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レヴァナント・クロニクル 王都決戦

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レヴァナント・クロニクル 王都決戦
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〈野営地防衛戦(6)〉


 冒険者と騎士の奮闘でゴブリン部隊は明らかに敗色濃厚だ。
 ここで、パーティ“希望ツバサキガケ”が動き出した。
 野営地内の救護所を中心に藍屋 あみかが香を焚きながら歩き回る。
 耳を欹てても聞こえてくるのは戦線復帰を焦る騎士の声ばかり。
 負傷して救護所に撤退している彼らの心はやはり悔しさに満ちているのだろう。
 あみかは救護所にいる騎士たちに声を掛けた。
「今すぐ動けなくても、皆さんのお気持ちはきっと明日に繋がります。明日への舞台、いかがですか?」
 とはいえ、怪我人を救護所から引きずり出すわけにはいかない。
 あみかは救護所から外を覗いてくれればいいと言い残し、仲間たちを呼びに行く。

* * *


 その頃、アーヴェント・ゾネンウンターガングエヴァリア・リオージェーリビスはパーティの仲間たちに背を向けるような形で野営地後方のゴブリン部隊を見据えていた。
 蔓延る不安は士気を下げる、それが戦況にどんな影響を与えるかは大いに察しがつく。
 竜の試練での誓いを胸に、歌で希望を魅せ皆を鼓舞し不安から一人でも多くを救う事で「守るための戦い」を貫くべく、アーヴェントは竜の姿に戻ったエヴァリアに跨がった。
「最高のライブにしよう……頼んだぞ、エヴァ」
「私の力、存分に受け取るといい、共に在る者よ」
(アーヴェント、お前は取りこぼされた「民衆の苦しみ」を拾い上げたいが為に認められ望まれる事を、その為の力を望んだ。この世界に生きる全ての存在に、苦しむ全ての者に手を差し伸べたいと願うお前だからこそ、私は共に在るのだ)
 アーヴェントの確かな存在を背中に感じながらエヴァリアは僅かに地上から浮き上がる。

 やがて救護所の外で快活な笛の音が響き始めた。
 ノーラ・レツェルがライブの幕を開けたのだ。
 何事かと救護所の騎士たちがノーラを見やる。
 中には彼女の意図が読めず訝しげな眼差しを送る者もいた。
 そうした反応もある程度覚悟していたが、それでもノーラは伝えたいのだ。
 辛い思い出さえもいつかは笑い飛ばせる日が来ると、諦めなければ希望は必ず見出せると。
 負傷者たちの関心が向き始めた事を自覚したノーラは、笛の音を止め力強く歌い出す。

 優勢とはいえ味方はまだゴブリン部隊とやり合っている。
「力を貸す、もう少しの辛抱だ。主戦場で戦う者たちの凱旋を信じよう」
 アーヴェントは背後から響くノーラの歌に合わせるようにして竪琴を奏で、英雄の活躍を讃える詩歌で皆に「勇気」という名の折れない気力を与えた。
 アーヴェントの演芸の合間にも残存するゴブリン部隊がしぶとく抵抗を見せるが、その巨大さ故に目立つ護衛役のエヴァリアがバーグラーの投擲攻撃を剣で受け流し、間合いに飛び込んできたウォーリアーにはその頭上から返す刃で斬り付け鋭い痛みを与える。
「今だ」
 エヴァリアの攻撃でウォーリアーが怯むと、アーヴェントは味方を先導するかのように曲調を崩した。

 すると、負傷者たちを更に惹き付けようと狛込 めじろが救護所の上を飛び始める。
 「ツワブキ」と名付けた鷹と共に飛びながら、
「皆さーん、もうひと踏ん張りですよーう! 一緒に頑張りましょーねっ!」
 と満面の笑みを浮かべて声を張る。
(お化けみたいな鬼火と骨が徘徊する街とか、ゴブリンが押し寄せる野営地とか、縁起でもないですよ。ここにいる人々を元気付ける為にも笑顔は忘れてはいけませんよね! だってわたし、アイドルですもん!)
「仲間が戦っているというのに、ここで呑気に歌など……」
 未だライブを受け入れられない者もいたが、めじろはめげない。
「『小娘が何を』って思うかもしれませんが、わたしたちはこれまで希望と笑顔と歌を武器に戦ってきたんです。案外馬鹿に出来ないんですよ、歌の力って」
 めじろがそう言った直後、ノーラの歌が佳境を迎える。

「何もかもを投げ捨てたくなる そんな日もある
だって世界は不条理で理不尽 それが普通だ
変えるのは自分自身 誰かに頼ってたら何も始まらない
変えるなら今しかない いつだって今がゼロスタート、良くするも悪くするも自分次第
変えよう未来 作ろう未来
希望はそこにある」

(この歌が皆にとってこれからの行動の一助となるように……戦う仲間にとって勇気のひと押しとなるように……)
 そんな願いを込めて絶唱するノーラの前にあみかがポピーの幻影を咲かせライブを彩った。
 負傷者たちはいつの間にかノーラの歌声に魅入り、その双眸にも活気が漲る。
 一層場を盛り上げようと、めじろは万一に備えてツワブキを斥候として上空に残したまま着地した。
 そして、救護所にいる者たちに手拍子を促しながら
「希望の光、見えてますかー!」
 とローグならではの分身技を披露して踊り出す。

* * *


 ゴブリン部隊をほぼ壊滅状態に追い込んだのを確認すると、アーヴェントとエヴァリアはやや高度を上げた。
 救護所から見上げる負傷者たちに、アーヴェントは独特の発声法でただ一言
「仲間を信じろ」
 と刻み込む。
 「勇気」と「仲間」が皆の希望になる事を願い、ウタがそれを叶えると信じて。
「アーヴェント、よく覚えておくといい、この光景を」
 戦場を見つめながらそう囁きかけるエヴァリアに、アーヴェントは小さく頷いた。
 そして、
「これにて、終幕――」
 とお辞儀をしながらエヴァリアと共に着地する。
 盛大な拍手が送られる中、ノーラは仲間たちの手を取り感謝の気持ちを伝えた。
「一時の夢だとしてもきっとみんな希望を持ってくれた。僕だけでは成し得なかった、ありがとう」

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