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レヴァナント・クロニクル 王都決戦

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レヴァナント・クロニクル 王都決戦
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〈野営地防衛戦(1)〉


 それぞれの地点で魔王ヴェイロン軍との戦いが繰り広げられる中、ルクサス近郊の野営地では諸侯たちが補給部隊や医療部隊と共に後方支援に備えていた。
 その中でもオルディアの神官隊による医療部隊を手配したキャンベル伯に、“プロムナード”のマリアベル・エーテルワイズが挨拶に訪れる。
 彼女の傍らには、“プロムナード”の片翼を担うキョウ・イアハートと彼に随行してきたシルバ・アエロプースもいた。
「初めまして、キャンベル伯。僕らは冒険者パーティ“プロムナード”です」
「あなたたちが“プロムナード”……ええ、アーデンでの活躍は聞いております。わたくしに何の用ですの?」
「医療部隊を一部お借りしたいのです……誰も死なせない為に。負傷兵の方々の治療と護衛を是非ともお手伝いさせて頂きたい。上手くいけば、オルディアの神官隊の方々や彼らを手配したキャンベル伯の評判も良くなる事でしょう」
 キャンベル伯は何やら思案しているのか、真剣な面持ちで請うマリアベルを無言で見つめ返す。

* * *


「野営地は俺たちが守る、魔族の好きにはさせねえ」
 “野営地防衛隊”のジェイク・ギデスは、城や市街主要道の大まかな方角から何となく魔族が奇襲を仕掛けてきそうな方向を絞り込み、シャベルで懸命に落とし穴を掘っていた。
 野営地入口を正面とするならば、彼が穴を掘っているのは野営地の側面といったところだろうか。
 ジェイクの掘った穴を草や小枝で隠蔽して回るのは園崎 龍馬だ。
 野営地の騎士たちは忙しそうでロープや網などの手配を頼めず、穴を掘るにも道具がないという状況だったが、龍馬は出来る事をしようと駆け回る。
 穴の隠蔽を龍馬に任せ、ジェイクは次に野営地外周の木々にロープ付きの弾丸を飛ばした。
 ロープが目立たないようなるべく木の根元を狙う。
 周囲の騎士たちにもここにトラップを仕掛けた事を触れて回り、あとは敵が引っ掛かるのを待つだけだ。

 その傍らでは、歴戦の特異者たるオーラを漂わせるテレサ・ファルシエがブーツの力で滑らかに野営地の外周を回り、大きめの木を見るや巨大な絵筆を取り出して幹に絵を描いている。
 木を見つける度に魔除け代わりに絵を描いていったが、ふとテレサは獣人特有の勘で身に迫る危険を察知した。
 何かがごそごそと動く茂みに危機感を覚えたテレサは実体のある幻を生み出しそれを身代わりにしてその場から撤退する。

 ジェイクらが身を潜めて監視を始めてどれ程経っただろうか。
 何者かが野営地周辺を窺うようにして動き回るのが同じく“野営地防衛隊”の烏墨 玄鵐の目に留まる。
「戦闘はともかく、芸事には自信があるからね。さあ、狩りが始まるよ」
 玄鵐は罠を前にして立ち、まるで相手を誘おうとでもするかのように前奏を歌い出した。
 小さな風切り音と共に大きな針のような暗器が玄鵐に飛んできたが、
「誰も死なせません!」
 と田沼 妙有が玄鵐の前に光の壁を展開させて守る。
 ならば光壁ごと叩き斬るまでとゴブリンウォーリアーが姿を現し走り込んできたが、ウォーリアーたちは一瞬テレサの絵を目にして足を止め、後退った。
 だが、目前の玄鵐を仕留めない手はないとばかりに再び走り出す。
 すると、絶妙のタイミングでジェイクがロープをぴんと張った。
 突然出現したロープに足を取られ、先陣を切ったゴブリンウォーリアーは派手に転ぶ。
 それを見た後続のゴブリンウォーリアーたちは足元を警戒しつつ突撃してきたが、その最前列数人が玄鵐の前でふっと姿を消した。
 ……いや、正確には「落ちた」。
 ゴブリンたちはロープに警戒はしたが落とし穴があるとまでは考えなかったらしい。
「今だよ、追撃を!」
 玄鵐が“野営防衛隊”を強い語気で勇気付ける。
 鼓舞されたのか、真っ先に龍馬が
「俺はヒーロー、オリオン!」
 と名乗りを上げた。
 血気盛んな龍馬を援護すべく、落とし穴から這い上がってきたゴブリンたちをジェイクが銃撃する。
 しかし、ロープも落とし穴も最初こそ上手くいったが後から来たゴブリンたちは器用に避け、むしろ“野営防衛隊”の背後を取るように回り込んできた。
 ゴブリンと言えどもその程度の知恵はあるという事なのだろう。
 “野営防衛隊”は徐々に押され、ジェイクが必死で食い止めるものの玄鵐と龍馬は数体のゴブリンウォーリアーに囲まれ袋叩きにされる。
「魔族なんかに負けてなるものですか」
 妙有が光を放ちどうにかゴブリンらの注意を逸らすとその隙にジェイクが銃撃を浴びせて二人を救出した。
 傷だらけになりながらも耐えた二人に妙有が応急治療術を施し“野営防衛隊”は態勢を立て直すべく後退するが、彼らによってゴブリン部隊の襲撃は確実に出鼻を挫かれる事となり、ひいては野営地を守る冒険者たちにしっかりと迎撃態勢を取る時間を与える事となるのだった。

