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禍神伝 ~完結編~

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禍神伝 ~完結編~
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無尽蔵の霊力




 湊の表情からは余裕が消え、反対に使役する式神の数が増える。湊を水場から引き離しはしたが、隊士と湊の距離も離れてしまったため、再び式神を討ち払う必要がある。
 近付かれまいとして構える湊に再び攻撃の機会を作るのは容易ではないと判断した畑中 凛は、金川分校組と連携すべく共闘を申し入れる。
「振り出しには戻ったけど、流れは幾分こっちに傾いたよ。流れを維持するために、まずは式神の群れを……」
「そうですね。後退し、取り巻きの式神を前に出したのは押されていると感じての行動と見られます」
「なら、ここは押しの一手ってわけね、了解よ!」
「連携の由、了解しました。後方からの支援はお任せを」
 凛が全てを言うまでもなく、金川分校のブライアン・成田・オブライエン、七海ナツミ、そして倉橋フミは共闘を了承した。そもそも隊士たちに、共闘を断る理由などない。ここは力を合わせて押し切る場面なのだ。
 前方では既に凛の仲間である柳 綺朔の一行が式神の敷いた陣の突破を試みていた。三人はその姿を見るや、凛の導きですぐに共闘を開始する。
「話はついたようやね。こら、わっちらもひとつ、気張って行きますえ」
「心強い。湊への道はすぐに開いて見せよう」
 前衛として式神を相手取っているのは綺朔のパートナー、篠田 櫻子草薙 瑠璃の二人だ。
 櫻子は『空走下駄』と『霊子噴進靴』を巧みに操り、地も空も我が足場と言わんばかりの複雑で素早い動きを見せ、敵の式神を翻弄しながら戦っていた。
 そこに金川分校組との共闘が成ったことで、櫻子は一段ギアを上げる。『筋弛緩』からの『潜能解放』を実行し、女郎蜘蛛の妖怪としての血を呼び起こすと、強化された膂力を存分に振るい始めた。手にした『煉獄』はただ振るうだけでも式神とっては驚異的な威力だと言うのに、櫻子は折を見て『金砕拳』を放つなど、敵にとっては無視できない人物となっている。
 対して瑠莉は地上に位置し、『空刀』を振るい近接戦闘を行いつつも、適時『風雷』を放つなどして距離を選ばず戦闘する。防御面でも『離環』を駆使していなすなど、現在、自分たちが多数の敵と戦っていることを忘れぬよう、集中して事に当たっている。
 いくら上手く立ち回れていたとしても、流石にこの二人だけでは式神の突破は難しく、むしろ数を頼りに押し戻されてしまうところだっただろう。
 そのため、後方からは綺朔と、パートナーの東雲 皐月が支援を行っていた。
「ここは畳みかける場面なのよ……!」
「わたくしたちの邪魔はさせませんわ……!」
 綺朔は遠距離から『燐光の払弓“瑠莉光弓”』による射撃を、押し寄せようとする式神を狙って行い、その足を挫く役割を担っていた。これは湊にペースを握らせないと同時に、前衛として戦う櫻子と瑠莉が式神の群れに飲み込まれないようにする意味もある。一見して隙無く立ち回っているように見える櫻子と瑠莉だが、実際は綺朔の援護射撃のおかげで、その立ち回りを安定させられている。
 皐月もまた、前衛の危機に際しては『四季符・秋』で操った土砂を『岩駆狗』として使役し、突撃させることで守っている。彼女の場合はその他にも、『雀の呼び符“稲雀”』で使役する雀に『氷牢の印』の冷気を伴わせて攻撃し、凍結や鈍化を狙うなど、式神を巧みに操ることで支援の手を緩めずに行っていた。
 それら綺朔一行の連携に、金川分校組が加わる。
 まずはいつも通り、ナツミが突撃して櫻子、瑠莉の立ち回りに加わり、ブライアンが連携が崩れないよう中距離で支える。
「おっと、俺も忘れてもらっちゃ困るね!」
 この共闘を成立させた凛もまた、前衛として連携に混ざる。『疾の脚』でチーターのものにした足で素早く式神に近付くと、そのままの勢いで『足払い』を行い、体勢を崩したところですかさず『釟痲』による渾身の投げ技を見舞う。淀みも迷いもない一連の動きについて来られる式神はおらず、凛は次から次へと標的を変え、式神を倒していく。
 そして後方ではフミが綺朔、皐月に混ざって支援を開始することで、旗色は一気に隊士たちに傾いた。湊も、もはや油断などしていないはずだが、それでも橋上で行われた攻防と同じように、一気に湊までの道が開かれたのだ。
 再び距離を取られては面倒。この接敵で引導を渡すべく、剣堂 愛菜は『浄火の大弓“紅蓮弓・香炉”』を構える。弦を引きながら『チャージ』を実行し、その威力を少しでも高め、一撃で仕留めるのに必要な霊力を溜める。
