ファランを守れ 1
一般的な広さの庭のある、二階建ての一軒家。
やや広めとは言え、ごく一般的なこの家が、ランファの実家だった。
そしてその二階の角部屋には、知らぬうちに睡眠薬を飲まされ、深く眠っているランファの母――ファランがいる。
「ランファさんには断られてしまったので、ここにも設置しておきましょう」
黒杉 優は、ファランのベッドの周りに、触れると音がなる【ブービートラップ】を仕掛ける。
当初は母親の代わりに変装したランファを寝かせ、囮になってもらうつもりであったが、それは母親の護衛に集中したいというランファに断られてしまった。
「どうであれ、ファランさんは死守してみせます」
優は、敵の侵入に備えて家の至るところに罠を張る。
「絶対に絶対に……護り抜きますよ!」
ルイーザ・キャロルは、【シールドタブレット】、【エネルギーシールド】を【バリアアップデート】で強化し、シールドタブレットのファミリアアビリティを展開。
そして、ファランの周囲に【聖域】を張ると、敵からの初撃に備えた。
ラシェル・ロニセラは、
シーラ・ライトノーツと
ディック・ブライトネスと共に、建物の外を警戒する。
玄関口に陣取ったシーラは、【プラズマリング【FA1】】のファミリアアビリティで光源を作り、首から下げた写真入りロケットを淡く照らした。
「上手く囮になれたらいいんだけど……」
敵の目的がファランの持つロケットであるなら、勘違いした暗殺者たちが興味を示してくれる可能性もある。
「シーラ姉上は僕が守ります!」
シーラから少し離れた、庭の木々の暗がりに身を隠したディックは、【バリアアップデート】で自身の武器と防具を強化する。
同じように、窓や扉を強化出来ればと思うが、【バリアアップデート】にそのような効果はない。
「今は待ちましょう」
ディックの隣に並ぶラシェルは、【エコロケーション】で敵を警戒しながらシーラを見守った。
「廊下は…まだ静か…
天井とか…直接の経路が…あるのかも」
リリアン・プロモートは、ファミリアの【マシロ】と【一心同体】となり、【ファミリアサーチ】で家の中を巡回しながら、前もって仲間たちに渡しておいた【無線中継セット】の子機を通じて、
青島 想那と連絡を取る。
「テュポーンにも……備えた方がいい」
テュポーンの中には、様々に体を変化させる物もいる。
人と同じ経路を取って、侵入してくるとも限らない。
リリアンは、手元の【ナレッジスフィア】を扱い、【デフラグメンテーション】で素早く情報を整理すると、【コールドリーディング】を用いた分析で、情報に加えて自身の意見を想那に伝える。
「分かりました。テュポーンの気配を察知したら、すぐさまそちらに戦力を裂きます」
想那は、【戦況分析】と【位置把握】によって、家屋内の敵と味方の勢力図を分析すると、【癒し系ナビゲート】で連絡が取れる仲間たちに指示を飛ばす。
ネリネ・レーゲンシルムは予め家の中を探索し、【瞬間記憶】した情報を役立てようしたが、記憶は数分しか持たないので、戦いの役には立ちそうになかった。
それぞれが、暗殺者の襲撃に備える中――その時は、ついに来た。
襲撃は、迅速にして突然だった。
事前に、かなり入念な下準備がされていたのだろう。
ターゲットの位置も、侵入経路も、とうに熟知された動きだった。
屋根から、地面から、音もなく忍び寄った暗殺者たちは、一路ファランの眠る部屋へと迫る。
しかしその行く手には、暗殺者たちを迎え撃つべく、敷地内の至る場所に、特異者たちが控えている。
「着実に手を打っていきましょうか……」
【感応】で敵の気配を察知した
ユキノ・北河は、【藍銅のオカリナ】の水弾の攻撃で、敵の接近を牽制し、周囲に水をばらまく。
小犬丸 里実も狼化をしつつ、他の特異者と連携を取っていた。
「お手伝いいたします」
ネリネは【ユニゾンヘルプ】と【応援】で、仲間たちを鼓舞する。