* * *


 野営地後方ではローレンス・ゴドウィンが騎士たちの許可を得て荷車を動かしていた。
 工具を持参しその手先の器用さで野営地を守るバリケードを組もうと考えていたローレンスだったが、生憎使えそうな廃材は見つからず、少数しか詰めていない騎士たちも忙しなく諸侯らの周辺を警戒しておりとても彼を手伝う余裕はない。
 それでもローレンスは
「皆、あと少し待っててくれ!」
 と、せっせと独力で荷車を並べる。
(荷車程度の高さがあれば遮蔽物の代わりにもなるし、敵が奇襲してきても乗り越えるのに多少の労力にはなるだろうしねぇ)
 彼がこの地点で荷車を並べるのは、ロイド・ベンサムの助言あっての事だ。
 ロイドはローレンスに「後方の安全があってこそ前線は戦えるもの、裏を返せば後方の乱れが前線の混乱に繋がる」という事を伝えた上で、敵が野営地を奇襲する可能性が高く、しかも奇襲するなら王都の反対側となる野営地の背後を突くであろうと告げていた。
 ロイドはローレンスが並べた荷車の影に身を潜めるが、その直後。
「ガッ」
 と音を立てて荷車にナイフが突き刺さった。
 ロイドは弓を構え相手を見やり、眉根を寄せる。
「小汚いゴブリンがあんなに……」
 ゴブリンウォーリアーが多数の小隊を作り野営地に襲撃を仕掛けてきたのだ。
 ロイドは強度を高めた矢をゴブリンに放つ。
 初射はゴブリンの鎧に弾かれるが、彼は素早く次の矢を射て今度は1体仕留めた。
 しかし、その間に別のゴブリンが荷車を破壊して突進する。
 そこに闘争心を呼び起こした川獺 信三郎がダガーを手に割り入った。
「野営地を守るでヤンス!」
 だが、信三郎が刃を向けたゴブリンはローグの技を持つゴブリンバーグラーと呼ばれるものらしく、信三郎の攻撃を躱し懐に一撃加える。
「ぐえっ! い、痛いけど……これでも食らえー! でヤンス!」
 信三郎は意地で拳の一撃を繰り出した。
 拳を受け止めたゴブリンが僅かに体勢を崩した隙に信三郎はダガーを握り直し間合いを取る。

* * *


「敵襲、敵襲ー!」
 ロイドたちがゴブリン部隊とぶつかった事を知らせる声が野営地に響き渡った。
 キャンベル伯はぴくりと片眉を動かし、ようやくマリアベルに返答する。
「ええ、お貸ししましょう。その代わり……今聞こえたでしょう? この野営地にまで魔王軍の手が伸びているようですわ。ですから、救護しながらあなた方でわたくしを守って下さいな」
 キャベル伯の言葉にマリアベルはキョウと顔を見合わせながらも、
「……それで、誰も死なせずに済むのなら」
 と深く頷いた。

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