〈大聖堂の戦い(7)〉
“蒼銀彗星”がジャイルズに当たっている間にモニカはどうにかロザリアの元に辿り着き回復術式を施す。
しかしロザリアは重傷で、再び戦える程度に回復させるには相応の時間を要する状況だ。
アストは何とかしてその時間を稼がなければと剣を構えた。
なかなか隙を見せないジャイルズだが、彼の呼吸は時折乱れ始めている。
ここまで冒険者たちがジャイルズの力を削ってきた証拠だ。
「ロザリアは戦い抜く覚悟を決めてるんだ……こんな所で終わっちゃダメだ! 俺たちは、心に決めたものを貫くためにここに来たんだから!」
アストは切っ先をジャイルズに向け慎重に間合いを取るが、ジャイルズは脅威的なスピードを間合いを詰めアストに襲い掛かる。
「アスト!」
青井 竜一がアストの名を呼び加勢に入った。
「君がジャイルズにぶつけたいと言っていた『答え』、俺も聞きたいからな」
「ああ、分かった!」
頷くアストの前で竜一が
アリス・カニンガムや
ジルディーヌ・ベルセネーと絆を確認し合うと、ジルディーヌは竜一とアリスの武器に輝神の加護を施す。
アストがアンディーンの力を得て剣を抜きジャイルズに突進すると、それに合わせアリスが素早く弾丸を装填しジャイルズに牽制の射撃を入れた。
蛇のように足に絡みつこうとする弾丸をジャイルズは剣先でひと思いに突き潰すが、その間に特殊な呼吸法で身体能力を跳ね上げた竜一がアストよりひと足早くジャイルズの前に到達する。
ジャイルズは竜一に剣をねじ込もうとするが、竜一は自身の剣でそれを受け流しジャイルズの小手を突く。
手首を捻って躱すジャイルズに、竜一は今度は横薙ぎの一閃を繰り出した。
ジャイルズは咄嗟に跳躍して回避したが、着地するジャイルズをアストが待ち構える。
ジャイルズはアストに剣を突き下ろそうとした。
大地をかち割る程の大技を予感し竜一は盾を投げつける。
「アスト!」
竜一の叫びに応えるように、アストはジャイルズに強力な一閃を叩き込みながら言い放った。
「君は、国を……人々を守りたいという意志を貫けなかった。そりゃ、上手くいかない事も思い通りにならない事も沢山あるさ、自分の無力さを痛感する事だってあるさ。だけど、俺はどんなに迷っても自分の意志を最後まで貫く! 自分自身を信じられないようじゃ誰もついてこないからな! 俺はしっかりと自分の行くべき道を進む! 自分自身さえ見失わなければ、自分の意志さえブレなければ、必ず信じて共に歩んでくれる仲間がいるんだ!」
(それが「答え」か……)
竜一は感慨深げにアストを見つめ、ジャイルズは歯を食いしばりアストの剣撃を盾で押し弾く。
「大勢の人たちの命を奪った報いは受けるべきよ!」
アリスが弾丸を術式で分裂させジャイルズの追撃を阻むが、
「受けるべき報いを受ける覚悟はとうに出来ている!」
と、ジャイルズは初めて大声を上げ、凄まじい勢いで剣を振り払った。
嵐のような衝撃波が竜一たちを襲い、ジルディーヌの盾も光壁も彼女たち諸共問答無用に吹き飛ばされる。
倒れるアストや竜一たちの中、ロザリアが起き上がる。
「それ以上その手を血に染めるな……」
モニカの回復が間に合い、ロザリアは毅然と立ち上がった。
「俺の手を血に染めるな、だと? お前はいつまでその甘い考えを捨てられないのだ? お前にはこの国の命運を背負うだけの気概がないのか?」
ジャイルズが剣を振り上げたが、ロザリアは渾身の力で猛進し盾を突き出し受け止める。
「勘違いをするな……」
ロザリアの鋭い眼光が盾越しにジャイルズに刺さった。
「貴様の手が泥に塗れようと魔性に染まろうと構わない。私の大切な仲間たちの気高い血で貴様ごときの手を染めるなど許さないと言ったのだ!」