〈野営地防衛戦(7)〉
辛うじて生き残った少数のゴブリンたちが満身創痍で敗走していく。
“希望ツバサキガケ”の後押しも効いたか、野営地での人族軍勝利は揺るぎないものとなった。
だが、少数とはいえ敗走したゴブリンたちは武器を手にしたまま市街を通る。
彼らには「負傷者を襲わない」などという良心も「医療部隊に攻撃しない」などという不文律も存在しない。
救護に当たる冒険者を見るや、剣を構えじりじりと近付いていくが……。
「その剣捨ててもらおうか」
冒険者パーティ“蜻蛉と蝶々”の
シン・カイファ・ラウベンタールが呼び止めた。
「オレたちは仲間の安全を確保しなきゃなんねー。捨てねーなら相応の対処をさせてもらうが、投降するなら治療くらいはしてやる。ここでお前ら倒して血を流そうが治療して血を止めようが、オレらにゃ大差ねー。決めるのはお前らだ」
シンの後方からも
一寿・ウィーバーがゴブリンウォーリアーに投降を求める。
「大勢は決した。もう武器を置いてくれないか? お互いこれ以上血を流す事が良い事だとは思えない。それでもまだ戦うと言うのなら、僕たちも相手をしなければならないが」
一寿の前、シンの傍らでは
高崎 朋美が
(出来れば武器を置いてもらいたいな……そうすればこちらもこれ以上傷付けないで済む……筈)
と願いながら、
「ボクたちは約束を守るよ。守りたいと思ってる」
と訴えた。
ゴブリンウォーリアーは仲間のバーグラーたちと顔を見合わせながら、剣を地面に置く。
それを見た
ロレンツォ・バルトーリは、敗残敵の戦意を喪失させるには怪我の治療など情けを掛ける行為が有効だと考え、応急処置を施そうと歩み寄った。
「戦うの、ホントのところ、私好きではないのだヨ。気持ち、受け取ってもらえたら、私嬉しいのだけど」
そう声を掛けながらロレンツォが姿勢を低くした時だ。
剣を置いたゴブリンウォーリアーが突如声を上げ、それを合図にバーグラーがロレンツォの首筋にダガーを突き出す。
ロレンツォは咄嗟に光の刃を飛ばして後退り、光壁を展開した。
彼とゴブリンの間には、
「刃向かうなら容赦はしない」
と
クロハ・カーライルが割って入る。
「頼もしいネ」
銃を構えるクロハにロレンツォが笑顔を見せると、クロハはゴブリンを睨んだまま
「君の命の方が僕には大切だからね、ロレンツォ」
と返し引き金を引いたが、ウォーリアーは盾でそれを弾き反撃の構えを見せた。
朋美は仲間を守るように立ち、一寿は弓に矢を番え味方を守るために迎撃の姿勢を取る。
シンも刀の切っ先をゴブリンらに突きつけた。
ゴブリンたちは一瞬怯んだものの、剣を拾い上げたウォーリアーと共に“蜻蛉と蝶々”に攻撃を仕掛ける。
シンと朋美が剣撃を受け止めると、一寿の矢とクロハの銃弾がゴブリンらを貫き、その動きを完全に止めた。
ゴブリンらの動きには明らかな殺意があり、そこに迷いはなかった。
説得に応じる素振りを見せたのも冒険者たちを油断させるため以外の何物でもなかったのだ。
魔族には人族の良識は通用しないのか……“蜻蛉と蝶々”の面々は複雑な表情を浮かべながら再び歩き出す。