【奥へ】・3
「なんかすごい所に来ちゃったけど、やれることをやらないとね」
瀬蓮の援護をしている
ナハイベル・パーディションは、船の上を見回した。
乙町 空は一人のデディカーレ(捧ぐ者)として、瀬蓮をロイヤルガード上の主人と設定した。
身を挺しても瀬蓮を護り抜く。その覚悟で、警護している。
「そこに!」
瀬蓮の傍に飛び込もうとした綿毛を見抜いた空は、素早く淑女の嗜みの体捌きで無垢のガッダを旋回させ、そのシールドを用いて防御する。
「くっ!」
綿毛を風圧で弾いたものの、再び霧となって瀬蓮の元へ飛び込もうとした幽巫の攻撃を、空は護国の聖域を展開して凌ぐ。
ナハイベルは砂の葉めがけてソニックブレードを放ち、瀬蓮を身を挺して守ろうとする。
「私でも、これくらいなら役に立つと思うしね」
ナハイベルは砂の葉が絶え間なく送り込む大蛇を雲払で迎撃しつつ、耐え続けた。
「うちの可愛い校長ちゃんに傷をつける奴は許さないよ!」
ゴゴゴ……と轟音が鳴り響く。
大太が闇航船の進路を塞ぐように立ち塞がり、船をその手で押し留めんと手を開いて待ち構えているのだ。
「そんな……」
「あんな大きな相手にどうしたら……」
ナハイベルと空の後ろに、ハンドヘルドコンピュータを駆使して情報収集をしている
春川 祝言がいる。
「だめだな……現在地もうまく表示されない」
薔薇学の教師として学生たちを守り、アシストするために、祝言はハンドヘルドコンピューターでマッピングを行っていたが、マッピングはうまく行かないようだ。
「迂回ができるかできないかが分からないなら、押し通るしかない……!」
祝言は、剣を振るって砂の葉と戦っているアイリスをちらりと見遣った。
周囲を取り巻く闇が蠢く。ひそひそと聞き取れない呪詛と嘲りが辺りでさざめき合っているような、不快な感覚に祝言は顔を顰める。
祝言が瀬蓮を呼び止めた。
「キミのパートナーは、何かを隠しているんじゃない?」
「何かをーー?」
瀬蓮が首を傾げる。
「力を隠している……キミを守るためなら、その力を使ってくれるよ」
アイリスは首を横に振った。
(隠しているのは、危険だからだろうか。使わずに済むならいいが、犠牲者は出したくない)
祝言がアイリスに声をかける。
「アイリス、たとえそれが闇の力でも、僕たちが光に変える。力を貸して!」
「大したことはできないさーーだが」
ひゅん、と空が裂ける音がした気がした。
闇をこじ開けて、その先の道を生み出したのだ。
「早く、この先へ!」
アイリスに急かされるまま、闇航船ごと、皆は闇の奥のその空間へと踏み入れたのだった。