〈野営地防衛戦(2)〉
キャンベル伯に護衛を託されたキョウは精霊の加護で自らの力を活性化させると、耳あてをして優れた視聴覚で敵を探る。
既に野営地後方の外郭ではロイドや騎士たちが戦闘を始めていた。
「あれは、ゴブリン部隊か……まぁ、俺のやる事はいつもと変わらん」
ゴブリンと剣をぶつけ合う騎士の背後に、ゴブリンバーグラーが小型ナイフを手に忍び寄る。
ゴブリン部隊は、数の少ない騎士を個に切り離し複数で攻めるという狡猾な連係を見せていた。
キョウは鋭敏な視覚でその様子を捉えると、敵部隊後方で追撃に入ろうとしている一団目がけて強烈なビーム弾を放つ。
光に呑み込まれ瞬殺された仲間を目の当たりにしたゴブリンらの足並みは乱れたが、生き残ったゴブリンらは騎士を単独に切り離して取り囲み、ゴブリンバーグラーが死角から騎士を突いた。
キョウは銃の引き金を素早く引き、銃撃を続けて騎士を支援する。
そして、騎士たちは全力で剣を振り払いゴブリンを迎え撃った。
(それ以上近付けさせん。とにかく、このセーフティゾーンを全力で守りきるさ)
騎士たちを援護するようにキョウは弾幕を張る事を意識してひたすら発砲したが、それでも弾丸をかいくぐり前進するゴブリンはいる。
そこに、己の力を活性化させたシルバが風の精霊の力を宿した大槍を弓に変えて射掛け、援護した。
「さあ、今を生きる人族らが何を繋げられるのか、見せてごらんなさいな」
「何だ、興が乗ったのか?」
キョウに問われ、シルバは口元を仄かに吊り上げる。
「ええ。遂に人族の刃が魔王のひとつに届く……天秤の傾きが動きうるかもしれないこの『今』を楽しまないなんて勿体ないですもの。こうして援護して差し上げれば、契約者サマも色々と余裕が出来ませんこと?」
* * *
ゴブリン部隊との戦いが始まって間もなく、救護テントには負傷した騎士が運ばれるようになった。
マリアベルはまず小規模聖域を展開して騎士たちを迎え入れ、順番にトリアージする。
神官隊にも負傷度合いに応じて騎士を割り振りながら、軽傷者には自ら救急鞄を開けて治療を施し、重傷者には強力な治癒術式を用いた。
中にはゴブリンバーグラーに毒の刃を食らった騎士もいたが、マリアベルは万能薬を用いて回復させる。
そこに前線から撤退してきた負傷兵が続々と加われば、今度は瘴気に当てられ体調を崩している負傷兵を浄化していった。
(ふぅん……やるじゃありませんこと)
彼女の働きぶりをキャンベル伯は冷静に、しかしその瞳の奥に昂揚を隠しながら見守っていた。