■安らかに■
「『改造』ねぇ…とても見れたもんじゃねえな。マリスも気になるけど、こっちを無視しても胸糞悪いったらねえぜ」
ファミリア【レベル4】をグロースリンクで身に纏い、直感を含む六感をリンクさせる
永澄 怜磨は、苦々しい想いを吐き出した。
コールドリーディングで注意深くメロディアを見、これは全力でいかないと足止めさえも出来ないと皆に告げる。
威力の大きな剣を持ち、それでも全力でやってもいいものかと不安になる
綾坂 春奈の肩をプラシーボケアによる話術で、彼女のやる気を引き出す。
「あいつを助けるんだろ? なら迷う事はねえ。あんたならやれるさ! そうだろ、ヒーロー!」
こくり、と頷いた綾坂の眼に、既に迷いはない。
柊 エセルが、界霊獣ラブを召喚する。
そして、仲間達の速度と跳躍力を2倍に向上させ、軽く唄を口ずさむ。
ローゼットたちの傷も癒えていく。
「……子供は、親が幸せになる為の道具じゃありませんよ……?」
何とも言えない表情で
ビーシャ・ウォルコットはマリスと視線を合わせ、それからメロディアに向って走り出した。
ファミリア【レベル5】を連れたビーシャはイッカクランスを腕と融合し、空気の流れや熱の変化を敏感に察知する。
「さぁさぁ、どうか遊びましょう、まさか動く人形でもないのでしょう~?」
カモンベイビーも使い、彼女の心が動く事を願う。
ギラリ、と彼女の目がギラついて、ビーシャの方へ突っ込んでくる。
「メロディアさんには悪いけど、全力で、止める」
強く心に誓い走り出す
千桜 一姫。
ブラッディブーストでの加速力、スプリングリムによるバネの跳躍力で一気にメロディアとの距離を詰める千桜。
マルローネ・アルカンジュリもブラッディブーストと跳躍力で千桜と対かのように動く。
2人に向ってメロディアの腕が伸ばされる。
その攻撃を真正面から受止め、ビーシャは万死一生で腕にダメージを蓄積させて腕を切り離す。
武器を持ったその腕を、メロディアの方へ蹴り飛ばす。
その時には既に腕は再生していた。
「蜥蜴が尾を切るのは明日を生きる為、だそうで~……」
だんっと、後ろに下がるメロディア。
投げ飛ばした武器は無垢のガッダ。
手には、まだ融合しているイッカクランス。
「と、言うわけで。……今ぁああああああ!!」
カルペディエムで自身の潜在能力を引き出し、仲間達の連携力も高め、突っ込んでいくビーシャ。
胸のど真ん中を槍が貫こうとしたが、そこまで貫通する前に逃げられる。
遺伝子暴走で、秘めている生物の遺伝子を意図的に暴走させ無理やり身体能力を引き上げ、咆哮をあげながら、ビーシャは一心不乱にメロディアへ攻撃を仕掛ける。
千桜は静寂のカツガを手に、メロディアの様子を伺う。
部屋にある椅子を拾い上げ、それでビーシャの動きを止めようとしたのだが――それは失敗に終る。
CHファミリア【レベル5】を連れた柊が久遠の古時計【FA5】でファミリアを手足が生えた懐中時計のような形になり、意識の伝達速度を遅らせる針音を響かせた。
時間が遅くなっていく感覚を皆が実感していく。
マルローネはその間にメロディアの後ろに回ろうとした。
気付いたメロディアは、ぶんっとその腕を――しようとした所で、ビーシャの直撃を食らい、千桜の剣が彼女の動きを制する。
石柱槍を構え、下から上へと突くマルローネ。
その状況からも攻撃を避けるメロディアは千桜の剣からも距離を置き、特異者に囲まれてしまう状況からは脱する。
攻めるは千桜。迷い無く突撃する。
マルローネは、メロディアを逃がさないようにと退路を絶つように動く。
(メロディアは未来のノスフェラトゥたちのオリジナル……になるのかな。
手加減は一切無しでやらないとあたしたちの方が先にバラされてしまうわ!)
