歌で応援 その2
「えーと、シャンバラっていう国のアレって、ネット応援でもいいって話だったよね……でもこの黒いの、明らかに襲ってきてるよねぇ?」
カブトムシかな? と
エレミヤ・エーケロートは首を傾げる。
周囲にはふわふわと漂う黒い闇の群れと、逃げ惑う人々の姿があった。
何だかよく分からないが、敵ならば放っておくわけにはいかない。
エレミヤの周囲の大地のマナが動き、わらわらと植物が成長し始める。
「この世界にちゃんと来たのはこれが初めてだし、私にできる事はこれくらいかな。いくよ……!」
植物に絡めとられた闇に、天雷の稲妻が襲い掛かる。
ハギト・アリオクィンは「いいぞやれやれー!」と声を上げながらその様子を撮影した。
「カッコいいとこしっかり映ってるからなー! よーし、じゃあこいつを後はネットに……って、そういやどうやって動画上げりゃいいんだ??」
シャンバラ建国のために、戦う仲間の雄姿を配信し、士気を上げてやろう。
ハギトはそんな事を考えているようだ。
「お、切り出しってこうやるのか。よしよし……あとは応援メッセージを載せて、エレミヤの分は完了! じゃ、次行くぜ! ガンガン流してやるからみんな頑張れよー!」
戦う仲間の姿を撮影しながらハギトはあちこち飛び回る。
そんな中、
【猫又カフェ応援団】は戦う仲間の応援ライブを始めた。
「これよりは友を送る応援、友を守る声援。彼女達が成す献身をご照覧あれ」
両手で柏手を打ち、
芥川 塵は周囲の人々に向かって声を張る。
何か始まるらしい。
観客が集まり始めると、塵は
猫宮 織羽に向かって「始めよう」と合図を送った。
「ここに集まってくれたみんな、それから、ネット配信を視聴してくれるみんなもありがとう!」
織羽がそう、マイクに向かって声を上げる。
「実は今、わたし達の仲間がシャンバラ建国のための大事な戦いの場に立っています。
小鳥遊 美羽さん、
コハク・ソーロッドさん、
ベアトリーチェ・アイブリンガーさん……今日は、この3人を応援するためのライブをします! みんなも一緒に、応援してください!」
わーっと拍手が沸き起こると、
碧海 サリバンはこれからパフォーマンスを行う仲間の周囲に快晴の春の野原を出現させた。
さらにその周囲には花畑が具現化していく。
藤白 境弥はその中に進み出ると、銀の横笛の音を響かせた。
(ほかの2人と楽器が違うって? こまけぇこたぁいいんだよ! とにかく応援だ! 楽しくやろう!)
イントロを奏でる境弥のメロディーに合わせ、
シンシア・レイコットはインボルト・リラの弦を弾く。
境弥の演奏に沿うようにテンポをキープしながら、シンシアは曲を盛り上げていった。
(私達は直接戦わないけれど……それでも、少しでも戦う3人の支えになりたい……頑張って……私達の思いを、ライブで届けるわ)
エステル・ミルズは境弥とシンシアの演奏に合わせ、飽響の提琴を奏で始める。
そして英雄を謳う詩に乗せてコーラスのようにメロディーを口ずさみながら、メインボーカルの織羽に視線を送った。
「美羽ちゃん、ベティちゃん、コハクくん、がんばれー!」
織羽はそう声を上げると、アーライルの清らかな歌声を響かせ、勇気の唄を唄う。
境弥、シンシア、エステルはその歌声に力強さを与えるため、演奏で盛り上げる。
そこへ
池田 蘭が浮遊ドローンのレイ・アルパを引きつれ、美しくしなやかに舞いながら登場した。
(遠くで戦っている仲間と私達の心は一つです。シャンバラが平和になるように、私はこの舞で応援しましょう!)
蘭は歌う織羽や演奏するエステルたちと視線を交わしながら、サリバンの作り出した幻想の花園の中を舞う。
塵は仲間の姿を見守り、ネットへの配信を続けた。
(思いのほか伸びてるな。3人への応援は成功だな……)
シャンバラを応援する他の仲間の拡散もあり、ライブの映像は多くの人々に視てもらえているようだ。
用意した機材の様子を確認しながら、塵は安堵の表情を浮かべる。
(よし、そろそろライブ後半だな。演出を盛り上げていこう)
サリバンは場をさらに盛り上げるべく、演奏する仲間の頭上にフラワーシャワーを舞わせる。
(花は古今東西、人の心から不安を除き、癒しを与えてきたからな……さぁみんな、存分に奏でろ。これが俺様なりのこれが俺様なりの応援(ユニゾンヘルプ)だぜ!)
