クリエイティブRPG

レヴァナント・クロニクル 王都決戦

リアクション公開中!

 0

レヴァナント・クロニクル 王都決戦
リアクション
First Prev  40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50  Next Last




イデオロギーの剣(3)


 その一瞬を好機とみて、駆ける影がふたつあった。
 小林 若葉クロハ・バイオレット。家族を超えるつながりをもつ二人のローグは、合図のひとつもなく、しかし全くずれることなく同時に、挟み撃ちの形でヴェイロンの懐へと飛び込んでいく。
 けれどヴェイロンがなすすべなくそれを受けるはずもない。彼女たちが接敵するより先に、頽れた瑛心の頭上を薙ぐように剣を振るった。
「みゅっ!」
 クロハは幻影を残して回避することに成功したが、若葉はどうしても遅れてしまう。幼げな彼女の細い身体に刀身が容赦なく叩き込まれた。
 素早く駆けまわるために鍛え上げられた屈強な肉体ゆえ、断ち切られるまでは至らず、受け身をとることにも成功したが、それでもクロハのように距離をとることはできない。
「やらせんっ!」
 追撃を予想し、ショウ・カグラが前に出た。若葉に向けて振り下ろされるヴェイロンの剣を、蛮雄とも称される大剣でもって受け止める。
「く……」
 その一撃はやはり重い。ショウほどの腕前をもってしてなお、腕に痺れを感じてしまう。
 ほぼ同時に前に出たアニエス・セニエが少しでもヴェイロンの気をちらそうと攻撃をかけるが、ワールドホライゾンより持ち込まれたナイフひとつでは魔神の加護を貫けず、またそれゆえに気を向けられることもない。
 やはり劣勢が続くのかとショウの胸に重い感情がよぎった、その瞬間。
 ボム、と奇妙な音と共にヴァイロンの剣がわずかにぶれるのを感じた。
「なめないで、です……っ」
 受け身をとった姿勢のまま苦し気に、けれど得意げに若葉は笑う。攻撃を受けたあの一瞬、彼女はわずかに存在する鎧の隙間に、小さな爆弾を仕掛けていたのだ。
 むろんその程度でヴェイロンが傷を受けるようなことはない。
 だが、不意をついた小さな衝撃は、その一瞬だけ彼の太刀筋を鈍らせた。


「今、かな」
 紫月 幸人は構えた二丁の銃の引鉄をひく。
 使用する銃の名はカオスイーターと凪の鬨。いずれも強力な、魔神の加護を突き破りうる威力をもった、準英雄装備だ。
 凪の鬨の影響だろうか。撃ちだされた二発の銃弾は強い風を起こしながら、まったく同じ場所を目指して飛来する。
 ――魔王たるヴェイロンは、剣士らしい厚い鎧に身を固めている。あれがただの鉄の塊のはずがなく、なんらかの魔力を帯び、彼を守っていると考えるべきだろう。
 ゆえに幸人は術式を破壊しうる力を持つカオスイーターを先に撃ち、さらに強い風を起こす凪の鬨を重ねたのだ。
 その反動は強く、二丁の銃を撃った身では体を翻した程度で衝撃を逃せるわけもない。幸人は後方へよろめき、不可抗力で引鉄から指を離してしまった。
 だが、その甲斐はあったと考えるべきだろう。
 二発の銃弾は確かにヴェイロンの腹部を貫き、そこに傷を負わせたのだから。


「ふ……面白い方法を思いついたものだ」
 二丁の銃によってつけられた傷を見て、ヴェイロンは笑った。強い風に吹きつけられたにも関わらずよろめくこともなく、また痛みに表情を歪ませることもなく、ただ楽しげに口元を歪ませる。
 けれど、人族の手で魔王に傷をつけた。その事実は、冒険者たちをおおいに勇気づけた。
「これではっきりしたね。魔王とはいえ、決して届かないものではないということが」
 そう口にしながら飛び込む黄金の気配に、自然と皆の視線が向けられる。
 声の主は、言うまでもなくゴールディだ。彼は自身が注目を集めていると知りながら、あえて正面から距離を詰める。
(さすがゴールディ様。素晴らしいお力です)
 松永 焔子は彼の鎧がもつ視線を集める力に感謝しながら玉座をぐるりと回りこんだ。
 その手には、先刻幸人が使用したカオスイーターと同じ、術式を直接破壊する力を持つライフルが握られていた。
 さきほどの銃撃から、これがやはり有効ではあるのだと確信しながらしっかりと構える。
(さあ、魔王様……その鎧、貫いてさしあげますわね)
 銃口の向きを定め、がちゃりと遊底を操作しながら、焔子は不敵な笑みを浮かべていた。


