■周囲の敵を排除し、ダークヴァルキリーへの道を切り開け!(1)
『――――!!』
ダークヴァルキリーの撃った闇弾を受けた建造物が音を立てて壊れ、辺りに粉塵が舞った。
「ネフェルティティをこのまま好きにさせたら、ここが持たないわね」
ダークヴァルキリーの破壊行動を
高根沢 理子が苦い顔で見つめる。破壊は徐々に墓所全体に広がりつつあり、このまま破壊が進行すれば崩落によって契約者が被害を受けるのはもちろん、ダークヴァルキリーの脱出を許すことでシャンバラ女王復活の儀式に致命的な影響を与えかねない。
「水晶の兵隊に鏖殺寺院まで……!」
さらに、ダークヴァルキリーの周囲には彼女の力によって呼び出された水晶の兵隊、鏖殺寺院の古参兵が武装して立ちはだかっていた。
「やるしかないわね……」
ダークヴァルキリーを唯一、『斬る』ことができるとされる
斬姫刀スレイブオブフォーチュンを握り、理子は目の前の敵に立ち向かっていく――。
「ハアッ!」
イヴ・ハウディアンナの突き出した、刀身から炎が噴き上がる魔剣が水晶の兵隊の盾を弾き飛ばし、体勢を崩させた。好機を逃さず、勢いよく踏み込み体重をかけての薙ぎ払いを繰り出して兵隊を戦闘不能へと追い込んだ。
「うおっと!」
敵を倒した余韻に浸る間もなく、鏖殺寺院の古参兵が銃弾を放ってくるのを跳んで回避する。
「チッ、こいつら数が多い上に侮れねぇ。油断するなよマリア!」
体勢を整えつつ、自分と同じく前線を務めている
リタ・セレスティアナに声を飛ばすも、返事はない。
「きゅぅ……」
振り向いた先でリタは、敵の攻撃を受けて目を回していた。追撃を受ければ戦闘不能は避けられない状況で水晶の兵隊がリタを標的に捉えるが、直後リタと兵隊との間に天井から『何か』が落ちてきて兵隊を巻き込みながら消失した。
「回復します!」
マリア・ハウディアンナから飛んだ光がリタを包み込み、意識を回復させる。直後に向けられた攻撃をギリギリかわしてイヴと合流に成功した。
「大丈夫か!?」
「もう大丈夫ですぅ。マリア様、助かりましたぁ」
感謝の言葉を述べるリタへ微笑んだマリアが、目を閉じ祈りを捧げる。
(エリザベート校長が困る顔は、見たくありません。全てはエリザベート様のために)
「あ~! マリア様がエリザベート様に惑わされていますぅ~!」
「違ぇっての。ほら、バカなこと言ってないで行くぞ」
勘違いを起こしているリタを小突き、イヴが再び前線へ向かう。
「痛いですぅ……。わ、わかりましたから待ってくださいよぅ」
リタも慌てて武器を構え、イヴに続いた。
「なんて数……けど、倒せない相手じゃない!」
視界を覆う無数の敵に
サーハ・アルベールが気圧されそうになりつつも自らを叱咤し、攻撃魔法を撃ち込んで退かせ、自身に向けられた攻撃は箒に乗って飛んで回避する。それでも敵の攻撃は激しく、回避を行った先に攻撃をされそうになるもののその直前に降り注いだ雷が敵を貫いたことで被害を受けずに済んだ。
「ありがとう!」
サーハが自分を助けてくれた契約者、
深海 真司へ感謝の言葉を送った後、箒を新たな進路へ向けた。
(たとえ十二星華や神子でなくとも、私には守るべき存在がいる。彼女が傷つかないよう立ち回るまでだ)
上空を飛び過ぎていくサーハを見送り、真司が身体能力を強化する加護を自身と、前線を担当する
サーシャ・ノックスへ施す。次いで一定範囲に酸性の霧を発生させ、特に鏖殺寺院の古参兵へ大きな被害を与えた。
(以前と比べて大分抑えられるようになったとはいえ、状況が状況だからね)
過去の経験から鏖殺寺院に対して憎しみを抱いているサーハが無謀な行動を取らないよう、先回りする形で真司が立ち回る。
(まったく、特別な立場にある連中は気楽なもんだね。目標に対して脇目もふらず、真っすぐ行って殴ればいいんだから。
でもさ、そこまでの道を拓くのは誰がやるっていうんだい? そこを考えてもらいたいもんだよ)
長大な打刀を強化された身体能力で振り抜き、水晶の兵隊を吹き飛ばしつつ戦闘不能に追い込んだサーシャが心に呟くも、この場では理子も十二星華も高みの見物ではなく実際に剣を交えていることからそれ以上は控える。
(ま、向こうが働いてんのにサボるのはあたいの性に合わないね!)