(浄化の矢よ、豪雨の災いを祓いたまえ)
 心の中でそう念じ、愛菜は『春驟雨』を実行。番えた矢を光の槍に変え、湊目掛けて放った。
「見えてるのよッ……!」
 命中すれば今の湊ではただでは済まない愛菜の矢だったが、その動きは湊に読まれていた。再び接近を許したことで湊は更に自身の防御を強化し、攻撃を阻む霊符を数多く周囲に巡らせていた。その一つが、愛菜渾身の一撃を受け止めていた。
 やはり、湊単体として見てもこれの撃破は容易ではない。まともにダメージを与えるには、真正面からの攻撃では厳しい。
(動きを封じる必要がある)
 そう感じた九曜 すばるは、湊の背後を脅かそうと行動を開始する。
 すばるの狙いは湊の尾。ここまでは体術らしい体術は使用していないため、突然体躯を活かした立ち回りを見せれば、こちらにとっては不意打ちとなる。それを防ぐため、少しでもその動きを鈍らせたいのだ。
 すばるは湊や式神からの攻撃に備えて『跳返の印』を自身に付与した状態で、『氷牢の印』による冷気で湊の尾を攻撃する。
 しかし、効き目は薄い。湊はすばるの攻撃をほとんど意識せず、その冷気を無効化しているようだ。
(……それなら、反応するまで食いつき続けてやる)
 尾の動きを縛れないのならば、湊の集中力を削ぐまで。放置できなくなるまで攻め続け、反応を示すようならその隙を味方が突いてくれるはずと信じて、すばるは攻撃を続行する。
「こうやって一つ一つ霊符や式神を撃ち抜いて行けば……」
 遠距離から湊を狙撃するのは山内 リンドウだ。リンドウは湊に防御されることも厭わず、ひたすら『蝕霊弓』から矢を放ち続けている。戦場は完全に湊のためのものとなっているが、それでもその霊力は無限ではないはず。式神の大群の使役に、隊士たちの強烈な攻撃に耐えるための霊符。これらは全て大量の霊力必要とするものだ。
 リンドウはそれらの霊力を食らい尽くすつもりで、蝕霊弓を主武装として選んでいた。蝕霊弓から放たれた矢が命中した霊符は、ある一定のダメージを受けるまで使い続けられるはずが、一発で破壊されている。一枚ずつとは言え、湊にとっては脅威だ。
 更に、リンドウはタイミングを見て湊に直撃するコースで矢を放っている。これは到底無視できるものではなく、一発でも当たってしまえば失う霊力は想像に難くない。そのため、リンドウの攻撃だけは避けねばならぬ、と湊はリンドウの矢に集中している。
 背後から向けられるすばるの攻撃を半ば無視せざるを得ないのは、こういう事情があったからだ。
(言うほど、状況は悪くないかな?)
 湊は徐々に追い詰められつつある。そう感じた幾嶋 衛司は、パートナーのブリギット・ヨハンソンを『祓穢警策』と『霊分』で強化すると、軽く目で合図しつつ『空蹴』で空中に飛び上がった。
 短いやり取りの中で衛司の意図を汲み取ったブリギットは、すぐに自身の得物である『祢々切丸』に『燿刃』を施すと、攻撃態勢を取る。万が一にも式神の妨害が入らないよう、敵の位置を『制霊圏』で把握しつつ、意識を湊に集中。『蜻蛉』の構えを取った。
「それじゃ、行くよ!」
 ブリギットの準備が整ったことを確認した衛司は、『裾縫』による矢で湊を狙い撃ち始めた。
「上から撃とうが、無駄よ!」
 しかしやはり、湊の敷く霊符の防壁は突破できない。適時、矢を『春驟雨』で形作った光の槍に変えるも、効果はない。
 だが、湊は雨に混じって降り注ぐ衛司の矢を、無視できなくなっていく。
「……今!」
 その隙を、ブリギットは見逃さなかった。
 ブリギットは湊が衛司の放った春驟雨の槍を防御しようとするその瞬間、『雷光閃』と共にスタートを切る。爆発的な加速を以て行われたブリギットの行動は湊の目を上手く掻い潜り、肉薄に成功する。そしてそのまま、大上段からの斬撃を湊に見舞った。斬撃と共に広がった落雷が、湊を襲う。
「ぐうぅ……っ!」
 手応え有り。これまで鉄壁を誇った湊の防御を、ブリギットは見事に裂いた。
 しかし、湊はまだ倒れてはいない。それだけではなく、傷付きながらもブリギットに反撃を見舞おうとしている。
 対してブリギットは、強烈な一撃を放った反動からか、すぐにその場からの退避が出来そうにない。
「いけないっ……!」
 ブリギットの危機に気付いたリンドウは『睦美流奥義・絶影』を実行。一瞬でブリギットの前に立ちはだかると、構えた蝕霊弓で至近距離から湊を射た。
「うぅっ!?」
 霊力を確実に破壊する一撃を不意に受けた湊は攻撃を中断、その身を屈める。
「さぁ、今の内に!」
「え、えぇ!」
 リンドウはブリギットの手を引き、一度、湊の前から離脱する。
 湊の鉄壁も、完全なものではない。圧倒的不利な戦況とは言え、それを打ち崩す手段は必ず存在する。




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