クリエイティブRPG

レヴァナント・クロニクル 王都決戦

リアクション公開中!

 0

レヴァナント・クロニクル 王都決戦
リアクション
First Prev  40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50  Next Last




生寄死帰(1)


 爆発が収まった後に彼らが見たものは、飛禽の躯を思わせるかんばせと、歪んだ黒き翼をもつ異形の姿だった。
 痛々しい爆発の痕を残す床の上から人の背丈ほど浮かびあがって静止し、その青くひずんだ片手に少女の長い髪をつかんでだらんと垂らしている。
「焔子……!」
 少女の名を呼ぶ悲痛な声が響く中、異形はぱっと手を離し、彼女の体を床に落とす。
「まだ息はあります、です……!」
 キキが駆け寄り、すぐに神聖術による治療を施す。しかし、彼女はすぐに結界へと切り替えざるを得なくなった。
 同時に異形の周囲にふわりと何か――煙のようなものが立ち込めた。
 それが一体なんなのか。察するよりも先に、その場にいた全員の背にひやりと冷たいものが駆け上る。
 煙は異形の翼が動くのに従い広がって、その場にいる全員を例外なく包み込んだ。
 直後、がくんと、視界が揺れたような感覚が彼らを襲った。同時に否応ない虚脱感に見舞われる。
「こ、れが……」
 膝をつき、キキが口を開く。その声音がどうしようもなく震えていた。彼女の神聖術をもってしても、致命的な影響をどうにか避けるのがやっとだった。それでも場にいる全員をカバーするには至らない。
「死の波動……です……?」
 キキの疑問に、唯一答えを返せるだろうヴェイロンは、しかし何も答えない。不気味な沈黙を保ったまま、ばさりとその歪んだ翼をはためかせた。
「死の……」
 その言葉に反応したのは焔生 セナリアだ。彼女は未だ脱力感に苛まれる身体を、それでもなんとか動かして、竪琴を構えつま弾きはじめる。
 ひとつふたつ音を鳴らしたところで、一度手が止まる。弦をつま弾く指に力が入らず、思うように音を鳴らすことも難しく思えた。
 けれどセナリアは深く呼吸し、強い意思でもって力を振り絞り演奏を再開する。
 そうして彼女が奏でた曲は「英雄を謳う詩」だ。
「あ……」
 通常よりは弱々しい、けれどどこか威風を感じる演奏に、ロージィ・パラディースが顔を上げる。
 それは英雄を讃える歌。聞く者の心を奮い立たせ、希望を与え、生命の力を引き出す旋律。
 すなわち魔王と対峙し、これより英雄となるだろう、彼、彼女らのための歌だ。
「……なんてこの場に似合いの曲や」
 小さなつぶやきを漏らした後、ロージィはセナリアの演奏に合わせ、音を重ね、響きを膨らませるよう意識しながら竪琴の弦をつま弾いた。
 より勇壮に、より美しく。この戦場の戦士を奮い立たせその背中を支えるために。
 そうして戦場に歌を刻むことで英雄譚『レガリス戦記』を完成させるために。
 二人の奏でる旋律に惹かれたのか、もうひとりのミンストレル、ディア・アルマもまたよろよろと立ち上がった。
「綺麗な旋律を、汚してしまうようですけど……ディアの歌を、聴けー、です!」
 そうして彼女が歌いだしたのは、美しい英雄賛歌とは真逆の響きをおびる複雑な旋律、「魔封の歌」だ。
 本来なら互いに潰しあうような不協和音だけが響きそうなものだが、律動をあわせるからか、互いにその旋律を知っているからか、いまこの瞬間においては奇妙なハーモニーが成立していた。
 ――こんな願いはあまりにもご都合がすぎて、かなうものではないかもしれない。
 それでもこの重なりが、冒険者を勇気づけその命を支えながら、忍び寄る死を遠ざける力になればいい。そう、願わずにはいられなかった。
 

「や、ぁ……」
 勇壮で複雑な音楽を耳にしながらも、ライゼ エンブは苦し気に身をよじらせる。
 死の波動による呪詛は、確実に彼女を蝕んでいた。
 クレリックたる彼女は、少しでも回復しようと神に祈りを捧げる。輝神は確実にそれに応え、いつも通りに癒しの光でライゼを包んだ。
 けれど、苦しみからは逃れられず、先刻の爆発の余波で負った小さな火傷の痛みすら引く気配がない。
(守護結界は、起動した……のに)
 それでも死の理を覆すには至らないのか。その理不尽さに彼女の瞳に絶望が宿る。
「く……」
 ライゼの傍らには同じ様に苦しむ少女がいた。カークリノ ラースである。
 つい先刻まで当たり前に構えていた機関銃を取り落とし、それを拾おうとして指が滑る。
「嘘です、こんな……」
 死の波動なんてあんなもの――ふわりとした薄い煙に包まれただけなのに。
 なのに、当たり前にできることすら奪われてしまうのか。
「くそ、なんて奴だ……」
 苦しむ彼女らをかばうように朝霧 垂がよろめきながらも彼女の前に移動する。垂もまた虚脱感にさいなまれてはいるが、呪いから守る首飾りのおかげか、立ち続けることができていた。
 ぎり、と強い目で異形を――ヴェイロンを睨んでいる。そのまなざしに宿るのは明確な闘志だ。
「まったく恐ろしいの。老衰で死ぬかと思ったわい」
 あわせるようにフィリップも横に立つ。言葉とは裏腹に彼の表情は飄々としていて、ふっと腰を落として構える型も洗練された美しいものだった。


First Prev  40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50  Next Last