■戦況打破■
「命あるもの、命なきもの。
何方も簡単に弄ぶ貴女には、絶望がお似合いです。
貴方が頼っているその一つ(砲撃手段)、この
QueenBeeが潰してあげましょう」
QueenBee――知識を元に策を生み出す母となる未来を見据えて
我無 鈴奈が己を呼ぶ名前である。
我無の両端に2人。
「人を……舐めるなよ……人をおもちゃにする奴はオレが倒す!」
怒りを露に
ヒルデガルド・ガードナー。界霊獣ヤソマガツが変化した太刀、虚ろう碧の太刀を携え、いかにもマリスに飛び掛らんとばかりだ。
動がヒルデガルドなら、静は
白露 凛。
「護るべきモノがあるなら……それが拙者の戦場」
界霊獣アブソリュートが変化した大斧、王者のカルタリを両手でしっかりと持ち、敵の姿と味方の位置を把握する。
「レーナ、指示よろしく」
このまま真っ直ぐに行っても倒せると限らない現状に、とにかく彼女の攻撃力を剥ごうと、ヒルデガルドは我無の案に同意を示す。
「えぇ、ヒルデさん。お願いするわ」
状況分析に全力をかける我無にとって、戦力となってくれる彼女達は、自分の知識の道を広げてくれる大事な仲間である。
いくら勝利への道を見つけても、閉じてしまっては意味がない。
「拙者の前に立つ者は覚悟を決めよ」
白露は王者のカルタリを地面に打ち付け、仁王立ちだ。
我無を守るべく、2人は堂々とした風情でそこにいた。
2人に感謝しながら、我無はコールドリーディングでマリスを相手の動きを注意深く観察し始める。
デフラグメンテーションでの情報整理。GQリーシュ【Lv5】【GEファミリア【レベル5】】の存在も、我無の脳の処理能力を高速化してくれた。
広角視野で広く視野を広げ、動作する砲門を確認。テュポーンの動き等も軽く把握し、不意打ちは食らわないように注意する。
テュポーンを遠ざける、認識され辛くなるというサンラクシャンとも着込み、テュポーン対策だ。
CNリアクター【FA5】【ノヴァリアクター【FA5】】で発生させたエネルギーで周囲に拡散し、数多いテュポーンを状態異常に掛からせ、牽制。
「師匠ったらこういうことになると楽しそうだねー」
我無の様子を見て目をキラキラ輝かせるのは
葛城 朝香だ。
集中力が増しているのか、こちらの声にぴくりともしない。
これは、もしテュポーンが襲って来たら、そのままサンドバックになるのではないかと不安を抱くのは当然だ。
「モーニー?」
モニカ・ヴァネルを見上げると、モニカはこくりと頷く。
「鈴奈の読みが勝つか、マリスの知恵が勝つか……。存分に試してもらおう。その為には護衛しなければな」
うん! とモニカの言葉に頷く葛城。
「じゃぁ、朝香はモーニーと一緒に師匠を援護しよう!」
我無が無防備になるのをカバーするように、モニカが同じようにサンラクシャンを着込み、ホライゾンシールドとウィップソードを構え、テュポーンを警戒する。
しかし、我無が思案して選んだその場所は、敵に見つかり辛く、心配はなかった。
葛城もサンラクシャンを着込み、こっそりと、小さく応援をする。
テュポーンを追いかける特異者の姿をモニカは眼で追った。
そんな緊張した中で我無は思案する。
バリアを張りながら攻撃して来るマリスだ。
手元は見ず、まっすぐに特異者達を見つめ、攻撃して来る。
動きが少ないのは、やはり自動にしているからではなく、彼女自身が操作しているからだろうが、微妙に違和感がある指の動きが操作しているのだろうと目安がつく。
さっきまでとは動きが違う。
動かさない部分はウォークス達が破壊し、もう動かせない部分だろう。
彼女が持つリモコン破壊をすれば完璧だが、この状況は砲台本体を破壊しきってしまった方が効率が良さそうだ。
そして、入り口より一番遠い奥。
戦いに巻き込まれ辛い場所なだけではなく、ウォークスの破壊の連鎖に繋がっておらず、またマリスの余裕もそう失われていない事から、大事なデータ等がそこにある気がしてならない。
狙うはそこである。
マリスの手の動きを見て、ヒルデガルド達があそこに辿り着くまで光線の餌食にならないタイミングを指の動きをパターン化し、カウントする。
我無がGQリーシュ【Lv5】を連れて放つ合図は、F-Fギア【FA3】【ファンタスティックギア【FA3】】を回転させ、遠距離操作で飛ばし、攻撃の場所へと指し示す。
すかさず葛城が界霊獣ラブを召喚し、砲撃対策隊メンバーの速度、跳躍力を上げ、清澄の唄声の美声も響かせ、仲間達の回復しはじめた。
ホバーボードで宙に浮き移動するのはヒルデガルド。隠形術で身を隠しながら我無のF-Fギアを追う。
当然、マリスの目前を飛ぶことになるが――。
「漲ってきたぜぇぇぇっ!!」
栄光の小瓶をフェイクモーションを使い、間違いなく目を見開いているその顔に向けて放りなげて、爆音を聞きつつ、真っ直ぐに目的地へ進む。
「拙者を倒さねば……その刃は届かぬと知れ!」
白露は受け流しと、一の太刀による渾身の一撃で敵をなぎ払って行く。
チャージして力を溜めていたモニカはレイダースウェイで通り道にいるテュポーン達を避け、ウィップソードアクションをも使い敵と戦わず我無が指し示したそこへ到着する。
2人が目的地へ確実に行けると確信し、白露はクルリと振り返る。
「任された。行け!」
追ってくるテュポーンを倒すのは白露の役目だ。
ヒルデガルドとモニカに応援を送り、白露は押し寄せてくるテュポーンに向けてアブソリュートアライブによる連撃を見舞った。
狂気の毒蝕で自身の力を強化する成分もある猛毒を自身の体内で生成するヒルデガルド。
そして、リヴァーサルエンドを使う。状態異常になっているヒルデガルドの力を更に引き出し、威力を増加させた上で、更なる強力な一撃を放つ。
そしてモニカは一気に距離を詰めての、イラプションブロウによる猪の力を宿しての突進攻撃だ。
バキンッ!!
甲高い音と共に、部屋が一瞬、暗闇に包まれる。
一瞬、だれもが動きを止めた。
「それじゃ、お掃除するよ!!」
ファミリア【レベル2】を連れた葛城は壊れた草刈り機【FA2】を使い、ファミリアをノコギリを携えた人型と変形させ、壊れた破片をマリスの方へと放り投げ、足場を綺麗にしていく。
戦いにおいて、しっかりと踏み止める足場は大事だ。
不安定な場所でも確かな足場を確保できる技術を持つ人もいるが――そんな、戦いに長けた人が持つような技能はマリスはもっていない。
だから。
特異者達の足場を綺麗にし、マリスの足場を乱れさせてしまうという事は、戦闘に不得意だろうマリスにとって不利になったのである。