「そいつはぞっとしねーなねーちゃん! おいらはやっぱりかわいい子を眺めてるのがいいね! こうやってさ!」
 距離をとったはずのこがねの体が掻き消える。そちらに向けて符を放っていたシアが驚愕に目を見開く。と、腰元に違和感。浄衣の袴がいつの間にか解かれていたのだ。すとん、と袴が落ちる。無言でそれを眺めていたシアがぺたん、と座り込んだ。それを見てルナーリアが激昂する。
「僕のシアちゃんに何てことするんだ! アホ狐!」
「へっへーん! 幻術に惑わされる方がアホなのさ!」
 怒りに任せてぶんぶんと振り回す攻撃は一向に当たらず、けらけら笑いながらこがねは避け続ける。罵倒を続けるルナーリアの言葉はだいぶ低レベルに落ち着いて、子供の口げんかの様相を呈していた。
「何だと! 虫みたいにちょろちょろと!」
「虫ならもっと気軽に着物に入り込めるな! それはそうと、大事なねーちゃんをほっておいていいのかい?」
「あ――ってこの!」
 慌てて振り返ったルナーリアの背後でこがねがぶわりと飛び上がる。一息で今度こそ距離を取ったこがねはもそもそと衣服を整えているシアを見下ろしながら笑った。
「じゃーなねーちゃん! あんまり長く止まってちゃ、追いつかれちまうからな!」
「……待ちなさい……倍返し」
「そいつは勘弁だぜ! あーばよっ!」
「待て! アホ狐!」
 そうしてひょう、とこがねが屋根から飛び降りた時、背後からとんでもない勢いで走る二人がシアとルナーリアの隣を駆け抜けていった。
「まぁちぃなぁさぁあああい!」
 素早過ぎるというわけでもない。攻撃をするわけでもない。だが、その気迫と熱気はちょっと道行く人が道を譲ってしまう程度にはすさまじかった。あたかも海を割る聖人の如く、逃げるこがねを最短距離で追うのはアイラ・ハルトマン。その後ろから呆れ半分でついてくるのは相田 弘美だった。
「おお、こいつは気骨のありそーなねーちゃんだ!」
「少年! そんなに不健全なことばかりしていてはいけないわ! そんなんじゃ駄目よ! もっともっとアツくなって、溜まったものを吐き出さないと!」
「アイラちゃん、それ大分いけない意味に聞こえると思う……」
 だがアイラは耳を貸さない。妙にきらきらした表情で、全力でこがねを追って走り続ける姿は、控えめに言って暑苦しかった。
「そう、あなたが悪戯をしてしまうのは! 青春の青きリビドーが発散できていないから! あの朝日に向かって走って、青春の汗を流せば、そんな気も起きなくなるわ!」
「ねーちゃん、今は夜だぜ……」
「え? なら走るのよ! 夜明けまで!」
「アイラちゃん無理。それ無理。え? 本気? ちょっと、無理だよ! ねえちょっと聞いてお願い止まってアイラちゃん!」
 だだだだだだ、と土を蹴る音が祭囃子に紛れる。諦める、迷う、という事を知らないアイラの走りは、ただ純粋にしつこかった。つられてこがねの走りもまた同じような直線になる。
「あははははは! いいぜねーちゃん! そういう泥仕合は大好きだ!」
「狐さん! 私は体力もたないから早く捕まって! それから悪戯はもうしませんって言って!」
「いやぁ、それはそっちのねーちゃんが認めないんじゃないかなあ」
「当! 然! 欲求不満はいけないわ! 朝日が昇るまで、全力疾走よ!」
「ボクが捕まえるしかないのか……!」
 弘美が表情を引き締める。朝まで全力疾走という苦行を回避するためには、こがねを捕まえる以外にもはや方法がないことを悟ったのか、呆れ気味だった走りに力が籠る。
「お、ねーちゃんもやる気になったかい?」
「やる気を出さなきゃ、捕まってくれないでしょ!」
「おうよ! 遊びは本気でやらなきゃつまらないからな! でも、本気でやっても捕まえられるかどうかはねーちゃん次第だぜ?」
「捕まろうよ!」
「やだね!」
 たん、とこがねが地面を蹴って人ごみを飛び越える。そこを全力疾走するアイラと弘美
