〈ルクサス調査(3)〉
魔王軍との戦いが熾烈を極めているのだろうか、負傷して後退してくる騎士やリスタの冒険者たちの姿が市街に目立ち始める。
市街はいまだ瘴気が漂っており、負傷者にはそれもまた堪えるものだった。
池田 蘭は市街で見つけた犬を一匹操り血の臭いを探らせる。
犬の後を足音と気配を消して追跡すると、裏路地で腰を下ろす冒険者を見つけた。
呼吸はしているが顔面蒼白でこのままでは命に関わりそうだ。
しかも、運悪く通りすがりのスケルトンが蘭の背後に迫る。
蘭は
「私が野営地まで連れていきます、安心して下さいね」
と冒険者に声を掛けると急いで彼をコートで包んで背負った。
そして、偽金貨を投げつけてスケルトンの注意を一瞬逸らすと脱兎の如く駆け出す。
道中の建物に何度となく身を潜ませ気配を遮断しながら、蘭は野営地を目指した。
* * *
同じく“BestReben”の
合歓季 風華、
天草 在迦そして
愛宕 燐も市街で負傷者に遭遇していた。
自身の位置を把握した上で身を隠しやすい場所に的を絞って捜索していた燐の機転と風華の運の良さが功を奏したのか、半壊した物置小屋の影に座り込む騎士数人を見つける事が出来たのだ。
即席の救護所としては申し分ない。
風華に光の壁を張ってもらい、その傍で在迦は香を焚き前奏を奏でる。
騎士たちは幸いにも会話が出来る程度の怪我だったが、それでも野営地まで走れる程の軽傷でもなかった。
風華は燐の武器に輝神の加護を与え、彼女の前に光の壁を展開させて警戒を頼んだ後、騎士たちの傷を一人ずつ順に強力な治癒術式で癒していく。
その間、在迦は清涼な声で力強く歌い騎士たちや風華を元気付けた。
小屋の外では燐が
「敵が来たら鳴いて頂戴? でもあまり離れないようにね? 危ないと思ったら戻ってくるのよ?」
と愛鷹のニールに敵襲を知らせるよう命じ、警戒を続ける。
話によると騎士たちの後にも負傷した人族軍の者たちが野営地に向けて歩いていたとの事だ。
燐が把握していた野営地までの退路を教えると、騎士たちは安心した様子で礼を言い、即席救護所を出ていった。
本音を言えば風華は騎士たちを野営地まで送ってやりたかったが、彼らの話でまだまだ負傷者がこの辺りを通るだろうと知ってしまった以上、この場に留まり傷を癒し続ける決意を固める。
ペンダントの結界で自衛しながら、風華は次に通りかかった負傷者たちに声を掛け招き入れた。
すると、そう時を空けず燐のニールが鳴き声を上げる。
どうやら付近のアンデッドが即席救護所に気付き襲い始めたようだ。
燐は風華の光壁でウィル・オー・ウィスプを凌ぎながら、チェーンスピアをスケルトンの足元に投げて転倒を狙った。
風華が輝神の加護を授けたお陰でスケルトンは上手く引っ掛かり浄化される。
しかし、光壁によって多少防げてはいたものの周辺の瘴気は徐々に燐の体を蝕み始めていた。
燐の様子が気になった在迦が
「燐さん、万一に備えてクォーターエリクシルを持ってきてるからね……」
と告げると、心強さを覚えたのか燐の顔に微笑が浮かぶ。
(これからのルクサスの為にも、ここで誰も死なせるわけにはいかない……無理に戦わず、時間を稼ぎましょう)
燐は奇襲にも即座に対応出来るよう構えながら、アンデッドたちを追い返し続けた。