花が舞い始めたのをチラリと見ると、境弥はさらに力強く横笛を響かせた。
和笛の調べのような響きの中、ファイトフォアソング蘭がそれに合わせ、どこか勇ましく、優雅に舞う。
そうして仲間がライブを盛り上げる中、
エーテル・マナリスは観客に交じり、「頑張れー!」と叫びながらペンライトを振った。
「えっ? 何のライブかって? 私もよくわからないです! とにかく、みんな頑張ってるんで、一緒に盛り上げてください! あ、ペンライトもいっぱいあるんでどうぞ! ふれーふれー! ふぁいとぉーーー!!」
とにかく、アクリャとして祈りを届けるのは得意だ。
このまま周りの人と盛り上がって応援したらいいだろう。
エーテルはそんな事を考えながら、仲間に向かって声援を贈る。
日向 有希はそんなエーテルの姿を撮影し、仲間の演奏と共にSNSに配信した。
「さっき投稿した映像……いい感じで再生回数伸びてるよね。エーテルさんのハッシュタグはどうしようかな?」
塵が準備したリアルタイムの配信に合わせ、何度も時間差で。
仲間の動画が他の投稿に埋もれないように、有希はタイムラインをチェックする。
「ええと次は……『シャンバラ』『パラミタ』『応援』『拡散希望』とかこの辺り入れれば、大丈夫かな? 僕1人じゃちっぽけだけど、ネットは誰だって繋がれるんだからね! このタグでさらに色んな人へ届けっ!」
周りで観る観客、動画で視る視聴者の数が増え続け、ついにライブはフィナーレへ。
蘭がマイクの前に立ち、人々によびかけた。
「戦ってる人達の為に、一緒にシャンバラの平和を祈って下さい……お願いします」
仲間を思い、フワリ・ハートを纏いながら両手を組み目を閉じる蘭と、力を出し尽くした【猫又カフェ応援団】を歓声が包む。
朔日 睦月は店で偶然隣り合わせた人々とそのライブ配信を視ながら、「素晴らしいでしょう?」と拡散を促した。
「こういうライブをする人達も今回多いようですが、他にもいろいろ盛り上げようとしている賛同者も大勢いるんですよ」
自然に会話を交わしながら、睦月は出会った人々にシャンバラ応援を促す。
世間話の延長のような気軽さだが、かえって受け入れられやすい「応援」の仕方だったかもしれない。
「この、『ろくりんぴっく』も開催されれば明るい話題になるでしょうし、開かれるなら見て見たいものですよね。私自身はシャンバラに関りはないのですが、実はこういったことに積極的に参加している友人知人も多くいまして……」
そんな話をする睦月や関係者の投稿に「いいね!」をしまくっている男がいた。
黄泉ヶ丘 蔵人である。
「ふふふ……面白いことをしている奴らが大勢いるな。太古に失われし者の再生……やはり、この事にロマンを感じているのは俺だけではないようだ」
賛同者は確実に数を増やしている。
蔵人はそれを頼もしく思った。
「さて、そろそろ俺も自分で投稿するか。『太古に滅びし王国が、今甦る。彼の国は大いなる繁栄をもたらす物。その繁栄を求める者は、我と共に檄を飛ばせ。その想いを言の葉に乗せ、彼の国の復活を祝福せよ! さすれば願い叶い、汝らにも恩恵が授けられるだろう』よし……送信!」
タイムラインがくるくると書き換わり、盛り上がっていく。
ノーラ・レツェルはそんな様子をチラリと見て、風のフルートを手に取った。
(ネットはよく分からないからぼくはあっちには触れないけど……できる事をやらせてもらおう)
最後の機会となるであろうこの日に、祈りを届けよう。
音色に思いを乗せ、ノーラは奏でる。
(どうかこれからの日々が、シャンバラの人達にとって穏やかなものでありますように。そして何より、みんなが安心して眠れるように。眠り系アイドルとしての、ぼくの願いだ)
この思いが遠くまで届くように、ノーラは祈る。
そうしてシャンバラ応援のために様々な活動をした多くの者達の活躍により、投稿された動画などの再生回数はぐんぐん上昇。
様々な場所で盛り上がりを見せたのだった。