剣を向けてきた兵隊へ突進からの刺突で盾を吹き飛ばし、ドラゴンが有している怪力でもって振り抜いて兵隊を大きく吹き飛ばして戦闘不能に追い込んだサーシャが、得意気に鼻をふん、と鳴らした。
「サーハ、デッカイ攻撃する時は言ってくれ。その時間稼ぎくらいはしてやるからよ」
「ええ、ありがとう。……そうね、あそこに敵を集めて一網打尽にしたいわね」
「それじゃあ、ノガロダはこの位置から向こうへ飛びつつ攻撃して、敵を退かせてほしい。敵が集まったら指示するからサーハさん、頼んだよ」
ノガロダ・テーゲの申し出を受けたサーハが箒で上空に飛び、効果的に敵を撃退するための策を講じる。その策を実現するべく
他方 優が具体的な行動を提案し、そしてノガロダが優の提案通りに、背中の竜の翼を羽ばたかせて飛翔する。
「ウオオオォォォ!!」
そして落下と同時に方天戟を、敵の頭をかち割るが如く振るう。地面が大きく抉れ粉塵が舞い、複数の水晶の兵隊が宙に打ち上げられた。
「サーハ、この戦いが終わったら何を奢ってくれるのか楽しみにしてるぜ!」
調子よく槍を振り回すノガロダを、鏖殺寺院の古参兵が銃で狙い撃とうとするも直前で星の力を宿した光線に撃ち落とされた。
「フラグを成立させるわけにはいかないね」
優が的確な早撃ちでノガロダを援護しながら、魔法を準備するサーハに攻撃が行かないように警戒を続ける。
「行けるわ!」
「いいタイミングだ、ちょうど向こうも集まってきているよ」
詠唱完了と攻撃タイミングがバッチリ重なり、撃ち込まれた炎の渦は多くの敵を巻き込んで効果的に被害を与えた。
(右から攻撃、来る!)
自分に攻撃が向けられる気配を感じ取り、
八上 ひかりが防御を固める。電撃をまとった半透明のフィールドが飛んできた銃弾の勢いを削ぎ、広げた和傘が受け止める。勢いを失った銃弾がパラパラと地面に落ちていった。遠距離からでは防御を抜けないと判断した鏖殺寺院の古参兵がナイフを抜いて飛びかかろうとするも、閉じた傘から現れた水流に飲み込まれ、遠くへ流されていった。
「お洗濯完了♪ さ、次にお洗濯されたいのは誰かな?」
傘をパッ、と開いて水気を飛ばしつつ決めポーズを取って、ひかりが次の敵へ視線を向けた。
「指揮車より各員に告ぐ、これが最後の決戦だ! これに勝利し、我々は建国を成し遂げるぞ!」
新米兵卒に運転と火器統制を一任した空挺戦車に乗り込んだ
ロイド・ベンサムが、小銃と銃剣を持たせた20名の歩兵を指揮して水晶の兵隊と鏖殺寺院の古参兵と戦わせる。小銃の銃撃を受けた水晶の兵隊が倒れ、倒れた兵隊を踏み越えて別の兵隊が剣の間合いに侵入する前に、銃剣に複数貫かれて戦闘不能に陥った。
(これら水晶兵や鏖殺兵は捨て駒、ダークヴァルキリーは此方の疲弊を狙っているのでしょう)
この場に集まった契約者は有限であり、そしてもちろん体力も有限である。出現した敵すべてに対応していてはやがてすり潰され、肝心のダークヴァルキリーへの戦力が不足してしまう。
「それならば我が小隊が敵を受け止め、対ダークヴァルキリー部隊の為の血路を開きましょう!」
ロイドが配下と共に、徐々に戦線を押し上げる。もちろん敵もただ押し込まれるだけではなく反撃を試みたり、ロイドの搭乗する戦車を狙ったりして戦況の打開を試みるが、戦車を直掩する
発掘機晶姫や
鋼龍がよく戦い、戦線の維持に貢献した。
契約者に対し銃撃を行っていた鏖殺寺院の古参兵が、突然武器を取り落とし頭を抱えてのたうち回る。
佐門 伽傳が練り上げた魔力の闇黒に触れたことで、彼らは敵である契約者ばかりか、破壊行動を行っているダークヴァルキリーへも恐怖を抱き、身体を震わせ戦意を喪失した。
(よく効いている。もうひと押しと行こう)
伽傳が魔獣の角を加工して作った笛を吹き鳴らし、鳩の群れを襲いかからせて恐怖を煽る。そうして古参兵の精神を消耗させたところでヒポグリフに