素早い身のこなしで水弾を避ける暗殺者たちは、ユキノの攻撃をかいくぐり、銃で応戦しながらファランのベッドへと近づこうとする。
「ルイーザさんのラインまでは下がらせませんよ」
ユキノは水弾で濡らした床の水を元に【ディフェンスウェーブ】を発動し、銃弾を防ぐ。
「濡れていれば凍りやすいかもしれませんね」
続いて【クイックフリーズ】で、暗殺者の足止めを試みるが、場数を踏んでいるだけあって、暗殺者は動じることなく氷をたたき割り、拘束を抜け出した。
四方に散った暗殺者たちは、光学迷彩で背景に身を隠し、ファランを守る特異者たちの隙をついて攻撃を仕掛けてくる。
「あははー。嫌がらせこそ今の私の行く道なのだーっ!」
ティターニア・ホイットニーは、【迷彩翅】で姿をくらまし、【ラビットダッシュ】で高速に移動した後、飛行する。
【生命感知】で暗殺者の位置に当たりをつけると、その方向へ向けて【夢鮪仙暇猫】でまばゆい光を放つ。
暗闇に目が慣れた暗殺者たちは、光に目をくらませると思ったのだ。
しかし、暗視ゴーグルで目をカバーしている暗殺者たちには、嫌がらせにすらならなかった。
【エマージェンシー】で敵の接近を察知した
黒瀬 心美は、ファランを庇う様にベッドの前に立ち、【ファルスコア】で敵のナイフを受け止める。
そこに、ベッドの下から飛び出した
エステル・ノーディン・露木が、暗殺者の脇腹目がけて【ダストバースト】を撃ち込んだ。
「”Blood Ritual”としての真の力、お見せしましょう!!」
エステルは、【激化の代償】で肥大化させた腕で即座に敵を掴み、そのまま寝室の壁に押し付けると、【コークスクリュー】で壁ごと叩きつけた。
エステルが手を放すと、ズルリと事切れた暗殺者の体が床に落ちる。
「まずは一人……まだまだ行くよ!」
心美は【猛き炎の剣】の能力を解き放ち、【アブソリュートアライブ】の連続攻撃で目前の敵に斬りかかった。
未来は変わらないとランファは言った。
けれど、人を想う心には運命を変える力があると、心美は信じている。
(ここがその分岐点だと言うのなら、抗うまでさ……徹底的にね!)
心美の剣の炎が辺りを照らし、視界の悪い室内に、暗殺者たちの姿が浮かび上がる。
それを目印に、【フェイクデッド】で気配を絶ち、部屋の物陰に隠れていた
リーゼロッテ・ベルンハルトが飛び出す。
「暗殺者どもよ、覚悟せい。
外道に味方した其方らに未来は無い!」
リーゼロッテは【妖力解放】すると、暗殺者を掴み上げ、【オーバーバイス】で壁に叩きつけて止めを刺した。
「来ましたね……」
【聖域】の範囲に敵の銃撃を受けたのに応じて、ルイーザは二枚の盾を構える。
「護るべき人が居る限り…私は…不壊の盾となりましょう…。
ようこそ暗殺者さん…ここが…最終ラインですっ!」
【ダークグリフ】を刻んだ身体能力で、素早く敵の攻撃に反応、ルイーザは盾でひたすら防御に徹する。
ルイーザを相手に攻めあぐねている暗殺者の背後に、【ハイドアンドシーク】で身を隠していた
リデル・ダイナが【バックスライド】の速度で滑り込む。
【蒼炎の生存本能】と【紅炎の生存本能】を生かした身のこなしで、暗殺者の後頭部に一撃を食らわせた。
「今回の戦いに勝ったからって、全てが解決するわけじゃないけど…
今はただ、目の前の戦いに全力を尽くすのにゃー!」
【General Pause】で音を食らい、無音の攻撃を繰り出すリデルの攻撃に、完全に不意打ちを食らう形となった暗殺者の体は、ぐらりと傾いて床に倒れた。
「逃がさない……」
特異者たちに迎撃され、部屋から逃げ出そうとしていた暗殺者の前に、
黒瀬 心愛が立ち塞がる。
【感応】で暗殺者の動きを捕らえた心愛は、【オーバーバキューマー【FA1】】の吸引力で、その動きを鈍らせる。
「誰にでも幸せな未来を望む権利がある…。
ランファの為にも、ファランさんを救い出して見せる…!」
心愛は【ミスティカ【FA2】】で高めた魔力で、【ファミリアラストモーメント】を放ち、暗殺者を仕留めた。