女王復活の儀式を成功させる/2
儀式の陣には出入りできると知ると、
ヤーコプ・レクターは直接儀式には加わらず、陣から外れることにした。
「ここは頼むよ」
と、
リズ・ロビィらと共にスタジアム出入口から屋内に潜む。
神子は陣の外からでも力を送ることはできる。故にこの場所には来ていない神子もいる。
シャムシエルが女王や神子を狙っているのなら、自分が囮となることで敵戦力を分散させることができるだろうと踏んだのだ。
「あたし達も手伝うよ!」
谷村 春香や
シルノ・アルフェリエ達もそれに協力した。
「ありがとう! 助かるさ!」
リズが礼を言う。
(神子だか何だか知らんけど、ヤーコプは薔薇の学舎に入学した時から一緒にいたかけがえのない仲間さー!
手を出そうとするなら、イエニチェリ候補のあたしと強力な仲間達が相手になってやるのさー!)
果たしてシャムシエルは現れた。
その本体がが何処にいるのかは不明だが、儀式を確認できる場所にいるのは明白で、更には視界になくても、神子の居場所は分かるようだ。
観客席からスタジアム内に飛び込むシャムシエルの影達は、殆どが中央の陣を目指し、間に待ち構える護衛達と対峙したが、神子の気配に反応した影達が身を翻して向かって来た。
「ハルキ、これを!」
谷村 ハルキは、
チアキ・ヴィラジに出して貰ったブライトバックラーを構え、シャムシエルの影の攻撃を受け止めた。
シャンバラの加護を受けたハルキは、クリムゾンキュイラスとバレルヘルムで防御を固めて防御に専念する。
囮になったとはいえ、ヤーコプをシャムシエルの影の攻撃に晒すわけにはいかない。
リズ達は、徹底してヤーコプを護衛する。
ヤーコプは、後方から神子の波動を放ち、シャムシエルの影の能力封じに注力した。
(この力を放つことによって、儀式の方にも働きかけができているはず。
……大丈夫、どんなことがあろうともリズや谷村さん、シルノさんが守ってくれる。
僕も今だけは神子としての仕事を果たそう!)
能力封じは、接近するシャムシエルの影には有効だった模様で、影は直接攻撃を仕掛けて来るが、察した別の影が、範囲外から剣の結界を展開して来た。
シルノは護国の聖域で結界を張って自身の守りを固めつつ、ヤーコプの側について周囲の警戒をした。
影を相手にするのも厄介だが、神子相手ともなれば、シャムシエル本人が出て来ないとも限らない。
シルノが、放たれた光の剣に気付く。
「ヤーコブさん、危ないっ!」と身を挺した。
「シルノさん!」
「大丈夫!?」
チアキが駆け寄り、倒れたシルノにリカバリを施した。
「ありがとうございます、結界も張っていましたので大怪我ではありません」
シルノの返答にほっとするも、チアキは迫るシャムシエルの影を見てはっと顔を上げた。
シャムシエルは、剣の花嫁を操る能力を持つという。
咄嗟に、チアキはまな板を抱えた。
(このまな板は、豊満な胸の女性からの力に抵抗力を発揮する……シャムシエルさん相手にも効くのでは?)
どこを見ているのか分からないようなシャムシエルの視線の焦点が、ふとチアキに合ったような気がした。
ククッと笑うと、シャムシエルの影は、展開していた光の剣をまとめてチアキにぶつけてくる。
「チアキ姉さん!」
それを今度はハルキが防御した。
その隙をつき、春香が剣を振り抜き、ソニックブレードによる剣圧でシャムシエルを仕留めた。
剣の射程外と油断していたらしいシャムシエルの影は、まともにくらって倒れる。
「あ、ありがとう……まな板は有効らしいわね?」
「どうかなあ。
影はその能力が使えないのかも」
どうも今回のシャムシエルは、剣の花嫁を操る作戦は使ってこないようだった。春香も頷く。
「本体の視界から逃れたのは成功ってことだね」
チアキから受け取ったブライトソード+も問題なく使えている。
「さ、油断なく行こう。影はまだまだいるよ!」
「うん」
ハルキは頷き、そっとチアキを見た。
(剣の花嫁を操って、平然と使い捨てにする……そんな奴、許しておけないよ)
またリズも、徹底的にヤーコプを守った。
儀式が成功して終わるまで、防衛に徹するつもりだった。
「世界を黒く塗り潰そうとしてるあんたらなんかに、世界を色鮮やかに描こうとしてるあたしらが負けてたまるかってのさ!」
この叫びが、シャムシエル本人にも届けばいい。
試作型対像ライフルは使えないな、と
行坂 貫は判断した。
敵味方入り乱れる混戦で、対イコン用の威力を持つライフルを使えば、味方も巻き添えにしかねない。
