■プロローグ■
「所長、この世界のこと、どう思います?」
「どうした唐突に。国じゃなくて世界ときたか」
事務所の椅子に座り、カラシニコフ探偵事務所の所長、
アーシャ・カラシニコワは窓の外を見つめる助手を見遣った。
「国や組織の思惑なんて関係なしに、世界が現状……この仮初の平和を維持させたがっているように感じましてね」
「だろうな。戦争の再開だ和平による完全な終結だ上の連中は謳ってるが、実際のところ、この緊張状態がずっと続いている方が都合がいいと思っている」
新聞を畳み、パイプを吹かせた。
「自分はそれでいいとは思いません。ただ」
「変化が起きれば、何もかもが変わってしまう。……良くも悪くも。
かつて“A”は我々に選択を迫ったが、実際にその時が来て、今の人類に答えを出すことができるか」
「できないから、恐れているから現状維持のまま。
でも、東西どちらも、どう転んでもいいように各々のやり方で技術は発展させてきた」
助手が言葉を続ける。
「受けた依頼の先に依頼主に不都合な真実があったとしても、請け負った以上は仕事を全うする必要があります。
正直に伝えるか、あえて相手を慮るかはその時の選択次第ですが、答えを保留するのは仕事放棄です」
「……影で暗躍しているように見えて、その実各々の上にその気はない。
ただ我々は踊らされているだけ、ということか」
「とはいえ、影に生きる者たちの多くは、全てが終わった後陽の下に出られないでしょう。
彼らにとっても、きっと今が続く方がいい」
「君もまた、終わらせたいがこの関係……今のこの仮初の生活に居心地の良さを感じてしまっている」
「ダメだとは分かってるんですけどね」
この表の身分は、A機関の目的が達成されるまでの、あくまで仮のものに過ぎない。
「何も難しいことじゃないさ。全てが終わった後、このまま表の稼業として続ければいい。
あとはそうだな――」
アーシャの提案を聞き、助手が吹き出した。
「相変わらず強引ですね。でも、確かにそれなら自分たちは変わらずに済みますね」
「最後にものを言うのは力だよ。ま、そのための根回しは必要だろうがね」
* * *
「ホロ、大丈夫?」
『ああ、カーミラか。……平気だ、意識ははっきりしている。
少し夢を見ていた。昔の夢をね』
決して戻ることのない、最も充実していた日々。
それを捨てると決めたのは、ほかならぬホロ自身。
『終わらせて、終わらせない。さあ、仕上げといこうじゃないか』
■目次■
プロローグ・目次
【2】西オデッサの強硬派を制圧せよ!1
【2】西オデッサの強硬派を制圧せよ!2
【2】“S”を確保せよ!
【4】市民を守るために1
【4】市民を守るために2
【4】市民を守るために3
【4】市民を守るために4
【4】市民を守るために5
【3】伝承が集う場所にて1
【3】伝承が集う場所にて2
【1】月へ降り立った者
【1】【チーム:ローズハニー】の捜索
【1】【チーム:アセスクラウンズ】の捜索
【1】【チーム:サクラメント】VSチェルノボーグ大佐
【1】深部をめざして
【1】VSダニール伯爵1
【1】VSダニール伯爵2
【1】“A”の正体
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