 金色を纏うゴールディと同様、衆目を集める力を持つ煌めきを放つものがいた。
 それが堀田 小十郎である。
 そのきらめきは、彼が偶像として輝かしい軌跡を紡ぐ世界から運んできた技術であり、この大陸においては、ゴールディの鎧が持つある意味では呪詛のような力にくらべればそう強いものではない。
 けれど、小十郎はそれを気にかけなかった。彼の狙いはまた別にあるのだ。
(この輝きが、己が信念を持つ者の光を支える力となるはずだ……)
 無論、輝神の加護やこの世界で培われた技術に比べれば、その支えは強いものではないだろう。
 それでも彼は、敵の目を引く危険を承知で煌めき続けた。
 彼の背後には幾人もの仲間がいた。いずれも迷うことなく戦うことを選んだ、強い信念を持つ者たちだ。
 小十郎があえて前に出て危険を引き受けるのも、ことなる世の力を用いてまで煌めくのも、すべては彼らのためなのだ。



「始めます」
 小山田 小太郎の低い呟きにうなずき、八葉 蓮花が銃を構える。
 その照準は当然、ヴェイロンに向けて絞られていた。
 彼女の目にもゴールディや焔子の動きは見えている。挟撃して一気に事を構えるつもりだろうと、先を読んでもいた。
(なら)
 連花は焔子のしぐさから銃撃が放たれるタイミングを察知し、それよりほんの少し早く引鉄を引いた。
 彼女が放つのは光をまとったグラウンドバレットだ。
(これひとつで、彼の動きをとらえられるとは思わない。けど……)
 ほんの一瞬、大地の力が繋ぎ止めさえしてくれたなら、きっと仲間がその機会を存分に活かしてくれるはず。
(……信じているわ、小太郎)


 いくつもの銃撃と、激しい剣戟が交わされる最中、小太郎はそっと瞼を閉ざした。
 小太郎には信念がある。
(世界をあるべき姿へ導き、人と魔を共存させる――その理想に、惹かれるものがないといえば嘘になります。ですが)
 ヴェイロンの掲げる思想に、一定の理解を示すことはできる。けれど、どうしても、そのすべてを受け入れることはできなかった。
(あなたは弱き者の甘えと言って、多くの笑顔を切り捨てようとしている)
 小太郎にとって人々の笑顔とは、言うなればこの世を照らす光だ。光のなき世では生命は歪み、その多くが朽ち果てる。
(私にはそれが許せない。ゆえに、あなたに道を譲ることはできません)
 その信念、その決意が、邪念を払い、彼を無我の境地へ至らせる。
 杖をふるい、法服を翻し、このローランドにおける神へと祈りをささげ――そうして小太郎が撃ちだすのは、渾身の、ジャッジメントレイだった。


 ゴールディをはじめとした戦士たちの立ち回り、焔子が放つ貫通弾、連花が砲撃したグラウンドバレット、小太郎の放った光の帯。
 それら全てが、ほんのわずか短い時間にヴェイロンに叩き込まれる。
「皆様、おさがりください!」
 この一斉攻撃以上の好機はない――そう判断したのだろう。焔子の口から予定していた通りの言葉が放たれる。
 グリヴォイ・ルルロは相棒たる彼女の声に反応し、冒険者たちを巻き込まないために予定どおり広範囲を覆う結界、オータスシェルターを発動させた。
 その結界越しに、自分の血と魔力を分け与えた焔子が、その力をもって一気に敵の懐へ飛び込む姿を誇らしい思いで見守る。
 彼女が叩き込むのは、渾身の、自身を巻き込むことを覚悟した至近距離からのオメガフレアだ。
 激しい爆熱が玉座を中心に巻き起こる。竜の力を用いたその一撃が作り出す熱、衝撃はやはり激しく、結界の中にいるグリヴォイの表情すら歪ませた。
 あとは、この強い爆風にのって焔子が戻って来れば計画は完了だ。期待して、グリヴォイはその瞬間を待ち続ける。
 ――けれど、その期待に彼女の相棒が応えることはなかった。


 攻撃に関わる全員がそこに集中していた。自身が撃ちだす攻撃がヴェイロンにどれだけ作用しているか、確認している余裕すらない。
 ゆえに、それに気づけたのは、仲間の危険に備えて後方に控えていた八代 優が最初だった。
 激しい音と光の中、はっきりと何かが見えたわけではない。ただ、本能的な恐怖が彼女の背中を震わせた。
「皆……下がって……!」
 それで何か抑制したいと考えたのだろう。彼女は叫びながら弓を引き絞り、水の術式と共に矢を解き放つ。
 ブラッディレイン。爆熱の中心地に範囲を絞って撃ちだしたそれが、何かを阻害してくれたらと願わずにいられなかった。


First Prev  40 | 41 | 42 | 43 | 44 | 45 | 46 | 47 | 48 | 49 | 50  Next Last