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いたずら狐にご用心?

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いたずら狐にご用心?
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 二章 思い出の温もり

「えい畜生。どいつもこいつも勝手気ままに言いやがって!」
 あちこちで演じられていた神と人との関わりについての演目。どこか、それは寄り添って行こうとしなかったお前のせいだ、という糾弾にも見え、妖狐はなんとはなしに腹が立っていた。里の人間か、この間ちょっかいを出した旅人か、誰かは知らないが、薄々そういう背景にあたりがついている者がいるような気配がしていたのだ。うっかりまた尾と耳が出そうになり、慌ててぺたぺたと髪を撫でつける。
 そうしてまた黒髪の男の子になった妖狐は、てけん、てけとん、と騒がしいがどこか間の抜けた音が近づいて来るのに気付いた。今までの、芸事というべき、大がかりなものとは違ってどこか親しみやすい音が近づいてきた。
「あっつあつのうどんを啜りゃあ、心も体もあったまるってなもんだ! さあさ、さあさとお寒い奴はついといで! 美味いつゆとコシの入ったぁうどんがくいてぇ奴は、ついといでってなぁ!」
 てけとん、てけちん、と金物や、鼓を利用したらしいチンドン太鼓の音に合わせて歌い、ひとしきりしゃべるとハーモニカを吹き鳴らして歩いてくるのは叢雲 耀だった。その後ろ、絶えず騒がしげに太鼓を打ち鳴らしているのは嵯峨山 槇。背中に貼った「鎧鼠笑事」の文字はこの妙な二人組の総称だろうか。
 などと考えているうちに、うっかり男の子はそれについていってしまった。彼女達二人の後ろには、そうやってついうっかりついてきてしまったのだろう、様々な人がもの珍しげについてきていた。そんな不思議な魅力がこの二人にはあった。
 新しく列に加わった男の子に槇が気づき、ほろ酔いの柔らかい笑顔をこちらに向けてきた。ぷらん、と何かふわふわした毛で縫われたアルマジロの人形が太鼓の先で揺れ、てとん、とまた太鼓が鳴った。
「なあなあねーちゃん、そのうどん屋、うまいってのは本当かい?」
 たまに「テル、お酒ちょうだい」と言ってはちびちびと酒を飲ませてもらっていた槇に、男の子が声をかけた。ふわん、とした様子で振り返ってきた槇は太鼓をたたく手を止めずに応える。
「本当も本当よ? 何しろテルのいい人がやっているお店ですもの」
「お、おい槇ちょっと……」
「へぇ~」
 あらぁ? と悪戯っぽく笑う槇に、男の子は同じ天邪鬼の気配を感じたのかにやっと笑った。慌てる耀を冷かしながら、チンドン屋に導かれた客たちが陽気に体を揺らしながらついていく。なんとなく不満げだった男の子の雰囲気が、うまいものの気配と陽気な音楽でだんだん和らいで行くのを感じたのか耀、が気持ち陽気にハーモニカを吹き鳴らす。張り合うように身軽に跳ぶ男の子は、危うくまたこがねいろの尾を出しそうになり、慌てて頭と帯を抑えてたたらを踏んだ。
 そうこうしていくうちに、少し里から外れた山裾の広場に、茣蓙が敷かれている一帯に出た。それほど大きくもない出店で、たん、たんとうどんを打っている音が聞こえ、耀がそれに気付いてぶんぶんと手を振った。
 それに気付いたのか、うどんを打っていた未次 始が驚いた顔で耀の後ろに連なる行列を見た。
「これはこれは……凄い数を連れてきたな」
「へへっ、ハジメさんとこが繁盛すると思ってね。それと――」