貫は軽身功の能力で、シャムシエルの影の攻撃を身軽にかいくぐって儀式の最終防衛ラインに迫ろうとする影に迅速に迫り、爆破攻撃で退かせた。
ジェットシューズを履いた
行坂 真預も邪魔にならないよう貫に続く。
貫が退かせたシャムシエルの影に、妖刀村雨丸のソニックブレードで仕掛け、接近戦となったら三段突きやカウンター狙いのパッシブヒットで対処した。
(正直建国とかどうでもええけどな。兄貴もおらんし。 でも一応故郷やし)
貫と契約して以降パラミタを離れ、真預にとって今やパラミタは時々観光に訪れる程度の場所だった。
それでも、貫とあちこち出かけた思い出がある。
「俺にできることがあるならやれるだけのことはしたい」
と言って此処へ来た貫に、真預もせやな、と頷いてついて来た。
「遊びに行く場所がなくなんのは嫌やな……」
これからも遊びに来られたらいい、そう思う。
「物量には物量、と言いたいところだけど、量も質も限られてるわけよね」
セフィー・ヴォルフガングは仲間達と共に、スタジアム入口辺りに集まっていた。
「精鋭は護衛の前線で頑張って貰うとして、私達は会場の門付近で、バリケードや塹壕を構築してとかで防御を固めて、最終防衛戦を張るのが合理的だと思うわ」
というのがセフィーの作戦だったが、シャムシエルは既にスタジアム内に突入してしまっていた。
シャムシエルは門を通らず、最初に様子を伺っていた上空から直接スタジアム観客席に降り、そこで影達を出現させたのだ。
「此処を拠点として、後ろから叩く方向で行くしかないようね」
沙 鈴がそう判断した。
スタジアム内、陣からは遠い位置になるが、此処から出ればバリケードを築く場所など無く、完全に身を晒すこととなる。
「……全力を尽くします」
綺羅 瑠璃が頷く。
瑠璃の心の奥底には、暗く渦巻く無念がある。
古代シャンバラ滅亡の際、力を尽くせなかったという無念だ。
だが、それに囚われすぎてもいけないと鈴に諭され、それを心に刻んでもいる。
再び失敗するわけにはいかない。失った過去の為ではなく、未来の為に、力を尽くすと決めている。
ぽん、と鈴が軽く瑠璃の背を叩いた。
鈴にとっては、パラミタで契約者となったことは任務であり、今回のことも教導団員としての重要な任務だ。
私心を挟むべきではないと口にはしないが、パートナーや友人、知人との縁も大切であり、これからのことも含めて護って行きたいと思っていた。
「オッケー、始めましょうか!」
セフィーがアサルトカービンを構えて笑った。
バリケードの奥からブライトライフルで狙撃する鈴を、敵の攻撃が向かないように綺羅と
秦 良玉が援護する。
良玉は愛用のトネリコでできた槍を使いつつ、ダークブライトも併用して敵の隙をつく。
個の強さはシャムシエルの影の方が格段に上だったが、複数人であたれば何とか倒していけた。
エレノア・グランクルスが、高い位置から敵の動きを見て仲間達に伝える。
大國 佳奈子は、バニッシュでシャムシエルの影を牽制しつつ、その姿をじっと見つめた。
シャムシエルの影は、感情があるのか無いのか分からない、動きとは全く関係のない表情で攻撃してくる。
影だから答えてはくれないかもしれない、けれど佳奈子はシャムシエルに訊きたいことがあった。
「ねえ、儀式を邪魔するのはどうして?
十二星華は一番シャンバラ女王に近くて、女王不在の時は代わりとなる存在。
シャムシエルさんは女王になるつもりなの?」
やはり答えは無かった。
「……違う、あなたが望むのは世界の破滅。
でもそれって本心?」
くっ、とシャムシエルの影が笑った。
まるで佳奈子の言葉に反応したかのようだった。
だが、やはり言葉は無い。
「佳奈子、危ない!」
エレノアが佳奈子の前に割って入り、その攻撃から庇った。シャムシエルの影は、エレノアを剣戟ごと斬り捨てる。
「エレノア!」
話しかけることに集中していた佳奈子は慌ててエレノアの腕を引いて下がる。
その横からセフィーが攻撃を仕掛けた。
「女王になる? そんなつもりなわけないでしょ」
佳奈子の言葉は聞こえていた。
シャムシエルは、ばっかばかしい、とくすくすと呟く。
「こんな国の女王になってどうしようっていうのさ。
でも、『あの力』は欲しいんだってさ。
そうだねぇ。あの力が本当に話の通りなら、それはシャンバラ以上の価値を持つよね」
更にそう呟いて、シャムシエルはスタジアムを一望できる場所から儀式の様子を見下ろす。
影を操ることを優先して、今は戦闘に加わっていなかった。
けれど集中すれば声を聞くことができる。
やろうと思えば返事をすることもできたが、それをするのは面倒だった。