■ダークヴァルキリーを『解放』するため『討伐』せよ!(2)
一度はダークヴァルキリーへの道を切り開いた契約者たちだが、水晶の兵隊も鏖殺寺院の古参兵も数を減らしてはいるものの未だ存在し、契約者の妨害を行わんとしていた。
「また来やがったな、いいぜ、相手してやる!」
ドリル・ホールが突撃銃を構え、銃弾を浴びせて兵隊を退けようとする。
「仲良し姉妹の仲違い……聞いた話じゃどっちも根は一緒だって話じゃねぇか。だったらまた仲直りできんだろ」
そう考えるからこそ、ここでダークヴァルキリーを間違って『斬る』ことは許されない。鍵を握る理子は正しく理解するまでスレイブオブフォーチュンを抜くつもりはないと言った。それを阻む者がいるなら……退けるまで。
(ダークヴァルキリーは、女王ジークリンデの妹君。
姉妹の絆程度のことを守ることが出来ない女王陛下を戴いて、大きな建国の『絆』を言うは……信頼できるでしょうか?)
攻撃に晒されたドリルへ癒やしの力を施し、戦線の維持に貢献する
ジョン・オークが心に思う。
(大帝は、運命だ、とおっしゃっていた。
ですが変えようがない運命と決めつけ諦めては、この先も努力をする甲斐がないというものです)
故に、ここで二人の絆が断たれるようでは、たとえ国が復興したとて長続きはしないだろうとジョンは思う。
(女王陛下のパートナーがどんな選択をするか……見守ることにしましょう)
(断片的な記憶しか覚えておられないご様子なのはネフェルティティ様も、にございましょうか)
鏖殺寺院の古参兵が繰り出すナイフを、
ユースタス・ヴァンダンの振るった槍が弾き飛ばす。続けて突きを繰り出し防弾ジャケットを貫かれた古参兵がどさり、と地面に膝をついて倒れた。
(忘れ果てて、迷いがないのは楽にございますよ? 忘れ果てていること自体を除いては)
ジークリンデもネフェルティティも、真面目だから。忘れ果ててしまえば耐えようのない罪悪感に苛まれ続けるだろう。
(……どうするかはお二人と、パートナー様のお考え次第ですが。
さて、私は……誰かへの義理立てがあって戦いに臨んでおられる方々の支払いが早く済むよう、協力させていただきましょう)
(ロレンツォ君は信じているんだな、姉妹の絆を。
けれど、近しく親しいが故に、ボタンを掛け違うと当事者同士ではもうどうしようもないんだ……)
槍を振るうユースタスが囲まれないよう、
クロハ・カーライルが片手銃の光条兵器で弾幕を張り、援護する。
(だからこそ、時にはパートナーの力が必要になるんだろうね。ま、それは任せるとして。
混乱に乗じて暴力を振るう輩を退治することに関しては、異論ない。手伝おう)
羽ばたく鳥に気を取られた古参兵が直後、頭を撃ち抜かれて地面に倒れた。
剣の形にまとめあげた光条兵器で水晶の兵隊を斬り伏せ、周囲に新たな敵の姿が見えないのを確認して、
アリアンナ・コッソットがふぅ、と息を吐く。敵の進行は味方によって大方食い止められており、今相手をしたのは味方の壁をすり抜けてやって来たいわばイレギュラーな存在であった。
(味方の支援に感謝しないとね。……ロレンツォは無事かしら?)
視線を向けた先、
ロレンツォ・バルトーリは理子の護衛として健在であった。そのことに重ねて息を吐き、アリアンナは敵の動向を、そして事の行く末を静かに見守っていた。
「あなたは2500年前、姉君の行動を憎んで国を滅ぼした。姉君である女王陛下を憎んでではなく。
シャンバラを愛するが故に、御謀叛に踏み切られたのだろう……だが民たちもろとも滅ぼすことは、あなたの望みだったか?」
カル・カルカーの言葉に対し返されたのは、過剰なまでの暴力だった。闇弾の雨がカルと
エヴァ・サヴァレーゼ、ロレンツォと理子を絶え間なく襲う。
「カル、お前の言い分はストレートだと思う、今の言葉も届いたのだろう。
だからこそ放つタイミングは考えてくれ、いつも真っすぐがいいとは限らないぞ?」
「だが――いや、そうだな。頭が冷えた。ありがとう、エヴァ」
「まったく……まぁいい、一旦退くぞ」
過去の行いを非難するような言葉は例えるなら、ナイフで腹を抉るようなもの。心が暴力に支配されている、支配を受けてしまう決して強いわけではない人間がそれを受ければ、防衛的に反撃するのも至極、当然と言えるだろう。
つまり――ネフェルティティは、そしておそらくはアムリアナも、強くはない人間なのだ。だから過ちを犯し、国を滅ぼすという失敗をしたのだ。
「憎しみは愛の裏側。たくさん愛して、失望してしまったときに、間違えると憎んでしまう。
愛していないならば、憎むこともなイ」
「女王ならばすべてを解決できた……ダークヴァルキリーの言葉が真ならば、女王にはそれだけの力があったのだろう。
だが女王はそうしなかった。ダークヴァルキリーはそうすべきだと考えた。そしてどちらも、シャンバラを愛していた」
ロレンツォとエヴァの言葉を、理子は自分の中へ取り込む。今自分が、自分が手にした力で断つべきものは何か――。
「斬るのはダークヴァルキリーの何か。斬り捨てていけないのは何か」
「何をしようとしていたかが語られない以上、推測でしかないがな。言葉足らずだと問い詰めたところで答えが返ってくるとも思えない」
「ネフェルティティ様は、警告をしているように思える。このままシャンバラを復活させるのは過去の過ちを繰り返すようなものだと言っているのではないだろうか?」
三人の言葉に耳を傾けながら、理子は真に自分が斬るべきものの正体を見極めようとする――。