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レヴァナント・クロニクル 王都決戦

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レヴァナント・クロニクル 王都決戦
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〈大聖堂の戦い(11)〉


 戒の攻撃に乗るかのように、ロザリアは槍を手にジャイルズに突進した。
 ジャイルズはもはや振った剣を返す事さえままならない程満身創痍となっている。
 やがて、ロザリアによって剣を弾き飛ばされ、彼女の盾に押し倒されたジャイルズは床に転がった。
 ここまでくれば勝敗はもはや明らか、“虹の旅人”の志那都 彩は大聖堂内にドーム状の結界を張り、傷付いた仲間たちに回復術式を施す。
 ドーム内には当然ジャイルズやロザリアもいた。
 ロザリアはジャイルズにひゅんっと槍の穂先を突きつける……が。
「……」
 それはジャイルズの首に触れる直前でぴたりと止まる。
「何故振り切れない? 覚悟を決めたのではなかったのか!」
 ジャイルズがロザリアを睨め上げた。
「……っ!」
 ロザリアは息を止め再び槍を握る手に力を込めるが、その時だ。
「ああ、分かってる。今すぐ解放――」
「待て」
 パーティ“ロード・ザ・デイブレイク”の他方 優がロザリアを止めた。
「ロザリアさん、少し彼と話をさせてくれないか?」
 優はそう言ってジャイルズの傍に膝を着く。
「覚悟を示せと言うが、そのために肉親を殺すと言うのならばロザリアさんの心はそう遠くないうちに壊れてしまうよ。国を治め、魔界の勢力と戦い続けるという重責が待っているんだからね」
「……それで壊れるようなら、その程度の器だという事だ」
 相変わらずジャイルズの言動は冷徹だが、優は根気強く話し続けた。
「ジャイルズさん、あなたは腐敗した王族や貴族を皆殺しにして、魔王に国を売った裏切り者となろうとしているんだね? そして、そんな自分を討たせる事でロザリアさん……ジュリア王女を救国の英雄に仕立て上げたいのだろう? 彼女による統治を盤石なものとするために、あなたはその礎になろうとしてるんだ……」
「もう……言うな……」
 ジャイルズは呻くように零す。
「最後まで聞いてくれ。こうは思わないかい? あなたが死なずとも、ジャイルズさんを打ち倒した時点で王女は十分英雄に相応しいと。あなたが礎になろうというその目的は、今の時点でもう成り立っているんだよ」
 優がジャイルズと話している間に、ダイアナ・エルナイミネル・バオジョーがジャイルズの前に立った。
「まだ、終わってはいない……」
 弱々しく首を横に振るジャイルズに、優は眉根を寄せる。
「どうしてロザリアさんの心情を慮ってやれないんだい? 唯一残った肉親を殺す事が、ロザリアさんの心にどれだけ深い傷を負わせると思う? 親兄弟もいない状態で国を統治するロザリアさんの事を考えたら、あなたは死ぬべきじゃないんだ。もちろん、裏切り者が王国に居座るのは不味いだろうから、公には死んだ事にして二度とレガリスの土を踏まず他の国で冒険者でもやったらどうかな? 名前も何もかも捨てて、ね。そうすれば、いつかロザリアさんが魔界の勢力との戦いで困った時に助けてやれるじゃないか」
「それなら、ジャイルズ様の鎧を拝借して派手に破壊すればよろしいですわ。死体も残らぬ程の攻撃に晒されたという事にいたしましょう」
 ミネルの発案に優が名案だと頷くと、ミネルは照れ隠しに
「お、王族に恩を売る事が出来るわけですし、優様の考えに反対する理由は無いですもの」
 と目を逸らした。
 ミネルはクォーターエリクシルをジャイルズに差し出して回復させようとし、ダイアナは万一ジャイルズが回復後に暴れ出す危険性を考えてあの手この手で拘束しようとするが、そこにモニカが
「皆さん、ジャイルズさんはもう……」
 と涙を目に浮かべ、止めに入る。
「確かにロザリアさんの事を思えばそれは良い考えだと思うのです。でも……」
 モニカに言われその場にいる者たちがジャイルズに視線を移した。
 確かに、ジャイルズはロザリアに押し倒されてから全く起き上がる気配がない。
 そればかりか、時折不自然に呼吸が乱れ、その視線も定まらなくなりつつある。
「代償なくして得られる力はない。ましてそれが、魔界のものならなおさらだ」
「ジャイルズさんのように魔界の力に馴染む人族は確かにいます。けれど、決して無事では済みません。魔性の力を全力で使えば使う程、体は蝕まれ寿命はどんどん削り取られていきます……魔界の力とは、人族にとってそういうものなのです」
 モニカは皆に丁寧に説明しながらも、その顔には治癒の力が及ばない事への悔しさが滲んでいた。
 それでも何とかならないものかとウィンク・ルリヴァーが強力な治癒術式を施してみたが、魔界の力を受け入れていた彼の体は既に再起不能なところまで蝕まれており、迫る死から遠ざけてやる事は出来ない。
 彼に残された時間は、もう本当に僅かなのだ。
 ならばせめて魔の力から解放し苦痛を和らげてやりたいと、“虹の旅人”の彩がジャイルズの鎧を浄化する。
(血の絆、が命……を繋ぐ、事を願って……いた、けどそれが、叶わない……なら)
 最期くらいはただの兄と妹に戻ってほしいと願いながら彩はひたすら祈りを込めた。
 体を蝕む苦痛が薄らいだのか、ジャイルズの目は自然とロザリアに向けられる。
「ギル兄様……」
 ロザリアは大聖堂に来て初めて彼を「兄」と呼んだ。
「ロザリア様、どうかジャイルズ様とお話を……ご兄妹なのですから」
 リルテがそっと背を押すと、ロザリアは礼を言いジャイルズの前に跪く。
「一度は俺を殺そうとするだけの覚悟を持ったのだ……お前なら、ルクスの血を色濃く引くお前なら、きっと国を立て直せる……」
「ええ……そのためにも、私は決して迷わない。私は、私が正しいと信じた道を行く」
 改めて決意を見せたロザリアに力無い笑みを返し、ジャイルズは
「そうだ、それでいい……」
 と呟いた……が。
 直後、彼は突然隠し持っていた短剣を抜き自らに突き刺す。
 今にも力尽きそうだった彼のどこにそんな力があったのか、誰もが呆然とし止める暇すらなかった。
「ギル兄様!」
 ロザリアが彼の名を叫ぶと、ジャイルズは震える唇で懸命に言葉を紡ぐ。
「ヴェイロンは、死の理を司る……俺はいずれヤツの力で不死者となり、縛られる定めにある。ヴェイロンは俺の真意を読めぬほど愚かではない。元々、俺の時間は限られていたんだ」
 それを防ぐには、人であるうちに討たれ、人として死なねばならない、と。
 息も絶え絶えながら、死相の浮かぶ顔はどこか穏やかであった。
「お前は優しい子だ。だが、甘さと優しさを混同するなよ。
 ……ジュリア、顔を上げて前を向け。国を導くためならば、俺の屍すら、利用しろ……」
 それっきり、ジャイルズは声を発しない。
「兄様……?」
 ロザリアがジャイルズの死を認識するまで、辺りには重い沈黙が垂れ込めた。

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