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禍神伝 ~完結編~

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禍神伝 ~完結編~
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戦いの果てに1


 【禍神断つ風】のミランダ・アーベラインは自らの霊力を仲間たちに分け与えながら、その様子を窺う。
 霊子技術Ⅱによる装備の整備は今もしっかりと効果を及ぼしているようだ。
 長引く戦いに、猫丸参式による霊力補給はもう使ってしまっていたが、ここからが正念場だ。
「攻撃はアーシがなんとかするから!」
 装備と術で防御や攻撃を跳ね返す霊符などで身を固めたシレーネ・アーカムハイトが前に立ち、辻風 風巻に向け急急如律令を唱える。
「いくわよ、風巻」
 本能を剥き出しにした宿儺に切り込むため、ブリジット・シャッテンは動物の脚のようになった自らの足に装着した霊子噴進靴を霊力噴出させる。
 ジェットの勢いで掌底を繰り出し、残る三撃を決めていく。
(速く、もっと速く……鋭く、もっと鋭く)
 鞘から抜き放った帯電する太刀を両手でしっかりと構えた風巻が、雷迅の型を取り踏み込んでいく。
 その姿を、楓が見据えていた。『隙が見えたら』と風巻は彼に要請しようとしたが、霊刀・朝凪の力自体が一瞬の隙を作るものだ。
 最早それは必要ないだろうと楓に言われた通り、風巻の振るった狩魔の一撃は宿儺に届き、確かな傷を作り出していた。
「やっぱりこうなるよな」
 一見すると巨大化するほどやべーように見えるけど、実際は倒すチャンスになるってのがお約束だよな? と思っていたアルフレッド・エイガーは、予想のままの展開にひとつ頷いた。
「っと、危ねぇ! 大丈夫か」
 危うく宿儺に踏まれそうになった仲間を庇って前に出たシレーネが巨大な踵の痛打を食らったのを見て、アルフレッドは淡雪のように清浄な霊力を降らせて癒す。
「へーきへーき。アーシ、防御力はマシマシにしてっから」
 かなりのダメージを受けただろうシレーネはそれでも笑みを見せた。
(遥と風巻に掛けた浄錬は……まだ大丈夫そうだな)
 アルフレッドはしっかりした足取りで床を踏み締めるシレーネから目を移し、状況を確認する。
 宿儺に向かって踏み込んだのは、彼のパートナーたる桐ヶ谷 遥
 負担を少しでも減らすために、仲間たちや楓と攻撃のタイミングをずらしての行動だ。
「鳴神流師範、桐ヶ谷遥。推して参る」
 三井流の免許皆伝にまで至り、新たに流派を起こした彼女は、師範級の者でもひとりでは厳しい相手と見て宿儺を倒すには奥義を超えるしかないと考えていた。
 今、宿儺はほぼ理性を失い暴れ出している状況、目指す道の半ばは越えた。
 遥は蓬燕を鞘に納めると、一声呼び掛けた。
「楓師範!」
 それに目で応えた楓が、朝凪の一撃を宿儺に浴びせる。
 直後、風巻の繰り出す斬撃に合わせ遥は霊力を注ぎ込んだ鞘から刃を抜き払い、爆発的な力を生み出す。
 ――鳴神流終ノ型・天翔烈破。
 その抜刀の力を最大限に使い、空間そのものを断ち切る奥義を放った。
「これが、三井流の奥義を超える自分の剣よ」
 激しい断裂に、宿儺の身が僅かにぐらつく。

「やっとここまで……」
 精一杯仲間の支援に立ち回っていた【帝都華撃団】の人見 三美は清めの霊力を持つ大きな鈴を装着させた桔梗琴を抱え、そう呟いた。
 彼女のみならず、パートナーの伏見 珠樹も得物にこの大鈴を取り付けている。
 強大な相手に立ち向かうのは、正直恐ろしくはあった。
 けれど、ここで宿儺を倒せなければ扶桑やそこに暮らす人々にも危害が及ぶことになる。
 だから三美は、自らの全てを賭す覚悟でここへ来て、術を繰り皆を支援しているのだ。
 宿儺の動きを封じる術はあまり効果を見られないことが多かったが、代わりに三美の癒しの力は大いに仲間たちの助けになった。
 彼女が師匠と呼ぶ珠樹も、自分の力でどこまで戦えるかは分からないけれど、共に戦う皆と宿儺を止めて見せるという気概でこの戦場に立っていた。
 身に着けた衣に浮かび上がる桜の模様が、霊力により上がった瞬発力と靴の霊力噴出により駆動する彼女の動きに合わせてまるで舞っているかのようだ。
 いつ降ってくるとも知れない宿儺の足の動きを察知しながら、柊八尋槍の穂先に収束した霊力を光線に変えてぶつけていく。
「桔梗印の護符で動きを封じることは出来ませんでしたか……ですが、これはどうです?」
 光の霊力を帯びた青白く輝く弓に春驟雨によって生まれた光の槍を番え、真毬 雨海が射放つ。
 その軌跡を縫うように、軽業の如く飛び回る成神月 真奈美
 引き付けるように焔獄を放つ水野 愛須の対角に回り、一見黒い手袋に見える、鋼糸と霊糸で編まれた暗器で宿儺の膝裏を狙う。
 軽く押し出されるように衝撃を受けた宿儺の足の一組が、たたらを踏むように動いた。
 暁月 弥恵がそこに進み入る。
 黒のレオタードに短いスカート、天女の羽衣のような雰囲気の舞踏衣装を纏った彼女はびらびら簪を取り出し、本能に傾倒していく宿儺を誘う。
 その先は、霊圧を纏わせた自らの得物だ。
 宿儺は唸りを上げながら、弥恵の頭上に斧を振り下ろす。
「掛かりましたね!」
 霊気を漂わせる妖刀が、間合いに入った宿儺の腕に走った。
『ウグアァッ!』
 渾身の破刀は、宿儺の腕のひとつを斬り裂くだけでなくその手が握る斧までひび割れさせた。
「簪……私ももう少し、敵をを引き付ける準備をしておけばよかったですね」
 呟いた愛須の許には、狙ったほど宿儺の攻撃は及んでいない。多くの隊士たちで一帯を囲んでいるのだからこうなる可能性もあったし、仲間の被害が少ないならそれに越したことはないが。
 技を放つだけで引き付けられるとは限らなかったと、彼女は気付くのだった。
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