〈大聖堂の戦い(4)〉
「皆、行くぞ……」
大聖堂入口の扉に掛けられたロザリアの手に、パーティ“虹の旅人”の
猫宮 織羽の手が重なる。
「ロザリアさん、思うままに進んで。全力で支えるから」
織羽はそう言ってにっこりと笑った。
織羽と共に来た
リルテ・リリィ・ノースも
「いよいよジャイルズ様との決着の時、ですが……オルハの言うようにわたくしたちが全力でお支えしますから、思うままに行かれませ、青の王女様」
と言い添える。
反対側からは、
戒・クレイルも静かに声を掛けた。
「以前貴方と共闘したあの日から、再び助力となれる日を待ち望んでおりました。この“蒼の疾風”、貴方の想いを繋ぐ風となりましょう」
「ああ、頼りにしている」
ロザリアの後ろでは
天峰 ロッカも真剣な面持ちで彼女を見守っていた。
(ダヌビス河で共に戦ったあの時から私の覚悟は決まっている……ロザリアさんをどこまでも支えるって)
ロッカはティーゼルに託された聖典を胸に強く抱く。
突入を前に、
三雲 封真は
クロエ・クロラと
リーオ・L・コルネリアの姿を視覚や聴覚で敵に捉えられないように隠した。
ロザリアはロッカの想いを背中に感じながら、意を決して扉を開く。
大聖堂最奥、祭壇の前にジャイルズは立っている。
その両脇にはヴェイロンガードとダークエルフ。
ロザリアはぐっと奥歯を噛みしめながら槍を構え、走り出した。
冒険者たちも“アカツキ”のメンバーも彼女を援護しようと駆け出すが、ダークエルフの術が発動する。
魔力の矢が一度に数本床に刺さり冒険者たちを足止めし、その隙に乗じてヴェイロンガードも斬り込んできた。
「覚悟の戦いを邪魔するってか……いただけねぇな。ロザリア、こいつらはオレに任せとけ」
テッドがヴェイロンガードとの間合いをはかりながらロザリアをジャイルズの元に行かせようとする。
ヴェイロンガードがテッドから距離を取りロザリアを追おうとするが、今度はサラの魔力弾がヴェイロンガードの頬を掠めた。
サラはテッドをちらりと見やる。
「腕利きの魔族たち相手にあなただけじゃ心許ないわ」
すると、冒険者たちも数人その場に足を止めた。
「その銃、エルフの里に行って全力出せるようになったんだよね? なら、使わないと勿体ない。サラさんが心置きなく撃てるように俺も手を貸すよ」
畑中 凛がサラの隣に並ぶ。
「どうして?」
サラは表情を変えず直球で問い掛けた。
「どうしてって……サラさんは俺と同じエルフのマギアシューターだから、正直憧れてるんだ。あ、純粋に憧れてるだけだから、誤解しないでね!」
「誤解はしないけれど、アカツキ以外にも変わり者の冒険者がいるって事は覚えておくわ」
毒気のある言い方をする割には、サラの口元は一瞬だけ僅かに上がる。
「変わり者か……まあ、とりあえずそれでいいや。サポートは全力でする、だから任せてよ!」
「……ええ」
凛は手始めにダークエルフの頭上から水の矢を降らせた。
「その程度で私を止められると思ったか」
ダークエルフにも矢雨を回避するだけの地力はある。
だが、避けた先にサラの魔力弾が迫るとダークエルフは術式を発動させてそれを相殺し逃れるのがやっとだ。
「忌々しいねぇ、全く」
ダークエルフは舌打ちしながらサラと凛を睨む。
サラたちが魔族の足止めを始めると、自身の姿を隠した
レン・行坂が
行坂 貫と魔力を共有し歌い出した。
「自己犠牲と責任感に溢れたお兄さん……貴方を死なせずに止めたい」
レンの歌は、動きを制するまでにはいかないもののジャイルズの表情を曇らせる。
その隙に貫は床を滑るように走って一気にジャイルズに迫り、大きな十字架をぶつけた。
「あんたを人に留めているものは何だ? 妹か?」
ジャイルズは盾で十字架を受け止める。
「人も魔族も関係ない。資質ある者が国を導く、俺が求めるのはそれだけだ」
「だからって死に逃げるなよ。犯した罪は生きて償え!」
貫は全力で十字架を押し付けるが、ジャイルズは盾でいなすや否や
「俺は逃げなどしない!」
と剣で貫を薙ぎ払った。
レンはジャイルズを止めるには一刻も早く結界を起動させるべきだと祭壇目指して走り出す。
祭壇に辿り着いたレンは石板のような物に触れてみるが、結界が起動する様子は一切ない。
「それはルクスの血を引く王家の者でなければ起動出来ない。俺が起動させる事はあり得ない。ならば、答えは自ずと分かるだろう」
ジャイルズの絶対零度の視線に、レンは悔しさと切なさの入り混じった心地で祭壇を降りる。
「死に逃げるな、か……」
何かが彼の心に刺さったのか、誰にも聞こえぬ微かな声でジャイルズは呟いた。