が突入していき、人垣が割れる。本当に朝まで続くかと思われたその鬼ごっこはしかし、新手によって中断されることになる。
 出火騒ぎが起きるまで、音楽や踊りが披露されていた広場に飛び出したこがねは、異様な空間に飛び込んでしまったことを悟る。
「こ、こいつは……?」
 周囲を埋め尽くす、女、女、女。当然里の者や旅人など、祭に元々参加していた人間もいるが、布の面積が圧倒的に少ない服を着た女性達を唖然として、いやだらんと鼻の下を伸ばして眺めていた。女性の方はといえば、そんな男どもを白い目で眺めている。ともあれ、尋常な空間ではなかった。
「と、桃源郷!? いや、幻影か! ってことはどこかに術者が――いやいや、いやいや、引っかかるなおいら。駄目だぞ。さすがに罠だぞ……!」
 止めかけた足を動かして術者を探す。見れば、やはり女性に触れようとした男どもが目を白黒させながらすり抜ける手を不思議そうに見ている。やはり幻影、とこがねが確信した時、頭上からからからと楽しそうな声が響いた。
「あら~。素直に鼻の下伸ばしてつかまっとったら、ええ思いができたのになぁ」
 振り仰いだこがねの頭上、屋根の上に腰かけて見下ろしていたのは結城 しゅーりだった。
「大がかりな幻術を仕込んだもんだなあ、ねーちゃん!」
「さて、ほんとに幻術かどうか、身を以て知るとええで。ほな」
 きらり、としゅーりの目が光る。怪しいその輝きにぞわり、と毛を逆立てたこがねが、その声を聴いた。
「行け、美女軍団改め、益荒男女装衆」
 ぼむ、と言う音を立てて周囲を埋め尽くしていた布面積の少ない服を着た女性達が、服装はそのままに、むくつけき男どもに変貌する。絶叫と黄色い声が同時に響き渡り、男どもの怨嗟の声がこだました。
「んな、んなあっ!?」
 恐ろしいのはそれだけではない。幻影は視覚だけにとどまらず、嗅覚にも影響を与えていた。冷静に見れば、それはしゅーりのすぐ近くにだけしか影響していないことに気付けただろう。その冷静さを奪い去れる程度には、しゅーりの用意した幻影は衝撃的だった。
「ほーらほら、早く逃げないと、筋肉まみれに汗まみれや、でっ!」
「ぬおおおお!」
 よくわからない絶叫を上げて、こがねがぎりぎりでしゅーりの投げた網を回避する。幻影だと最初に見抜いていなければまず間違いなく捕まっていた。ばくばくと早鐘を打つ心臓を押さえつけてこがねは魔の領域を離脱する。注意するべきはしゅーりのみだとわかってしまえば怖いものではなかった。だがそこまでに至る動揺は半端なものではない。
「こ、これは今までで一番怖い手だったぜ、ねーちゃん!」
「や、やっと追いついたわ、観念しなさい、このエロガキ!」
 そうやっている間に、ぎりぎりのタイミングで鍔姫と紫紋、そしてアイラと弘美が追いついた。こがねは広場の中央。それを取り囲むように五人の特異者が広場に突入した。
 まだ冷静さを取り戻し切れていないこがねがばっとそちらを確認する。その一瞬、紫紋の目がぎらりと光った。
「鍔姫ねーちゃん、ごめん!」
「え?」
 鍔姫が問い返したその時、呆気にとられるほど大胆に、ほれぼれするほど鮮やかに、紫紋が鍔姫のスカートをめくった。ぶわっとひっくり返るスカートの下は純白。もし、妙な幻影で動揺していなければ、こがねの神経がすり減っていなければ、眼福眼福と言って逃げ去ったことだろう。
 はっと鍔姫が事態に気付いた時には、こがねもはっとして鍔姫を見上げていた。跳ね上げたスカートの下に潜り込んで、しっかと鍔姫の美脚にしがみついていたこがねは「しまった」という顔をしていた。真横で紫紋は「してやったり」という顔を浮かべていた。
 直後、振り上げられた杖に、二人の表情が凍ったのは言うまでもない。
「ばかああああああああああああああああああああ!」
 どごん、と鈍い音が二つ、広場に響いた。


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