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いたずら狐にご用心?

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いたずら狐にご用心?
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 六章 人外の理解者

「だああああ畜生! 誰かあいつを捕まえろおおおおお!」
 祭の混迷は最早どうしようもないところまで高まっていた。それもそのはず。この祭で悪戯を目論んでいたのは狐一匹ではないことが、始まってからわかったのだから。狐一匹を捕えればよいという腹積もりでいた里の者らは、完全に翻弄されていた。
 こがねと同じように炎の妖気をちり、と纏わせながら祭を駆け抜けているのは闇野 名無しだ。騒動に紛れて巧妙に隠れながら、あちこちで悲鳴と怒声を量産していた。これもまたこがねと同じようなぼろの隙間から、異形の触手が伸びる。妙にねとつく粘液を纏ったそれが素早く、道行く女性の着物の裾に潜り込んだかと思うと「ひやぁ!?」という悲鳴が上がる。即座にそこから離れ、今度は別の出店で鍋をひっくり返す。八面六臂の大活躍だった。
 だが、ひっくり返した鍋に並んでいた客の一人が名無しの姿を捉えた。客とはいえ、妖気を隠そうともせず、袖から常に触手を出している異形のもの。桜井 ななみだった。
「見つけたわよ、悪戯小僧!」
 炎の妖気、悪戯、セクハラ、子供。少ない情報から当たりをつけ、逃走の一瞬を狙って一気に触手を伸ばす。しかし、それは同じく名無しから伸びた触手によって鞭のように弾き返される。
「!? 狐じゃない!?」
「……」
 だが、ともあれ里の人間に仇なす者は捨て置けない。あちこちで捕まった他の悪戯者達と同じように、捕縛しようと肉薄する。だが名無しも同じ異形の使い手。簡単に捕まるはずもなく、するりと出店の裏手に回り込んで隠れる。だが、そこまでななみと、もう一人の特異者の策のうちだった。
「貰った!」
 逃れた名無しの死角から九曜 すばるが飛び出す。不意を突かれた名無しは触手で応戦しようとするも、滑り込んできたななみの触手で相殺される。体を捕えて地面に押さえつけると、そのままななみの触手がぐるぐると巻きついて名無しをす巻きにしてしまった。
「観念しなさい!」
 ぐうの音も出ないほど完全に捕縛された名無しは、相変わらず険のある目つきで二人を無言で睨んでいた。見たところ言われた通りに、大人しく捕まっている様子の名無しに、立ち上がったすばるが詰め寄った。
「何故こんなことをした。妖狐の悪戯に便乗したのか?」
 詰問調のすばるに対し、無言を守っていた名無しが初めて口を開いた。
「気が付かない? 粗末ななりの狐が、致命的でない悪戯を繰り返している。その気になれば、脅すことだって出来る妖狐が」
「……事情は、何かあるんだろう。でも、悪事は悪事だ。不満があるなら別の形であらわすべきだ。話す機会もなく悪戯をしてばかりじゃ、こうなることは分かり切っていた。それより、キミがこうした理由だ。狐の肩を持ったのか?」
「それとも愉快犯? もう、何人かとっちめたけど」
 ななみとすばるの詰問にも、名無しの目つきは揺るがない。どこか人そのものへの憎悪じみたものがそこからにじみ出ているような、そんな視線だった。ゆっくりと、噛んで含めるように名無しが話し出す。
「ここまで放っておかれて、それでも人間の肩を持つ、あの妖狐を助けるため。とんでもないお人よしの妖狐が、少しでも楽になれるように。人間以外として」
「お人良し……?」
 名無しが頷く。首をかしげるななみだったが、隣で話を聞いていたすばるはわずかに眉をひそめた。同じ妖狐として、やっとなぜ飢え続け、ろくに妖としての力を里で使わなかったのかに想像が届き始めたのだ。
「供え物は貰えない。信仰もない。体力も能力も削れる一方。管理されない土地で地脈は乱れる。それでも土地を去らずに、里の者から恨まれてまで管理を続ける狐が、お人よしでなくて、何?」
 そこまで言うと視線を外し、名無しは里山の方角を見て続けた。
「嘘だと思うならあの山の中ほどに登るといい。すぐにわかる」
「……土地神だったのか。信仰を失えば力を失う。それでも管理を続ければ、最悪の時は……」
 すばるが表情を曇らせる。最悪の時、とは、地脈が乱れきって天変地異が起きた時だ。そこまで行ってしまえばもはや里も狐も助からない。今のうちになんとかしなければ、大変なことになるのは目に見えていた。
「だったらすぐになんとかしないと! 悪戯なんてしている場合じゃないじゃない! 里の人に事情を説明して……」
「困った時に都合よく助けてくれる神様に頼って、何もしない里の人間を作る? 地脈の暴走を待たずに狐は死ぬ。関係が崩れる」
「あーもう! あんたの言ってることは正しいわよ! そーよ人間はそういう奴らよ! でもね、狐のやり方だって間違ってんの! なんで人と神様の関係にこだわるのよ! もっと別の関係だってあったっていいでしょう!」
 ななみが怒声を上げる。反論を続けていた名無しが黙る。元々は、神などという座に縛られない獣だったはずの妖狐が、その座に固執する理由も、その過ちも、すべて飲み込んだうえで協力していたから。
「……続きは本人に聞くとしよう。キミを拘束する」
 すばるの言葉に名無しはため息をついて体の力を抜いた。しかし、遠くで悲鳴と共にすさまじい炎の妖気が立ち上る。祭の喧騒を貫くように広がったその妖気に、ななみ達全員が体を固くする。
「不味い」
 一声上げると名無しは憤怒の炎を纏い、ななみの触手を焼いた。「あち、あちち!」と叫ぶななみの拘束が緩んだ一瞬をついて名無しが炎の妖気の爆心地めがけてまっしぐらに跳ぶ。
「逃げる気!?」
「いや、様子がおかしい。僕たちも急ごう!」
 すばるの言葉に頷くと、ななみ達も名無しを追って爆心地へ急いだ。
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