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禍神伝 ~完結編~

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禍神伝 ~完結編~
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枢との決着2


 制御装置は奪った、けれど枢を逃してはまた大変なことが起きてしまうかも知れない。
 水の霊力を宿した霊糸で編まれた藍染装束を纏った神楽坂 茅波は霊醒の力も用いて霊力の動きに注意を払う。
「皆、構えろ――黒漆太刀、出陣!」
 水城 頼斗の掛け声を合図に、彼ら【黒漆太刀】が枢に立ちはだかった。
「がんばろうな!」
 一人一人に声を掛けながら、袖の無い小忌衣を纏った陽渡 鳴姫は自身の霊力を込めた霊符を前衛の者たちに貼っていき、輝霊錫杖をきゅっと握った。
 テトラ・クレイグも、仲間に霊分を掛けていく。
 風の霊力を纏わせた祢々切丸を握り締めた頼斗は、風雷の一閃を放つ。
 枢に避けられても『余所見すれば切るぜ?』と気迫を向けながら。
 アイ・フローラの符術士としての目標は楪――五星 楪――だった。
 式神を自在に操る彼女に憧れたが故に、まだ未熟だった頃も彼女を守ろうとした。
 そして今、彼女の秘密を知ってからもその想いは変わらない。
(あの時よりも敵は強大。でも、私も強くなりました。だから、頼れる仲間達と共にもう一度、貴女を守らせてください……!)
 三体の岩駆狗を作り出したアイは、三方向からの攻撃を仕掛ける。
 狗たちがどの方向から襲い掛かるか知っていたかのように、飛び跳ねてかわす枢。
「区民の方々にこれ以上怖い思いをさせぬよう、ここで防がせてもらうのです!」
 霊力推進靴の力で枢の背後に回った星野 空兎は、その関節を狙って霊気を纏わせた刃を走らせるが、その姿は揺れる水面のように歪んで命中させることは叶わなかった。
(僕の力では役不足だとは思いましたが……嫌がらせにもなっていないようです)
 仲間の反対側に回り背後を取ったくらいでは、枢を追い詰めることは出来ないのだろう。
「楪さんの秘密を探ろうだなんてふてえやろうだ! なの。女の子の秘密は暴いちゃ駄目なんだよ!」
 霊力を流し込んで真っ赤になった着流しに、背に『悪鬼羅刹』と刺繍された羽織を身に付けた鬼嶋 焔肩を怒らせ、夜叉転身でその身を巨大化させた。
「うむ、どのような目的があるかは知らぬが、女子の秘密を暴こうとするなぞ良い趣味とは言えぬのう」
 メアリ・ノースも頷く。
 もう残すは枢だけ、霊子兵器の脅威もないので雨空に向け月華龍桜を優雅に差している。
「……今更五星家の秘密を知って、何をするつもりかは知らないが。碌なことでないのは、確かだ」
 五星流隊士として、五星 梓の直弟子として、これ以上この五星街を荒らされる訳にはいかないと思いを固め、遠近 千羽矢はほのかに赤みを帯びた鈴を付けた燃え盛る光のような弓に霊力による矢を番え、枢を狙っていく。
(無益な争いは、もう見たくない)
 反射の術式を刻んだ霊符で自身を守る烏墨 玄鵐は、空走下駄で飛び回りながら霊符を放ち、光る花弁に変えていく。
「雨の中の花見とは、乙なものだねぇ」
 余裕げに呟く枢が混乱した様子はない。
「ああもう、そない跳び回ったら当たらへんやないの!」
 鳴姫は八条打ちの卒塔婆を枢の進行方向に落として動きを妨害しようとするが、その読めない動きに術が追いつけない。
 ペースを乱そうと玄鵐が放つ祓禍の光もまた、枢は僅かに点った光と踊るようにかわしてしまう。
 枢の攻撃に対し、ビーシャ・ウォルコットは霊力の間合を測りながら仲間を庇い守る備えをしていた。
 しかし鋼身功で体を鋼鉄へと変えてからでは隠密の戦闘速度に間に合わないからと、生身のまま霊子噴進靴で狙われた味方の前に出たものの、今度は枢の攻撃に鋼身功が間に合わない。
 アームディフェンスでは守りきれず、その痛撃の威力を削ぎきれなかった。
「やっぱり、速い……!」
「大丈夫?」
 傷を負ったビーシャに触れ、鳴姫は傷を癒していく。
「これが私の役割だからねぇ。皆さんが思う存分動き回れるように」
 枢は素早いだけではない。様々なからくり仕掛けに、霊子干渉波によって一時的に技や術を封じる力も持っている。
 それでも半端な火力では抜けさせないと、彼女は笑って見せた。
 足手まといにならないようにと周囲に気を払うテトラは、毒を持つ攻撃がいつきてもいいようにと治療術を施す準備も怠らない。
 隙やチャンスを、どう作るか。
 続く攻防の中、なかなか生じないそれらに腹を決め、頼斗は潜在能力を解放しての獅子吼を放つ。
「――浅い」
 苦無を持つ片腕で受け止められた殴打は、二撃目も上手く決まったとは言えない。
 けれど、ほんの僅かな間が生じた。
「逃がしませんよ?」
 蒼き甲冑の鎧武者の絵姿が描かれた純白の符に凍結の術式を刻み、アイが投げ放つ。
 凍てつくような霊気が枢を捕らえるのにに合わせ、茅波は仁科流の瀑布の型から局所的な重力を形成し、彼の体を濡れた路面に押し付けた。
 焔が突撃するのに合わせ重力は解除され、羅刹の秘技である一瞬の連撃が枢目掛けて打ち込まれていく。
 連続して攻撃を食らった枢は、機械めいた動きでゆらりと起き上がる。
 まだ、その速度は回復していない。
「相棒!」
 頼斗が鋭く声を上げた。
「……これで終わりだ」
“黒漆太刀”の絆を、受けてみろ――
 千羽矢が射った霊力の矢が、枢の鳩尾を貫いた。
「こんな……最期とはね」
 口端を歪ませながら、枢は糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。
『いずれ知ることになる。アタシの正しさをね。くくく……』
 負け惜しみとも思える声が響き、枢は完全に停止した。
 あんなに手を焼いた相手だったのに、仕留めてみればあまりにも呆気ない。
 隊士たちが幼女の形をしたモノを見下ろしていると、その表面に落ちていた水滴の飛沫はいつしかなくなっていた。
 雨が止んだのだ。
 五星家も、楪の秘密も、守られた。
 明るくなっていく空、雲の切れ間から空が見えるのも、もうすぐだろう。
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