ラオシュンを守れ 1
「遅くまで大変だな。まだ帰らないのか?」
「ああ。切りの良い所までは終わらせておきたくてね」
ラオシュンは、声をかけてきた同僚に応える。
就業時間はとうに過ぎており、同僚たちは皆それぞれに帰り支度を済ませている。
「そうか。まあ根を詰めすぎるなよ」
「鍵はここに置いておくからな。戸締りは頼んだ」
「わかった。有難う」
同じ班の研究員たちは、ラオシュンを残し、続々と部屋を出て行く。
廊下を歩く彼らの声が遠ざかると、室内はシンと静まり返った。
「さて、続けるか……」
一人になり、これでようやく集中出来ると思った矢先のこと。
ラオシュンの耳に、再び複数の足音が聞こえてきた。
「どうした? 何か忘れ物でも?」
同僚たちが引き返して来たのかと顔を上げたラオシュンは、突如現れた特異者たちに驚きで目を丸める。
「君たちは? 研究所の人間ではないようだが……」
怪訝そうに眉をひそめたラオシュンの前に、
月音 留愛が進み出た。
「初めましてラオシュンさん。
今は詳しく話している時間はないんだけど、取り敢えず早く隠れて!」
留愛はラオシュンの手を引き、【シュネーフックス】と
聞者役を部屋へと放つと、隠れるのに良い場所を探し始めた。
***
ロイ・ジャンクラッテは、【サバイバルセンス】で暗殺者が侵入し易い場所に目星を付ける。
目立った侵入経路は、外へと繋がるダクトと、床にある大き目の排水溝だ。
しかしそれ以外にも、廊下と繋がる扉や窓など、気になる場所は幾つもある。
「ここは分担しようぜ!」
ロイは
ヴァイパーパーカーを窓付近の警戒に当たらせ、【エマージェンシー】で敵の攻撃に備える。
マカラシャ・カルマリは、
フォリスタンを排水溝に潜ませ、自身はダクトで敵を待つ。
柊 悠人もダクトに【バナナトラップ序】を仕掛けて、ダクトの出入り口部分に身を潜ませた。
紫雷 慧斗は、
ウルフパックに【エコロケーション】で、研究所内の構造や他研究員たちの位置を探らせる。
「なるほど……まだ他の部屋には残っている研究員もいるんだな」
慧斗はウルフパックからの報告を元に、【チャネリング】で仲間たちと情報を共有する。
距離がある為、流石にファランの護衛に向かった仲間たちに連絡を入れることは出来ないが、研究所内にいる仲間たちには逐一情報を伝える。
「内部の人間にも注意が必要ということだな」
排水溝に潜みながら、慧斗の報告を受け取った
トリス・ルティアは、自身も【チャネリング】を通じて仲間たちに警戒を促した。
「やはり気になるのは内部と繋がっている場所だな」
高天原 壱与は【ファミリアサーチ】を発動し、ファミリアにラオシュンの研究室から繋がる排水溝の出口を探らせ、
西村 由梨と共に研究所の外に出た。
「暗殺者の実力がわからない以上、細心の準備が必要ね」
由梨は、壱与が【デフラグメンテーション】でまとめた情報をもとに、排水溝の出口に【ブービートラップ】を仕掛ける。
相手は暗殺のプロだ。
簡易の罠であれば、解除されてしまう可能性が高い。
そこで由梨は、解除せずに触れると大きな音が出るタイプの罠を仕掛け、更に解除された場合には小さな音が出るという二段構えの罠を張った。
「私たちは外部からの敵をここで食い止めるわよ」
「分かった」
由梨は【カメレオンチェンジ】で背景に身を隠し、壱与は罠に【聞き耳】を立てつつ敵を待った。
***
「この辺りがいいかな?」
隠れるのにちょうど良さそうなスペースを見つけた留愛は、戸惑うラオシュンをそこに押し込む。
「な、何をするんだ!」
「しっ! 隠れてるんだから、大声出さないで。
私たちはラオシュンさんを助けに来たんだよ」
侵入経路になりそうな、ダクトや排水溝からなるだけ離れたデスクの下に、ラオシュンと一緒に潜り込んだ留愛は、【熱い抱擁】でラオシュンにそっと寄り添い、【九十九の幸】を施した。
その傍には、ラオシュンを安心させる為、穏やかな笑顔を浮かべた
光招が居る。
「助けに?」
「大丈夫だ。危なくなったら私が身を挺してでも守ろう」
コトミヤ・フォーゼルランドは、【狂戦士の体躯】を更に【硬直皮膚】で固め、ラオシュンの隠れるデスクを背に庇う様にして立ち塞がる。
「あたしもあんたに加護を」
坂又 璃佐もラオシュンに【九十九の幸】をかけると、ガスによる攻撃を警戒して換気口の確認に行く。
「君達は一体……」
困惑するラオシュンだったが、自分の身を案じてくれている様子に嘘があるとも思えず、一先ずは大人しくその場に隠れることとなった。
「さて、俺たちも警戒にあたるぞ」
「はい~。ダクトから来る敵は一人だって通しません~」
ジェイク・ギデスは、排水溝周りに【埋伏】で身を潜め、【聞き耳】を立てる。
ジェイクと連携を取る
葛葉 祓は、【白鳥の鎧】で飛び、ダクトから死角となる天井の隅に陣取った。
ザック・バランは白衣を身につけ、万が一に備えている。
何かあれば救急セットで仲間を援護するつもりだ。
こうして、研究室での暗殺者たちを迎え撃つ準備は整った。