 耀が本当に僅かな時間、黒髪の男の子を見る。それだけの合図だったが、始は頷いた。それを確認すると耀は現れた時と同じような騒々しさでてけとん、てけちん、という音と一緒に去って行った。
 一部はそれにまたついていったが、当然、うどんを一杯貰おうという魂胆でついてきた人々はそこに残る。当然のようにその群れの中に突っ込まれた男の子は背丈が足らずに飛び上がっては押しのけられ、という様子になってしまう。
「さて、そこの茣蓙に順に座っていってほしい。座っている席が早い順番に用意させてもらおう」
 始がかけたその言葉でまた人が流れていく。それをどうにか躱しながら、男の子はようやく出店にたどり着いて跳ねた。
「にーちゃんにーちゃん! おいらにも一杯おくれよ!」
 始は手を止めずに彼を見、頷いた。
「勿論。だけど、茣蓙の方にいると君は埋もれて分からなくなりそうだ。少し内側で待っていてくれ」
「ほんとかい!? にーちゃんいいやつだな!」
 頷く始の隣をするっと抜けて、出店の内側に入り込む。そこでは、打ちあがったうどんを茹で、つゆの入った椀に次々と放り込みながら給仕をするアーヴァリア・ホロスコープの姿があった。入ってきた男の子の姿に気付くと、自分たちの休憩用に敷いてあったのだろう茣蓙を指し、アーヴァリアは優しげに声をかけた。
「そこでちょっと座っててね。ちょっと珍しいものが仕入れられたから、君にはそれを用意するわね」
「珍しい?」
 問い返す男の子にウインクすると、それには答えずにアーヴァリアは給仕に戻った。首を傾げながら男の子が茣蓙の所へ向かうと、ちょうど出店の設えに隠れて見えなかった場所に遠近 弓弦がいた。弓弦は驚く男の子にぺこり、と一つお辞儀をした。「こんばんは」
「こ、こんばんは。その、隣……」
「ええ、どうぞ」
 朴訥と言うべきか、純朴というべきか。弓弦の真っ直ぐな人柄に面食らいながらも、ちょこん、と男の子は弓弦の隣に控えめに腰かけた。
 ぐらぐらと鍋の煮立つ音、タネを打つ音、客の呼びかけ、そんな雑然とした音で満たされているのに、出店の一角、男の子が座っている場所はどこかそこから離れていた。しばし、そんな音に囲まれながら、せっせと働く二人を後ろから、ぼう、として見ていた男の子は、突然目の前に差し出されたおにぎりともみじまんじゅうで現実に引き戻された。
「食べます?」
「いる!」
「どうぞ」
 いきなりの驚きよりも、空腹感が先に立った男の子は、考えるよりも先に返事と手が出ていた。鮮やかな手さばきでおにぎりを掴み、口に運ぶ。豪快な食べっぷりを横目に見ながら、弓弦もまた自分の分のおにぎりに手を伸ばした。
 そうこうしているうちにアーヴァリアが二人分のうどんを椀に乗せて持ってきた。にこにこしながらやってきたアーヴァリアがおにぎりを頬張る二人に声をかけた。
「はい。始さんが揚げ物油の用意に苦労してたわ。油揚げ付きよ」
「油揚げ!?」
 差し出された椀に浮かぶこがねいろの油揚げに、ぽん、と音を立てて男の子の頭から耳が跳ね上がる。にこにことそれを眺めるアーヴァリアの視線に気づいたのかさっと手を耳に当てるがもはや手遅れであった。
「あら、あらあら、良かったわ喜んでもらえたみたいで」
「あ、う」
「大丈夫さ。わかっていたからね」
 後ろから自分たちの分を携えて始がやってくる。「お客様は?」「一区切りさ」などとアーヴァリアと言葉を交わしながら茣蓙の空いた場所に座る。喜びやら驚きやらで目を白黒させている妖狐に、始は笑いながら答えた。
「楽しくなると、尾の変化がうまくいかなくなるようだね。その服に、綺麗すぎる帯はよく目立つ」
 言われて見下ろすと、ふさふさとした尻尾が腰に巻かれているのが目に移った。あっと声を上げて尻尾をぴんと立てるが、それを見て三人が笑った。
