〈大聖堂の戦い(5)〉
レンとすれ違うようにしてロザリアはジャイルズの間合いに飛び込む。
上段からの突きと見せて盾を押し出しジャイルズの視界を封じると、素早く槍を動かし盾の脇から薙ぎ払うように出した。
「いい目になった。だが……まだこの程度か!」
ジャイルズは目にも留まらぬ速さでロザリアの側面に踏み込み盾をスイングさせる。
「くっ!」
ロザリアは咄嗟に槍の柄で受け止めるが、パワーは完全にジャイルズの方が上だった。
よろめいたロザリアの肩にジャイルズの剣が容赦なく振り下ろされる。
「やめろ!」
アストが割り込みジャイルズの剣をかち上げたが、一歩遅かった。
アストのお陰で致命傷は避けられたものの、ロザリアは立っていられない程の斬撃を食らっている。
「ロザリアさんっ!」
モニカがロザリアを治癒すべく駆け寄ろうとするが、ジャイルズは倒れたロザリアの首元に切っ先を突き付けた。
「妙な真似をすれば即座に首を刎ねる」
「……っ」
モニカはその場に硬直する。
サラとテッドはすぐにでもロザリアの救出に向かいたかったが、魔族二人がそれを許さない。
ヴェイロンガードはテッドに剣撃を畳み掛け、ダークエルフはサラと射撃の応酬を始める。
サラとテッドが押さえているとはいえ、冒険者たちがジャイルズに向かえば魔族たちは何らかの手を打ってくるに違いない。
“蒼銀彗星”の
ミラ・ビィエーラはすぐ傍にいる
ニキティア・レリエーナの武器に加護を施すと、続いて
クラン・イノセンテや
星・カグラたちにも同様の加護を施し「魔神の加護」を打ち破る力を与えていく。
テッドが剣撃を躱せるよう、ニキティアはヴェイロンガードの頭上に水の矢を降らせた。
「皆の戦い、邪魔しないでよね!」
ニキティアがヴェイロンガードを止めに入った隙に、クランはジャイルズに突撃する。
ヴェイロンガードはニキティアの矢雨を素早く回避するが、テッドはその間に間合いを取った。
そして、
アルク・フェンディも対ヴェイロンガードに加勢する。
「退け!」
ヴェイロンガードはアルクを盾で殴り飛ばそうとするが、アルクは
「ロザリアさんもアカツキのみんなもそれぞれの目的のために、ジャイルズさんに答えをぶつけるために戦ってるんだ! それを邪魔はさせない!」
と刀で盾を受け流すと、自身も盾を構えてヴェイロンガードの前進を阻んだ。
その鉄壁の構えを突き崩そうとヴェイロンガードが強烈な体当たりを食らわせると、さすがのアルクも数歩後退る。
だが、テッドが動くには十分な時間をアルクは確保していた。
「恩に着るぜ」
テッドは素早くヴェイロンガードの死角に回り、高速でナイフを繰り出した。
「人族の技は生温いな!」
ヴェイロンガードはテッドの攻撃をあっさり躱し、彼のあばらを剣の柄で砕く。
テッドは短い呻き声を上げたが、その顔に焦りや恐怖は見えない。
「生温いのはどっちだよ? 腕を見てみろ」
「あ?」
テッドの言葉にヴェイロンガードが己の腕に目をやった瞬間、剣を握っていた筈の腕が消え去っていた。
初撃を躱された直後、テッドは高速で追撃を入れていたのだ。
ヴェイロンガードの腕は大聖堂の端に転がっている。
「決めろ!」
テッドはニキティアに叫んだ。
ニキティアが風の術式を込めた銃弾を撃つと、ヴェイロンガードは弾丸を避けられず吹き飛ばされた。
「たかが人族にやられおって!」
ダークエルフはヴェイロンガードの敗北に怒り、持てる全魔力を結集させてサラを狙う。
トリガーを引けばサラは木っ端微塵という危機的状況を作り出そうとするが、そこに音もなく縄付きの魔力弾が飛んできた。
ダークエルフがトリガーを引こうとした手を掠った弾の軌道を振り返ると、そこには凛がいる。
「また貴様か!」
だが、それがダークエルフの最期の一言となった。
直後に強烈な電撃がダークエルフを襲う。
木っ端微塵になったのはダークエルフの方だった。
鮮烈な雷光と爆発音の中にいたのは、蒼き雷鳴の力を解放したサラだった。
「あなたのお陰で力を解放する時間を稼げたわ。ありがとう」
サラは今度こそ凛に微笑を見せる。