クリエイティブRPG

【払え】

　そこは、ただ闇に包まれた広い空間だった。
　その中央に、僧風の男ーーナラカ道人の姿があった。
　何かに力を注ぐかのように両手を掲げていたナラカ道人が、すっと闇航船の方を向いた。
　焔生　たまは甲板からナラカ道人を見据えつつ、その空間に降りてきた。
「奈落、ナラカでしたか。個人的にこの闇の気配は気に入っているんですよ」
　たまの持つ武器も、闇の光ーー切り捨てて押し通ろうというつもりはあまりない。
　惑わず流されず、自らの意思で、ナラカを、ナラカ道人たち闇の存在について知りたいと考えている。
「ほう」
　ナラカ道人はたまを見て、すうと目を細めた。
「戦うかどうかはその後に裁定するとして、死後の世界だからと悪いものだとは決めつけたくはないのです。死は誰にでも訪れるモノなら、いつかは通る道を貶めたって誰も得をしないではないですか」
「死に触れてみたいなら、こちらの力を手にしてみればいい……死の息吹は、心地良いものには心地の良いものだ」
　続々と契約者たちがその空間に降りてくる。
　飛び降りてきたのは、下川　忍と赤坂　優衣だ。
「皆は闇龍の下着を！　あたしはこっちを相手にするわ」
　忍がナラカ道人の前に立ちはだかる。
「お願い、しの……白百合の剣！」
　闇女王の加護に守られた優衣は、バレンタインデーキスを忍に投げかけた。
　忍の心に、熱い炎が宿った。
「滅びの運命に意地でも抗おうとするか」
　ナラカ道人の周囲に、瞬時に無数の影が生み出された。
　影は次々と影の刀に手をかけ、忍たちの方へと向かってくるーー！
　瘴流拳を覚えている忍は、辺りに漂う死の空気を読み、襲いくる影を見切り、避けていく。
　剣堂　愛菜と剣持　心愛が顔を見合わせる。
（ここまで来たらみんな覚悟は充分、愛菜も白百合の剣も優衣も本気の顔をしている……）
　心愛は皆の顔を見回し、ナラカ道人を見据えた。
「無駄なことをーーパラミタは滅びの運命にある」
「あたしは信じていない」
　ナラカ道人の言葉を、愛菜は小声で否定する。
（何故なら、今この瞬間にも、パラミタの明日を祈り、願う人達がいるのだから。今この闇航船にいるみんなは絶望に抗い、建国の未来を勝ち取ろうとここにいる筈だから）
　言葉はいらない。愛菜はアイコンタクトを配り、狙撃で援護することを伝える。
（建国の絆は絶やさない……破滅の運命を覆す覚悟なら、とうに出来ている……！）
　愛菜はフリューゲルライフルによるオールスナイプで、ナラカ道人の影を打ち抜いていく。
　インサイトと瘴流拳の心得を元に、正確にナラカ道人の心臓を狙っていく。
（未来を掴む思いが、あたしの照準を正確にしてくれる……）
（愛菜の決意は私の決意…。誰にも邪魔はさせないわ）
　心愛はソーンカウンターで割り込むと、ヒロイックアサルトを叩き込む。
　武器が折れるまで、決して手を止めはしない。
　次々と影を船の外へ吹き飛ばしていく。
　防御は心愛に全てを任せた愛菜は、攻撃に全てを注ぐ。
　そして、ナラカ道人の心臓目掛けて、スナイプを放つ。
「白百合の思いよ、奈落へ打ち勝つ矢となれ……」
　その小声に、ありったけの想いを乗せーー杖をクルクル回すと、最大級の神威の矢を一気にナラカ道人へと放った。
　光の矢がナラカ道人に突き刺さる！
　と同時に、忍が飛び出した。
　忍は空賊王のブーツの機動力を生かし、ナラカ道人へと飛びかかる。
「あたしは白百合の剣！」
　光条エネルギーを龍殺しの聖剣エクスカリバーに収束させ、その勢いのままにミリオンブライトを放つ。
　闇の空間に無数のレーザー光が拡散すると同時に、優衣が炎と氷の聖霊を召喚する。
　聖なる炎と氷雪が渦を巻き、ナラカ道人を襲う。
「この程度ーー」
　その場に残り燃え盛る聖なる炎と氷を、ナラカ道人の放つ凍てつくような死の空気が覆い尽くす。
「今！」
　優衣が神威の矢を拡散させて、分身の影を貫く。
　忍は龍殺しの聖剣エクスカリバーの刃を龍の頭に変化させる。
　龍の頭は、ナラカ道人に噛みつかんと鞭のようにしなり、飛びかかり、聖なる光のブレスを吐き出した。
　優衣の命を受けた名状しがたき獣がナラカ道人に噛みつき、足止めしようとする。
「ーー！！！」
　ブレスで牽制し、忍はその勢いのままに斬りかかった。

　パリン、と何かが割れるような音がした。
『ここで滅びるのだーー滅びの先、ナラカをその目で見て確かめるが良い！！』
　ナラカ道人の纏う冷気が、一段と濃くなったような気がした。