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いたずら狐にご用心?

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いたずら狐にご用心?
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 エピローグ

 頭に巨大なたんこぶを作ってす巻きにされたこがねは、つーんと澄ました顔で広場に鎮座していた。すぐ後ろでは「ごめんなさっ、あだっ! 鍔姫ちゃっ、あぎゃっ! ごめっ、ごめん! 痛い! ごめん!」と紫紋が悲鳴を上げ続けている。度重なるセクハラにとうとう何かが切れてしまったのか、鍔姫は半泣きになりながら殴り続けている。おそらく、動かなくなるまで続ける気だろう。
「さて、とうとうとっつかまえたぞ、こんの悪戯小僧……!」
 色めき立つ里の者。広場には他にも捕まった者らがごろごろと無造作に転がされていた。その中でこがねは、ふん、と鼻で笑った。
「へっ、殴って自分の気は済んで、それでさようなら、かい? 本当に、なーんにも覚えちゃいねえんだな!」
「んだと手前!」
「ま、待って!」
 拳を振り上げた職人風の男が、脇に控えていた女性に止められる。見れば、冷静さを失った藤麻が、こがねともろともに吹き飛ばしそうになり、こがねが庇った女性だった。
「その、さっきはありがとう。助けてくれて」
 一部始終を見ていなかった他の者らがどよめく。そちらを振り向いて、女性が説明する。
「さっきの火事から助けてもらったんです! 私!」
 何人かがその言葉に顔を見合わせ、どういうことか、とこがねを見る。不本意そうにそっぽを向いたこがねの顔を覗き込み、女性が問いかけた。
「御免なさいね。こうでもしないと、落ち着いて話も出来なくて。さっき、他の人達が、土地神とか、神様とか言っていたのを聞いたの。それから、僧兵、天山が一番弟子……っていうのも。ね、お願い。私たちは何を忘れているのか、教えて。きっとそれが一番大切なことだと思うの」
「……」
 こがねは黙したまま語らない。どうしたものか、と困り果てていたところに、広場に足音が一つ、近づいてきた。
「変な意地を張っておるのよ、そやつは」
 その場でこがねに注意を向けていた全員がその声に振り向いた。立っていたのは紫月 幸人を肩にかついだ九曜 豊姫だった。「はやい……こわい……くらい……」とうわごとのようにつぶやいている幸人を肩から降ろすと、つかつかとこがねに歩み寄った。反抗的な目でそれを見上げてたこがねだったが、豊姫の尾の数を見るなりびくう、と緊張した。
「な、なんであんたみたいな大物まで!?」
「ふむ。嫌な予感は的中、小僧はへそを曲げ、満足に自分で説明もできん、と。仕方がないのぅ。今回は特別じゃ。私から説明してやろう」
 おほん、と咳払いをした豊姫に何か言いたげな視線を向けていたこがねだったが、じろりと睨まれてそのまま縮こまった。
「まず、こやつが何者か、というところからじゃ。炎の尾を持つ妖狐、『こがね』というのはこの土地に居つくまでのこやつじゃ。この里を故郷とする僧兵、天山の遺言に従ってこの土地に居ついてからは、土地神としてここ一帯の山、河川、田畑をめぐる地脈を管理しておった」
 どよめきが広がる。「お前聞いたことあったか?」「いや……」という会話がそこかしこで聞こえる。ふん、と豊姫は鼻でそれを笑う。
「それよ。こやつが悪戯に走ったのは。こやつの格では地脈の管理だけでも手に余る。己の命をつなぎながら、周辺の土地で起きる問題を始末し、土地が病にかからぬよう管理し続けるというのは、思われている以上に重労働じゃ。こやつは天山との約束がある故、見捨てることはせなんだが、誰からも顧みられることなく、一人土地を維持し続けるのはさぞかし辛かったことじゃろうて」
 どよめきが高まり、こがねに視線が集中する。こがねはうつむいて何も言わない。豊姫の言葉を聞いた先ほどの女性が声を上げた。
「でも、それなら、助けてほしいと言ってくれれば……」
「神の身からそれを言い出せると思うか? というより、忘れ去られた子狐一匹、そうやって里にやってきたらば、化かしに来たと思って叩き出さない自信はあるかのぅ? よしんばそれを信じたとして、下手に出てきた子狐一匹、いいように使ってやろうと思いもせんと、言い切れるかのぅ? 妖とて無駄に齢を重ねているわけではない。その程度の頭は回る。それ故、こやつはこうして里に損害を出し、思い出してもらえることを祈ることしかできなんだ。こやつの未熟ゆえ、でもあるが、の」
