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禍神伝 ~完結編~

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禍神伝 ~完結編~
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■2-4.想念

 暴走めいた焔の戦いから一転、度重なる負傷からかそれとも炎を放出しすぎたのか、目に見えて焔の霊力は減少していた。

「行くぜ」

 しかし焔の戦意は落ちていない。鬼火や刃の数こそ減ったものの炎の輪郭も安定し、研ぎ澄まされた殺意のまま一気に踏み込んできた。肌を切り裂くような殺意が芥川 塵に届く。

「!」

 まだ間合いではないと踏んでいたものの彼は直感に従って回避を選択。鏡月剣を放って跳躍、宙を舞った。

 刹那その大地が赤熱し融解する。猩烈の如き炎の一閃が塵の眼下を駆け抜けていったのが分かった。

「戦いの中で成長してるってわけか。だが……どちらにしろ狙うのは短期決戦……!」

 塵と焔の視線が交錯する。閃歩によって引き伸ばされた一刀一足の間合い、それ対応しようとする焔に対して塵はもう一段深く“奥の手”を講じてみせる。

「電磁抜刀――こいつで!」

 加速した一撃はしかし焔に対処されるだろう。それすら踏まえてあるだけの霊力をつぎ込んだ。透伸――相手が成長するならば定石を外した構成で刺す。それでも焔はこれも読んでいたか、いや、備えていた。

「くっ!」

「必ず俺の予想を超えてくるだろうと……信頼していたぜ!」

 塵の放つ冷気の刃と炎の刃がぶつかり合って光を散らす。

「それで当然……てめぇらもだよなァ……!」

 この衝突の瞬間を狙って松永 焔子の放った鏡月剣が焔の後背を突いていた。一瞬、直撃したようにも見えていたが、ニ刀のうちの一刀がその背に回って幻影を防いでいた。

「流石、と言うべきでしょうね。一織流奥伝・松永 焔子……兄弟子、緋山 朝陽様の業を継ぐあなたに……最初で最後の手合わせを申し込みますわ!」

 仲間である三好 慶火が意気込む彼女の背を叩くようにして送り出す。餞別とばかりにその背に張った霊符によって焔子は一層その力を増していく。

「この世界じゃお前は無名の平隊士。今のままでは、な。この鉄火場で意地を見せてみろ!」

「ええ。……では、いざ尋常に……勝負、ですわ!」

 確かに焔子の放つ鏡月剣は焔の刃に阻まれている。だがそれは確かにプレッシャーになっているし、塵も一気呵成とばかりに畳み掛けてくれている。それに加え、焔が防御に使っている炎の刃は所詮焔の一部なのだ。

「だから防がれても攻めの手を休めるな! それだけでヤツの霊力は確実に減っていく!」

 それを理解していたからこそ焔子は多少の被弾も覚悟して攻め手を休めることはなかったし、慶火も治療から霊力の共有まで多くの支援を焔子へ送っていた。

「同じ“焔”の名を冠する者としても……ただやられるわけにはいきませんわ!」

「応じてやるよ……見せてみろ!」

 ぐるりと身体を回して炎の壁を作り出した焔は、そのまま焔子の放つ鏡月剣へ飛び込んでいく。鋭く突きこんで幻影を焼き尽くした焔であったが、その視界に焔子が映ることはない。霊力を足元から噴出させた焔子は相手の死角に潜り込むようにしながら三連撃を叩き込む。

「はぁあああッ!」
「おおおおおッ!」

 慶火から流し込まれた霊力も含めて全霊の一撃を叩き込む焔子、一方で交差するように放たれた一撃がその身を激しく焼き尽くす。

 膝を突く焔子に対して更に炎を燃え上がらせようと霊力を高める焔であったが、

「これで終わりだ……ッ!?」

「次の相手は俺だ! 断るわけはねえよなァ、焔!」

 この間に布陣を終えた狼雪班の面々、その先鋒たる天峰 真希那が踊りかかった。

「次から次へと! だが悪くはない。最後まで“付き合ってもらうぜ”!」

「三井流奥伝、天峰真希那。いざ……勝負!」

 追撃などさせないとばかりの激しい剣戟。速さに重点を置いた三井流肆ノ型・雷迅は、如何に二刀の構えといえど簡単にはねのけられるものではない。丁々発止、炎と雷の入り乱れる圏域の中で真希那は毒づく。

「テメェとはこんなクソッタレな場所じゃなく尋常な舞台でやりあってみたかったもんだ……!」

 こうして刃を合わせたからこそ分かる。焔が剣という術理に対しては真摯であったということ。マガカミであり朝陽の身体を使って悪を成す以上分かり合える可能性はゼロだが、

「俺はこんな場でなきゃお前らとは殺りあえねえんでなァッ!」

「真希那!」

 焔が僅かな間隙を突いて真希那の身体を切り裂くと同時、天峰 ロッカが仕込んでいた技が表面化する。心暁北辰流・暁光天駆。霊力の塊ともいえる焔に対して霊力干渉で強引に介入し、真希那に対する致命打を回避する結果を生み出したのだ。

「私ももう一度前に出るよ! ……決着をつけるために!」

 朱音もまた彼らの狙いを成功させるために前へ出る。今の焔は技術的に研ぎ澄まされてはいえど先程に比べれば火の勢いは大きく減じている。朱音の太刀筋すら読み切り、むしろ彼女の太刀筋を真似る余裕すらある焔であるが、逆に言えば大きく術式による干渉はできないと見ていいだろう。

