ラオシュンを守れ 2
ラオシュンが身を隠してから程なくして――突然研究所の灯りが落ちた。
停電か、と研究室の外が騒がしくなるのを、ラオシュンはデスクの下で緊張に身を強張らせながら聞く。
「大丈夫だよ」
小声で励ます留愛の持つ【携帯用お香袋】の香りが、ラオシュンを落ち着かせる。
「……来たか」
ダクトに潜んでいたマカラシャは、自身の【エマージェンシー】と、慧斗の【チャネリング】による指示で、敵の接近を知る。
「……さて、まずは死ね」
マカラシャは腕を【ブレード】と化し、傍に迫った気配に容赦なく斬りかかる。
しかしダクトの狭さと暗闇の中では、暗殺者たちの素早い動きに対応するのは難しい。
目的はあくまでラオシュンである暗殺者たちは、マラカシャの攻撃を暗器で弾き、その隙に横をすり抜けていく。
「逃がすか……!」
後を追うマカラシャは【触手】を伸ばし、最後尾の暗殺者の足を絡め取って引き寄せる。
「まずは一人」
横一線に、敵の首をブレードで跳ね飛ばした。
マカラシャの攻撃を逃れ、ダクトを通り抜けて来た暗殺者たちを迎え討ったのは悠人だ。
「流石に、こんな罠に引っかかってはくれないか」
悠人がダクトに仕掛けた【レッドバナナ】によるバナナトラップは軽々と回避されたが、元々それで倒せるとは思っていない。
【トライアルソード】を両手に構えた悠人は、【インテュイション】の直感に頼って、暗闇の中ダクトから出てきたばかりの暗殺者に斬りかかった。
しかし、レイダーアバターの悠人は、ここブランクでは思う存分力を発揮することは出来ない。
「どこだ?」
勘だけで斬りつけた剣は弾かれ、気配を探る術も持たない悠人は、逆に暗殺者に背後を取られてしまった。
「ぐっ……離、せ……」
悠人を羽交い絞めにした腕は、強靭な力で悠人の首を締めあげる。
徐々に意識が遠のいて来た悠人の体が、ダラリと力を失う。
暗殺者は、気を失った悠人の体を放り投げると、任務を遂行すべく研究室へと忍び込んだ。
「さあ、来い」
ジェイクは【聞き耳】で拾った戦闘音による情報を【デフラグメンテーション】で整理し、暗殺者たちが部屋に侵入したと判断する。
すぐさま【虚ろな巨像】でラオシュンの幻影を創り出そうとしたが、【虚ろな巨像】の能力では人間大の像を創り出すことも、特定の人物を創り出すことも出来ない。
「囮作戦は失敗でしたか~
ですが、逃す訳にはいきませんよ~」
囮に気を取られた暗殺者の背後を狙うつもりだった祓だが、早々に行動を切り替え【感応】で敵の位置を探り、【ファミリアラストモーント】を放った。
祓の魔法に射抜かれた暗殺者の動きが止まった所を、ジェイクの【ゼラチナス・キューブ】による瘴気の手が握り潰す。
(情報を通達する。ダクトからの侵入者が複数名。一部撃破したが、取り逃しが出ている)
(こっちもフォリスタンと戦闘中だ。
奴らは暗闇での戦いに長けている上に、気配も完全に消している。
取り逃しはそっちで把握してくれ)
慧斗と【チャネリング】で情報を送り合い、状況を把握したトリスは、【感応】で排水溝に潜んだ敵を感知し、【炎印の包帯の炎】による攻撃を仕掛ける。
敵も素早い動きで反撃を繰り出してくるが、多少の傷であればトリスは【カソックコート】による回復が可能だ。
「焼き尽くしてやろう」
【ヒートネクローシス】を放ったトリスに合わせて、フォリスタンも【獣虫の戦魂】による衝撃波を放つ。
一部が焼け溶けた暗殺者の体は、続く衝撃波に吹き飛ばされ、動かなくなった。
***
初手の攻撃を防いだことによって、敵にも特異者たちの存在が知れ渡ったのだろう。
簡単にはラオシュンを暗殺出来ないと悟ったのか、しばし状況は膠着状態となった。
「取り逃した者たちの反応もない……一旦は部屋を出たのか……」
ウルフパックから生命反応の情報を受け取った慧斗が呟く。
研究所には、この研究室とは別に幾つかの研究室があり、まだ施設内にはラオシュン以外の研究員たちも残っている。
そこに紛れ込まれてしまえば、敵の気配だけを探り出すのは不可能だ。
どうしたものかと思案していると、研究所内の照明が再び灯った。
落ちていた主電源が復旧したようだ。
それと同時、部屋の外も喧騒が戻り、勢い良く研究室の扉が開いた。