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レヴァナント・クロニクル 王都決戦

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レヴァナント・クロニクル 王都決戦
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〈大聖堂の戦い(6)〉


「あれ程人族を甘く見るなと言ったのだがな」
 倒れる魔族二人にジャイルズは短く嘆息した。
 その彼の正面にはクランと“蒼銀彗星”の面々が揃うが、クランが一歩動いた瞬間
「動くなと言っただろう」
 とジャイルズの剣がロザリアに振り下ろされる。
 しかし、ジャイルズの注意がクランに向いている間にロザリアは決死の形相で槍を取り、柄でそれを受け止めた。
 ロザリアが剣を受け止めるや否や、クランは大剣のリーチを生かし間髪を入れずにジャイルズに迫る。
 クランを無視する事が出来ない状況となったジャイルズは、ロザリアを蹴り飛ばしクランに剣を向けた。
 すると、クランを援護すべくイレイン・ウィリーが琴を奏で調子の外れた歌を歌い出す。
「魔族だから、人だから、なんて関係ないわ。私には私の『戦う理由』がある。私たちは私たちの都合で、信念で、あなたと対峙するの。この歌を、この調べを、止めさせはしないわ」
 並の魔族なら目測を見誤ったりするだろうが、ジャイルズは長い息を吐きまるで聞こえていないかのようにやり過ごした。
 だが、その隙に星がジャイルズの背後に回る。
 それを視界の端に捉えながら、クランは剣を振るい続けた。
「過去がどうだったとしても、今は明日を願い前進する人が沢山いる。今の人族にだって希望はある筈だ」
 クランの剣を弾きながらジャイルズが答える。
「国そのものが弱体し腐敗すればいくら希望を抱いても無駄だ」
「違う! 希望は光を放つ、それが国を導く。俺はその光を消させねぇ。この剣で護ってみせる。ただそれだけだ……!」
「お前ひとりが足搔いたところで何が変わる!」
 ジャイルズはクランに剣を叩きつけるように振るった。
 これを見たイレインは歌を変える。
 宝石を握りしめ、竜の力を解放して、イレインは英雄の活躍を讃える詩歌で仲間たちの心が決して折れないよう支え始めたのだ。
(今度こそ……今度こそ、私の歌を止めさせはしないわ。この弦が切れようと、私の喉が裂けようと、絶対に……)
 イレインの脳裏に甦る過去が、彼女に一層声を張り上げさせる。
「あんな悔しさは二度とごめんだわ!」
 これを聞き生命力を活性化させたクランが熟練の剣捌きで攻撃をはねのけると、ジャイルズの上体は僅かに開いた。

(今ならロザリアさんを助けられます!)
 モニカがロザリアの所まで全力疾走する。

 クランは自重を乗せた重い一撃をジャイルズに叩き込んだ。
 ジャイルズは後ろに飛びその衝撃を緩和させたが、背後には星がいる。
「ね、おにーさん、遊ぼ?」
 星は大剣をしっかりと手に馴染ませ鮮やかに振るうと、力を溜めて筋力を増大させた状態でジャイルズの背中に打ち込んだ。
(剣も守りも優れているこの人が見せた貴重な隙、私がこじ開ける!)
 ゴッと大剣に盾がぶつかる音がする。
「お前がそこにいるのは分かっていた。生命力の探知なら俺も出来るからな。伊達に魔界の力を受けてはいない」
 ジャイルズは後ろ手に盾を構え背後を守ったのだ。
 ……そこからは瞬きの暇もなかった。
 くるりと身を回転させたジャイルズの剣が、星の足を砕く。
 そして、返す刃の切っ先が星の脇腹を貫いた。
 しかし、星にとどめを刺そうと踏み込んだジャイルズの前に、ヴィオル・ヴィクトルが立ち塞がる。
 そのための時間を稼いだのはステファニア・ライアーだった。
「……どれだけ。理想を、語ろうと。……民を。殺した、ことに。変わりは、ない。……私に。言えるのは、それだけだ」
 そう言いながらステファニアはジャイルズの脚部を狙い雷の術式を刻んだ弾丸を撃つ。
 鎧の隙間からに直に攻撃を食らわせたいところだったが、相手は人族とはいえヴェイロンに次ぐ程の実力の持ち主、そう簡単には狙わせてくれない。
 ジャイルズはステファニアの攻撃を紙一重で躱し間髪を入れず盾でヴィオルを殴り飛ばそうとしたが、ヴィオルは回した両腕でこれを受け流して堪えた。
 ジャイルズは盾を構え直しヴィオルの視界を封じると、ヴィオルの腰元に痛烈な蹴りを入れる。
 だが、その瞬間当然ながらジャイルズは軸足一本で立っている状態となった。
「汝らへの私怨はもうないが、汝らの統治では里の将来が不安なのでな」
 竜族であるヴィオルはそう告げると痛みを堪えながらジャイルズに高速の蹴りを連続で食らわせる。
 気迫の蹴撃がジャイルズを僅かによろめかせ、ヴィオルは更に駄目押しの強力な一撃を叩き込もうとしたが、その前に腰が悲鳴を上げた。
 ジャイルズが体勢を立て直す前に一時撤退させようと、ローブの力で神聖力の高まったミラが杖を振るい神裁術式を発動させる。
 浄化の光が降り注ぎ、魔界の力を得ているジャイルズが回避に気を向けた隙にヴィオルは星を抱え後退、星にハーフエリクシルを飲ませる彼をミラは回復術式で癒した。

 満身創痍の仲間たちを秘かに見守りながら、フェルディク・ルブリザードは息を吐いた。
 彼は外套の能力で大聖堂の風景に溶け込み、気配を消したまま祭壇の陰に隠れている。
(全く、あんなに無茶しやがって……結界起動が最大目的だってのを忘れてないだろうな? いざ結界起動って時にまた魔族が現れて邪魔されちゃどうしようもないからな……)
 ファーリーが持つ直感を頼りに、フェルディクは周囲に伏兵が潜みそうな場所はないかと警戒を続けた。

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