「だから……ここ!」

 ロッカは己の会得している切り札……五星流の奥義たる夢浮橋を放った。不浄の力を封じる結界は、かつて朝陽の思い出とも言える場所――一織道場という形になって顕現する。

 ここまで来れば最早蜘蛛の糸に絡め取られたも同然。この機会をずっと狙い続けていたクロエ・クロラが躊躇なく印を結ぶ。霊力によって編まれた道が焔を呑み込み、そのまま彼女たちにとって有利になる場所へ無理やりに移動させる。

「よし、合わせて畳み掛ける……!」

「見え見えなんだよッ!」

 そのまま先の先を取ろうとしたクロエであったが、しかし移動中に体勢を整えることができる焔と術の発動中身動きを取ることができない焔では雲泥の差があった。

「! すまない、ロッカ!」

「十分だよ!」

 文字通りのロッカの全霊を尽くした雷が焔の霊核を狙い撃つ。かろうじて反応仕切ることができた焔であったが、回避行動まで完全に取ることはできなかったが、大きな霊力を割いていた炎刃のうちの一つを投擲し雷を貫くことで相殺した。

「くそっ……!」

 焦りを伴った舌打ちをする焔であったが、最早ここは狼雪班によって包囲された狩場。攻め手を凌ぐが攻めの波は途切れることがない。

「焔!」

 踏み込むように仕掛け三雲 封真の高まる霊力がそのままもう一対の腕として顕現する。

「お前は炎であるが故に刃を増やしたようだが……それはお前の専売特許ではない……!」

 二対の腕を持つため、立て続けの連撃であろうともすべてが全力に近い力が載せられている。掌底からの突き上げ、そして投げに移行したところで、

「だがこいつは俺だけの特質だろ!?」

 己の身体を一層輝かせ、封真の身体に炎が絡みつき燃え上がる。

「が、ああああッ! だが……それでも!」

 封真は焔の身体を離さない。人の動きに縛られる以上、そして夢浮橋が力を発揮している以上、完全な不定形へ変化して封真の闘気をまとった腕から逃れることも難しい。

「ありがと封真! ……お陰で、溜めはできたッ!」

「これが……連携だってか!?」

 ほんの僅か、一瞬の攻防。その中でリーオ・L・コルネリアは技を放つための一瞬の溜めを必要としていた。溜めさえ終えてしまえば、その技から逃れることは不可能といってもいい。

 一呼吸に都合五撃。腕も上がらぬほどの疲労と莫大な精神力を代償に放たれたそれは焔を確実に撃ち抜いた。対応する暇もなくまともに受けたそれは封真から引き離すに十分なだけの威力を伴っていた。

「おまけに……もう……一発!」

 腕が上がらないというのならば、と。彼女の全霊をこめた“頭突き”が焔へと炸裂する。

「ぐ、あ、ああッ!!」

 霊体すらも吹き飛ばすそれによってふらふらと後退する焔を待ち受けるように、満を持して真希那が鯉口を切る。三井流・科戸斬による一閃が炎を切り裂き、とうとう、焔は膝をつくのだった。

「まだ、まだだ……まだ俺は……やりたりねェ……」

 最早満身創痍。手を下さずとも消滅は免れないだろうほど、焔の姿は弱っているようにみえた。

「後は俺に任せちゃくれないか」

 そこで名乗りを上げたのは壬生 春虎。彼はまっすぐに焔を見据え、炎そのものを刀身とする朱華を構えてみせる。止めるものも文句を言うものも居はしない。

「チッ……待って、くれるとはな。ありがたい話だ」

 焔もまた炎の刃を再構成し、互いに名乗り合い……そして、尋常な勝負が始まった。

 ――そこから先は、目には映るものの捉えることの難しい攻防が展開されていた。初手から一呼吸で踏み込んだ春虎が霊力を一気に解放した一撃を放つ。

「絶界!」

「それは……!」

 あらゆるものを消し飛ばす絶技。一織流の開祖、坂上 赤紫が会得していた凄まじきその技。焔は目を見開き驚きながらも、炎で巻き上げるようにして防いでみせた。朱華の炎は消え、彼の背後からは大きな霊力の圧が消え去っていた。

「誘ってンだろ、分かってるぜ……!」

 春虎には企みがある。だが焔にはその隙を見逃すほどの力の余裕が残されてはいない。

「見せてみろ! てめぇの……とっておきを!」

「ああ。……見せてやる!」

 春虎の身体を焔の刃が貫いた。最早致命とすらなりうる一撃でも、それでも立つことができるならば十分だ。

「――陽炎舞闘!」

 己の身体を燃やし尽くして戦う構え。それは奇しくも焔と対であったかのようにお互いの身体を切り裂き合う。春虎は倒れるだろう。しかしそれが終われば焔もまた倒れるのだ。

 勝敗はつかない。残るのはただ、命を燃やし尽くした男が二人。

「ああ、畜生……だが、悪い気はしねぇ……」

 燃え尽きれば春虎は身体が残る。しかし、炎そのものである焔はそうではない。
 僅かな燐光だけを残して、

「楽しかったぜ……あばよ……」

 あれだけ執着していた朱音にすら一瞥もせず焔は笑ったまま消え去っていく。

 空は晴れ渡り一陣の風が吹き抜ける。熱の残る隊士たちの身体に涼しさをもたらした後は、最早物言わぬ霊子兵器しか残っていなかった。

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