マルローネが思うよりも先に先にと動いているメロディアの動き。
逃がすかと、槍を投げて行動阻止をしようとした所で、メロディアの宙に上がった足がクルリと円を描き、千桜の剣を弾き飛ばす。
「うおぉぉっっっ!!」
巨大な憂戚の大盾を構え突撃する千桜。
それは合図だ。
高く飛び上がったマルローネは石槍を手に、メロディアを飛び越える。
振り返り、放つダストバースト。
自身のリミッターを解放し、強力な一撃を、マルローネと千桜は同時に放った。
「彼女も被害者。けれど、遠慮が出来る相手でも無い。だから、全力で――叩き潰す勢いで、押し留める」
前と後ろからと強力な攻撃を受けたメロディアは身動き出来ず。
「しょうがないわね」
小さな溜息と共に、周りから発射されるレーザー光線が千桜とマルローネを攻撃する。
更に発射された光線は
マニピュレイトが咄嗟に反射方陣を展開し反射した。
悪戯な魔糸10本の先についている楔が防げる発射口を防いで行く。
あれが我が子を見る目か。
マリスの人を人をと思わないその眼に誰しもが憤りを覚えるだろう。
「私は思い出せないけど……
家族って、こんなのじゃないでしょう!」
綾坂の炎皇化が発動する。
様々な出会いや心に触れた綾坂春奈の燃え盛る想いから発現した力である。
全身を染める赤いオーラ。
髪と瞳の色が赤く染まり、界霊獣シャウトが変化した剣――カルディアイグニス【猛き炎の剣】が炎を纏う剣へと変化する。
炎が輝くのは、綾坂の心の叫び。
「少し痛いけど……耐えてよ!」
3人の猛攻撃を受けても、感情の片鱗を見せず、静かに前後の攻撃を押し開くように両手を動かすメロディア。
強力な綾坂の攻撃から逃がすワケにはいかないと、永澄が不可視の一撃でメロディアの足元を狙い体勢を崩させる。
ブラッディブーストで攻撃力を上げ、ダストバーストで自身のリミッターを解放する綾坂。
炎の化身を化した綾坂は、真紅の光で軌跡を描き、灼熱の炎で先を切り拓く――――。
「例えこれが私達のエゴだとしても、彼女には誰にも利用されずに自由に生きてほしい。
そんな
祈り(pray)が、今の私達の力なんだ」
くはっと口から血を吐き出し、ふらつくメロディア。前後不覚に陥っている。
アリステアがプラーナを鎖として具現化し、メロディアをジャラジャラと捕えていく。
叩き込んでいく数値情報。
すかさず、柊がメロディアを抱き締める。
(正気を失っている彼女に言葉は届かないでしょう。けど、言葉で伝わらなければ、身体で伝えたら良いと思うんです)
柊のCHファミリア【レベル5】を媒体に、マザーフィールドで小型の結界を張る。
そして、柊は優しく想いを伝えるように静かに子守唄を唄う。
魔力を秘めたその唄は、メロディアを安らぎの時間へと連れて行く。
遠近がチャネリングでメロディアの脳内に
未来のメロディアがどんなに幸せそうだったかを訴える。
(記憶と想いが先に続く未来を大きく変えるきっかけになるように)
強く想う。
「……今の君が。俺達を、知らなくても。……俺達は。未来の君を、
知っている。
だから……忘れないでくれ、メロディア。……君を。未来で、待っている」
静かな声で優しげに遠近はそう言った。
ローゼットは、以後彼女が精神攻撃に負けないようにと、清らかなオーラを纏っており、所持することで精神に働かせる力に対し抵抗を得ることができるまな板と、WHに所属する特異者用のエンブレムバッチ――仲良くなれるようにと願い、絆のエンブレムを渡す。
眠りにつこうとするメロディアの手をレイドは握り締める。
黒真珠とカランコエの組み合わせで出来ている、黒影の御守り【魔女の花飾り】。
カランコエ「幸福を告げる」「たくさんの小さな思い出」「あなたを守る」
黒真珠「強い意志」「邪気払い」「寛容」
少女が来るべき日に、決して負けないようにと。破滅を希望に、白紙にしてはいけないと。
そう願い、レイドはメロディアに黒影の御守りを贈る。
「きっとこの先、苦しい思いをする時が来る。そんなとき、きっとこの髪飾りが護ってくれる。
これは幸福をくれるんだ。そしてメロディアに強い意思をもたらしてくれる。
だから諦めるな。今はわからなくても良い……でも、俺の言ったことを絶対に忘れないでくれ。
俺は君のことが好きだ。未来で待ってるぜ」
メロディアの虚ろな目がレイドを見て――静かに微笑んで、彼女は柊の腕の中で眠りについた。