マナ・リヴィエルと搭乗し突進、氷の嵐を呼び出して動きを鈍らせてから魔力でできた大樹を生み出して蔦や根で古参兵を絡め取った。
「よし、ここだ! 降りるぜ!」
ヒポグリフの背から斬りつけていたマナが飛び降り、ふわり、と地面に足を着けるや否や猛然と駆け出すと、蔦に絡め取られて身動きの取れなくなった古参兵を大剣で斬りつけ戦闘不能へと陥らせる。マナと離れた位置の古参兵が反撃を試みるが伽傳の雷術で阻まれる。
「テロリストは気に入らねぇ。その性根、叩き直してやる!」
鋼のような肉体から振り下ろされた大剣の直撃に抵抗できる古参兵はおらず、誰しもが根性を叩き直されつつ意識を喪失した。
「ククク、パラミタ大陸はいずれ我がライバルであるアジュアとの決戦の場となる場所。
――故に、滅びてもらっては困るのだよ!」
鈴乃宮 燕馬が仰々しく手を上に掲げれば、水晶の兵隊が密集する頭上から『何か』が落ち、複数の兵隊をまとめて巻き込み消失する。後には手足を破壊され水晶の塊となった兵隊の残骸だけが残った。
「私を利用した者の思い通りにはさせぬ。消え失せい!」
アジュアの放った火弾のひとつが兵隊を直撃し、弾けるように四肢が吹き飛んだ。
「うんうん。いい感じにマーちゃんがアジュアちゃんのテンション上げに役立ってるね♪」
「傍にいるとうるさいが、離れていれば一戦力として有能だな。アジュア君もシンプルな魔法ながら威力は高い。
ローゼ君、僕達も負けていられないよ」
「オッケー、粉々に破壊してやるわよー」
ローゼ・シェーントイフェルが両手刀を構え、兵隊に飛び込んでいく。後方から
リンベル・アメティストが飛空艇のミサイルを発射して援護し、爆風で怯んだところにローゼが飛び上がってからの叩き付けで複数の兵隊を打ち上げる。
「ふふ、いい材料があるわね」
叩き付けた刀に岩や土をまとわせ、巨大な槌として扱う。刀で一体ずつ相手するよりも効果的に、兵隊を戦闘不能へと陥らせることができた。
「見えた……そこに火力を集中させれば!
燕馬君、ローゼ君。手加減無用だ、出し尽くせ!」
ダークヴァルキリーへの最短経路を塞いでいる敵個体とその周辺へ一斉集中砲火を提案しつつ、リンベル自身も魔力を撃ち出す魔道銃で攻撃する。魔力に撃ち抜かれ倒れた兵隊を目印として、燕馬の求めに応じた炎と氷の聖霊が炎と氷雪を周囲に巻き起こす。
「我がライバルから教わったばかりの新技だ、存分に味わえッ!」
魔法の効果が消え、かろうじて耐え抜いた兵隊を影が覆い、何事かと見上げた先には巨大な槌をさらに巨大化させ振りかぶったローゼの姿があった。
「正義の鉄槌、大人しく食らいなさーいッ!」
抵抗虚しく、兵隊は叩き潰されるか打ち上げられるかして四肢を吹き飛ばされ、戦闘不能に陥った。
本郷 涼介の跨る箒から魔力の砲弾が発射され、直撃を受けた水晶の兵隊が打ち上げられる。鏖殺寺院の古参兵が銃を上に向けて反撃を試みるも、箒の機動力を活かした回避で無傷で切り抜けることができた。
(敵の厚みが薄くなってきている。もうひと押しで突破できそうだな。理子、それに十二星華の方々、この先は任せたぞ!)
光の矢を出現させ放ち、収束された矢は着弾と同時に小規模な光の爆発を起こし、複数の敵を巻き込んだ。そして涼介と入れ替わり、身体能力強化の加護を受けた
クレア・ワイズマンが大鎌を構え上空に羽ばたいた。
(正直を言えば、最前線に立てない立場というのは歯がゆいものですが……それは涼介も同じ思いのはず。私だけが鬱憤を抱えるのも良くありませんから……そうですね、あなた方で晴らさせてもらいます!)
クレアが大鎌に魔力を集中させ、雷の力を宿して敵陣に切り込むと同時に薙ぎ払い、攻撃を受けた古参兵が身体をビリビリと震わせながら倒れた。背中から兵隊が剣を振り下ろそうとするが、それより速く鎌が脇を捉え、上半身と下半身を切断されてそれぞれが地面に転がり落ちる。
契約者の奮戦が、ダークヴァルキリーへの道を切り開きつつあった――。