 そこで一度豊姫は言葉を切った。ようやく起きだしてきた幸人が頭を振り、言葉を引き継いだ。
「その山の真ん中くらいかなぁ。確かにぼろぼろのお社があったよ。生活感は溢れてたけどね! で、まぁ、住処があんなに荒れてたらそりゃストレスもたまるよ。里のために働いてたって話だし、少しは待遇改善とか、あってもいいんじゃないかなぁ」
 ざわざわと里の者らが話し合う。言葉の端々に同情や感謝が見え隠れはしているが、それはそれ、これはこれとして、悪戯への怒りが収まっていそうになかった。しかしこがねは完全にへそを曲げている。ため息をつきながら豊姫が再び口を開こうとしたとき、先ほどの女性がしゃがみこんでこがねと視線を合わせた。
「御免なさい、神様。今まで忘れていて。ご苦労をおかけしました。私達、これからはきちんとお供え物をして、神様のところまで通います。だから、これからも一緒にやっていけませんか?」
 うぐ、とこがねが言葉に詰まる。それを見た豊姫がおかしそうに笑った。一人とはいえ、里の者がかんしゃくを起こす子供に、めいっぱいの譲歩をしてみせたのだ。ここで折れなければ、今度こそこがねは悪者になってしまう。しばし逡巡していたが、こがねは、うつむきながら、ぽつり、と答えた。
「いいさ、おいらも悪かったよ。次から、ちゃんと話をする。天山のことも、皆に話す。めいっぱい遊んでもらって、おいらもだいぶ気が済んだよ。ありがとう。それから、御免なさい。もうしないよ。これからも、よろしく」
 にっこり笑って、女性が里の皆を振り返る。まあ、そういうなら、という顔で、皆納得しようとしたその時、半泣きの顔のまま、もはや悲鳴も上げなくなった紫紋を置いて現れた。
「皆気がすんでるとこ悪いけど、散々セクハラされた、無関係なあたしの気持ちはどうなるわけ!?」
「そりゃ、ねーちゃんがおいらをとっちめるために雇われたから……」
「雇われてないわよ! 詳しく話を聞こうと思ったらあんたが突然人の、お、おしり触ってきたんじゃないの!」
「え?」
 激昂する鍔姫とは対照的に、す巻きにされたままのこがねが青ざめる。
「話を受けたら、両方の言い分を聞くのがまず最初でしょう! そのくらいの分別はあるわよ! あんなことされなければちゃんとあんたのことだって考えたわよ! それを、それをっ」
「ご、ごめんよ! おいら早とちりしてた! 知らなくて……」
「知らなくて?」
 鍔姫の声が上ずる。あ、と誰もが思った。下手な言い訳で完全に怒りのスイッチが入ってしまったのだ。
「あんただって里の人と同じことしてんじゃないの! いい加減にしなさいよ! 勝手にへそ曲げて人に迷惑かけてんじゃないの!」
「ごめん! ごめんなさい!」
 それほどに怒っても、しっかりこがねの事情にも配慮しているあたり、さすがの鍔姫というべきだろうか。からからと豊姫が笑う。つられて皆も笑う。あちこち焦げはしたが、神と人が交わる祭は、無事に終えられることができた。
 長い夜が明ける。もうそんな時間になっていた。白み始めた空に、鍔姫の怒声と、半泣きになったこがねの謝る声が溶けていった。

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担当マスターより

▼担当マスター:宇賀野美也

マスターコメント

 「いたずら狐にご用心?」のリアクションをお届けします。宇賀野です。
 さて、いかがでしたでしょうか。普段殺伐とした話ばかり書く私ですが、今回はふと気が向いてお祭り騒ぎのお誘いをさせて頂きました。が、蓋を開けてみると、がっつり戦いに来ている方がいらっしゃって、つい筆が走ってしまいました。相変わらず皆様のアクションを楽しく拝見させていただき、執筆させて頂いております。ありがとうございます。
 神と人との関わり、というのは昔からそれなりに殺伐としたものでした。恩寵も災害も過ぎれば共に障りある穢れとして排斥されるものですから、なかなかバランスを取るのが難しく、どうしても極端になってしまっていたようです。今回の一件も、もし特異者が関わらなければ、行く所まで行ってしまっていたことでしょう。いやはや、実に危ないところでした。
 私の名前そのものも宇迦之御魂神より取らせて頂いたものでもあり、お狐様は大変好きな神様でもあります。是非、穏当な関係を続けてもらいたいものです。

 それでは、またどこかの世界にて、お会いできる日を楽しみにしております。