「ほらほら、のびる前にいただきましょう?」
 アーヴァリアの声に、おずおずと妖狐は椀を受け取り、木を削って作った箸を手にうどんをすする。揚げたての油揚げを口に含むと、驚いた顔をした後、夢中になって齧り始めた。それを見て始が言う。
「良かった。大和は食用油が手に入りづらくてね。苦労した甲斐があったよ」
「そりゃあそうさ。油っていったら高級品だぜ。――あ、おいら金」
「いいさ。お客からお金は取っていない。君からだけ取るのは変だろう」
「にーちゃんほんとにいいやつだな!」
 ぴこぴこと耳を動かしながらうどんを平らげる妖狐を見て、一緒にゆっくりと食事をしていた弓弦が声をかけた。
「あの、どうしてご飯を里の人から取ったりしたんですか?」
 それを聞くと、満足げに腹をさすっていた妖狐は、少しふて腐れたように膝を抱えた。
「……食べるものが足りないからだよ」
「山には?」
「ある。あるからまだおいらは死んでないんだ。でも、狩りをしてばっかじゃ、山は荒れてくばっかだし、おいら、このへんの地脈の調子とかも見てるから、全然足りないんだ」
 それを聞いていたアーヴァリアが口を挟む。
「女の子たちにえっちな悪戯をしたのは?」
「嫌がられるためさ。ねーちゃんたちはよくしてくれたからしない。カミサマがやんちゃしたら、お供え物をして少し静かにしててくれ、っていう風にお願いするのがカミサマとのお付き合いだろ? それときれーなねーちゃんはいいもんだ。それは大事なことだぜ」
 頷く妖狐の隣で弓弦が首を傾げる。どうやらえっちな悪戯というものがどういうものかわかっていない様子だった。しかし、それを一時おいておいて、弓弦はさらに突っ込んで聞いた。
「一緒にこうしてご飯を食べれば良かったんじゃないんですか?」
「……にーちゃんたちのために働くから飯をくれ、って頼むのかい? そんなことしたら、おいらたちは人間の奴隷になっちまうよ。いっくらおいらが、好きであいつらの面倒見てるからって、そんなになったらおしまいだ」
「好きで?」
「あ、や、理由が、あるんだ。おいらには」
 不機嫌そうに話していた妖狐はぽりぽりと頭をかき、ばつが悪そうに言いよどんだ。ふと、何かに気付いたように始が里の中央の方を見、妖狐に声をかけた。
「狐の少年、今、町の人達は君を懲らしめようと捕まえようとしている。そろそろ行ったほうがいいだろう」
「……わかってるさ。真正面から相手してやるために来たのさおいらは。そいつがカミサマのやることだろ?」
 すっくと立ち上がった妖狐にアーヴァリアが声をかける。
「君の悪戯が本当に嫌な子もいるから、ちゃんと謝りなさいね?」
「あいつらが謝ったらな!」
 ふん、と鼻息を荒くし、飛び去ろうとした妖狐がふと足を止める。
「おいら、『こがね』ってんだ。にーちゃん、ねーちゃんたち、あんがとな。恩はいつか返すぜ。おいら、それだけは忘れないんだ」
「その、こがね、ちゃん」
 弓弦が妖狐を呼び止める。妖狐が振り返ると、たどたどしい言葉で弓弦が声をかけた。
「大事な、理由なんだと思います。だから、困ったら私に相談してください。友達になりたいと思っていますから」
 妖狐はにかっと笑って親指を立てた。
「へへん、おいらは大丈夫さ。またなねーちゃん!」
 ぴょう、と一気に飛んで行ってしまった妖狐を見送りながら、弓弦が呟いた。
「話してくれませんでした」
「すぐには無理よ。さて、狐君が酷い目に遭わないように、ちょっと頑張っちゃおうかな」
 アーヴァリアがそういうと、弓弦も始も頷き、出店を畳み始めた。
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