【中へ】・2
次の瞬間、船の舳先に女が現れた。
女は船体の横を流れていく巨木に飛びかかり、口を開けた。ーー見る間にその木は女の体内へと収まる。
「う、うう……苦しい……苦しい!!」
女が絶叫する。
女の股から、先程の巨木がずるりと抜け出る。
「あの木……生きている!!」
レイチェルが叫ぶと同時に、巨木の怪物が枝を振り上げて襲いかかってきた。
万物を喰い、化物として産み落とす怪物……八鬼衆、獣母の産み落とした怪物だ。
「このまま化け物を生み出し続けられたら持たないぞ!!」
レイチェルの剣撃に合わせ、フランツの銃弾が巨木を牽制しようとする。
「……!」
レイチェルは枝を切り払うように力強く剣を薙いだ、が、船の柱に大きな傷をつけてしまった。
「ごめんなさい! 不可抗力――」
「あんまり船体壊しな、壊さすな! 修理の弁償代請求されたら、なんぼほどバイトせんならんかわからんぞ!」
泰輔は細かいことを気にしつつも、アサルトカービンで獣母を牽制する。
幽巫を相手に氷術の氷を放って牽制していた顕仁が、船を喰らおうと飛びかかってきた獣母へと雷術の雷を放つ。
その隙にと幽巫が顕仁へと接近してきたのを見計らい、腐蝕の凶刃を込めたリーブラチップを打ち込んだ。
「殴り合いは苦手じゃ。火龍の杖も、鈍器として扱われるは不本意であろう」
「いきなりこの居場所を見つけてくるなんて……シャンバラ全土ほどの闇龍さんです。その広い領域からピンポイントで闇航船を発見するなんてわたし達の情報が把握されすぎです」
あえかは、闇航船に発信機のような仕掛けが付いているのではないかと考えた。
メイドさんネットワークに速報で上がっていた、闇カブトムシではないかと考え、掃除をして闇カブトムシを取り除こうと考えたのだ。
「全世界のメイドさんのお役にも立つでしょうし、何より汚れは見過ごせません。闇カブさんをお掃除しつつ過程と結果を報告です!」
ハウスキーパーで各所を点検しつつ掃除をしており、重いものや高い所も、スマートリフトで対処して、見逃さない。
「何かいます!」
あえかが見つけたのは、八鬼衆の綿毛だった。
ふわふわと空を舞いながら、契約者たちの体内に入り込み、内臓を喰らおうと狙っていたのだ。
素早くあえかは綿毛をアクアカウンターでいなすと、洗剤を巻いた。
「ちいっ!」
綿毛はふわふわと浮いたまま離れていく。
「こっちにも!」
あえかが見つけたのは、また小さな虫1匹だった。
だが、メイドさんネットワークで情報を仕入れていた、八鬼衆の蟲籠だということにすぐに気付く。
「なかなかやりますね」
数匹の虫がより集まると、そこには大きな傷を負い、小柄な老人となった蟲籠の姿があった。