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レヴァナント・クロニクル 王都決戦

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レヴァナント・クロニクル 王都決戦
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あの教会を目指せ(1)


「……どういうおつもりですか?」
 リアナは警戒の目で西村 由梨を見た。
「言った通りよ。リアナさん、あなたにこの戦いの指揮をとってほしいの」
 由梨はあくまで真剣な眼差しで誠実に同じ主張を繰り返す。
「もしこの戦いにおける功績者が一介の冒険者だと認知されたなら、戦後、彼らを利用した新たな権力争いが起こるのは間違いないわ。だけどリアナさん。あなたが指揮をとり、功績を一身に集めることができれば……」
「……私の働きはそのまま、教会のものとされるでしょうね」
 頷く由梨から視線をそらし、リアナは深い溜息をついた。
「――お考えは理解しました。私が指揮をとること自体は構いません」
 リアナの言葉に、由梨はその表情を明るくさせる。――「ですが」と、リアナの言葉が続くまでは。
「ですが、私が指揮を執る事と私が功績を受ける事は同じ意味を持ちません」
「え……」
 戸惑う由梨に、リアナは笑みを浮かべて見せる。
「冒険者の皆さんを支えるのが教会の役目です。それはこの戦いにおいても変わることはない……それを、ご理解くださいね」
 それはいつもカウンターで見せる、あの穏やかな微笑みと同じものだった。
「それに、この戦いの人界側の象徴となり得るお方はもういらっしゃいます。彼女の下で王国の騎士たちが、冒険者たちが一丸となって戦った。最も重要なのは、その事実なのです」

 アンジェラ・バゼットの祈りが、柔らかな光を放つ。
 それは一気に膨れ上がり、ドーム状の光の壁となって冒険者たちを取り囲んだ。
「ありがとう、アンジェラさん。おかげで安心して最後の確認ができそう」
 最初にお礼を口にしたのは雷電の三連星のひとり、シャロン・P・ライトフィールドだ。
「お役にたてて嬉しいわ」
 向かい合う彼女らの口元には友好の笑みがある。だが、今回の標的である教会を見やる瞬間には引き締まって、共に緊張の面持ちへと変化していた。
 シャロンたちの懐には、大宝玉と呼ばれる輝神オータスの力を秘めた石が預けられている。
 これを教会へと運び込み、その奥にある結界を起動すること。
 これが、今回集結した冒険者たちの目的になる。
 教会は現在、四魔将シグによって占拠されている状態だ。周囲には恐ろしい死霊や謀反を起こした騎士たちが大勢配置されている。
「……彼らにも思う所があるのでしょうけど、私達にも信じる未来がある。諦めるわけにはいかないわ」
「うん。頑張らなきゃね」
 アンジェラの真摯な言葉に、シャロンは深く頷いた。
「――シャロン」
「っ」
 不意に背後からささやかれた声に、シャロンがびく、と肩を震わせる。慌てて振り返ると、アンジェラと同じパーティ【遥かなる銀の翼】に所属するローグ、黒瀬 心愛が立っていた。
「状況を確認してきました」
 いまだ目を丸くしているシャロンとは対照的に、淡々とした表情で心愛は口を開く。
「ここからも確認できるとおり、教会の外にも多くの敵が配置されています。教会の裏側も確認しましたが、こちらも敵は配置済。加えて通行可能な場所が狭く、大勢の冒険者を伴った侵入は現実的ではないでしょう」
 教会への侵入を目指すのは、何もシャロンたち雷電の三連星だけではない。彼女らを守るべく同行する者や、シグ討伐に乗り出す者も数多く存在する。
「結局正面突破が一番の近道ってわけか。いいじゃねぇか、腕が鳴るぜ」
 心愛の報告に、シャロンと同じ雷電の三連星の一人、蒼い稲妻の異名をもつ戦士レミが愉快そうにニヤリと笑う。
 そのまま腰に下げた細剣に手をかけ、先を急ぐように歩きだした。
「おっと、先陣ならアタシに任せてもらうよ」
 それを制したのは心美・フラウィアだ。
「アンタらは大事なお役目があるんだろ。それが先頭切って教会の前で潰れたんじゃ、たまらないからね」
 不敵に笑いながら、心美は剣を抜き、盾を掲げる。その隙のない構えからは、なんとしても皆を護ると誓う、彼女の強い決意が感じられた。
「へ、痛いとこついてきやがるな。……いいだろう、頼んだぜ」
 その肩をぽん、と軽く叩き、レミは一歩後方へと引く。
 入れ替わりに先頭に立った心美が、力強く皆へ呼びかけた。
「それじゃ、行くよ!」
 宣言通り、先陣切って教会目指し、死霊の群れへと突撃する。
 そのあとを追うように、多くの冒険者たちが駆け出した。


「よぉっし、私も!」
 心美たちの援護をすべく、後方で動いたのは雷都 美幸だ。
 片手で稲妻の意匠が彫られた大型拳銃を握る彼女の標的は、赤い目玉に羽が生えたような異形――使い魔ゲイザーだった。
 目玉から光線を放つあの魔物を放置しては、仲間が接敵するより先に痛手を負うことになると考えたのだ。
(よーっく狙って……いまっ!)
 これまで培ってきた技術と、銃自身がもつ誘導の術式の力。それらが合わさった結果、美幸の放った銃弾は見事一匹目のゲイザーの目に着弾した。
 とたん、魔力の鎖がゲイザーと地面とをつなぐように現れる。彼女の一撃、カラントボルトが見事ゲイザーを拘束したのだ。
「さっすが、あいぼー! それを待ってましたっ!」
 そこに続いたのは池神 瑠亜だ。彼女は小さな体には不似合いなほど大きな、いわゆるバリスタと呼ばれる大型の弓を全身で支えたまま、美幸と同じ標的に向けて引鉄を引いた。
 すでに鎖の拘束を受けたゲイザーに、飛来する矢を回避する術はない。それはそのまま目に深く突き刺さり、直後、花開くように破裂する。
「やった……!」
「へへん、冒険者なめんなです!」
 火花と共にごろり地面に転がるゲイザーに、美幸と瑠亜はそれぞれ喜びの声を上げた。


 仲間の援護射撃を受けた心美は、魔族の先陣たる死霊の騎士との接敵に成功した。彼女は間合いを詰めると同時、相手が盾を掲げるより先に雷芯剣を突き出す。だが敵もさるもので、その切っ先は死霊の剣によって弾かれた。
(やはり油断ならない相手なのですね)
 心美のすぐ後方でその攻防を目撃し、暁月 弥恵はわずかに目を細める。
(けれど、私たちも研鑽を重ねている。――負けるはずがないのです、本来の実力を出せさえすれば)
 直後、弥恵はタン、と音を立てて路面を踏んだ。それはミンストレルたる彼女の、舞踏の始まりを意味している。
 力強くも美しいその身のこなしは、自然と仲間たちを勇気づけ、奮い立たせる力となった。
 弥恵の足が刻む律動に合わせるように、心美の剣が振るわれる。さきほどは弾かれた刺突の一撃が、今度は確実に敵の懐へと叩き込まれた。
 弥恵は内心ほっと胸をなでおろしながら、麗しく舞い続ける。それが仲間を教会へと導く力になると、強い確信を胸にしながら。


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