■プロローグ■
――十五年前。
「やぁ、兵器局の立花 幹久。……で合ってるかい?」
立花邸の書斎で、幹久は背後から声を掛けられた。
「警備の者はどうした?」
「ああ。気づかれてはいないよ。これでも御庭番になるための訓練を受けていた身だ」
立っていたのは痩身の男だった。
片腕を失い、全身に傷を負っている。血は止まっているが、まともな状態ではない。
「これかい。ちょいと下手打っちまってねぇ。どのみち捨てるつもりの身体だからいいんだけどさ」
「……マガカミか。いや、違うな。何者だ?」
「アタシとしちゃあ人間やめたつもりなんだがね。“久重 元内”と言えば、兵器局なら分かるだろう?」
久重 元内。稀代の発明家で、兵器局が勧誘していた人物。
断り続けた挙句、最終的には帝都から姿を消し、行方は分からないまま。
破門にした弟子がいたらしいが……
「破門にされた“二代目”か。初代が消えた……いや、お前が消したわけか」
「まぁ落ち着きなって。アタシは初代の技術を受け継いでいる。いや、それ以上と言っていい。
アタシの力があれば、あんたは間違いなく出世し、六明館学苑頼りの現状を打破することができる。
嫌いなんだろう? あの連中が」
幹久は考えた。
兵器局は神通者の力以外でのマガカミへの対抗策は未だ見出せず、上層部も考えることを諦めている。
主任になったばかりの自分の発言力は弱い。兵器局を手に入れるには、解決すべき問題があまりにも多い。
「もしお前の言葉が偽りなら、その時は分かっているな?」
間合いを詰め、二代目の首を掴む。
まだ変化するだけの力は取り戻せていないが、釘を刺すには十分だろう。
「おお怖い怖い。まぁ、あんたとアタシの目指す先は同じだ。
この国の支配、なんてちっぽけなことにこだわっているわけではないんだろう、“御館様”」
幹久は手を離し、ゆっくりと頷いた。
「私は“表”から準備を進める。お前には私の影として働いてもらう」
「仰せのままに。……と、その前に。ちょいと身体を新調したいんだが、この屋敷には工房ってありますかい?」
立花 幹久――九厄・宿儺と、後の枢(くるる)である“二代目”久重 元内。
七難会はここから始まった。
■目次■
プロローグ・目次
【1】橋上にて
【1】無尽蔵の霊力
【1】雷
【1】怒れる湊
【1】執念の大蛇
【1】雨が上がる
【5】仁科町付近にて1
【5】仁科町付近にて2
【5】仁科町付近にて3
【5】仁科町付近にて4
【5】仁科町付近にて5
【5】仁科町付近にて6
【5】学苑付近にて
【5】五星街付近にて1
【5】五星街付近にて2
【5】五星街付近にて3
【5】五星街付近にて4
【5】学苑の中で
【5】最後の避難1
【5】最後の避難2
【3】制御装置を奪え1
【3】制御装置を奪え2
【3】枢との決着1
【3】枢との決着2
【2】朝陽と焔
【2】愛と殺意
【2】一織流
【2】想念
【4】崩れた邸にて
【4】理性と本能の狭間1
【4】理性と本能の狭間2
【4】戦いの果てに1
【4】戦いの果てに2
エピローグ