【仕掛け時、来たれり 2】
奮戦するシルヴェリアたちの姿を見守りながら、
天峰 ロッカは戦場にいる仲間たちに【心を照らす光】を放った。
「大丈夫。滅びゆく世界でも……どんな時だって、希望はある!」
ロッカの放つ光を受け、
三雲 封真はジャガナタに接近した。
「おっと! 当たりませんよ!」
ジャガナタの攻撃を【ブラッディブースト】による加速で緊急回避すると、封真は間合いを維持したまま、相手の死角へまわった。
「ここは……通さないの」
皆の邪魔をさせまいと、
白雪 たまが『トライアルブーツ』をローラースケートに変型させ、前方のテュポーンに向かった。
「……どっかーん」
『道連れの鎧』を身に着けた状態で、【グラビトンプレス】を繰り出し、敵を押しつぶした。
「おっきいね、カレン! これはとびっきりのショーになるよっ」
緊迫した戦場の中で、
リーオ・L・コルネリアだけはジャガナタの姿を改めて見て、はしゃいでいる。
「イッツショータイム!」
だが、ふざけている訳ではない。リーオも【カルペディエム】を使い吼えると、仲間やゲーニーたちの潜在能力を引き出し、ジャガナタへ突撃した。
「いくぞ、グレン。リーオ達の邪魔をさせるな!」
『グレン』を構えた
天峰 真希那が【ファミリアフライハイト】を使い、周りのテュポーンを蹴散らした。カレン、ゲーニー、リーオ、ジェフ、大和の順でジャガナタに近づく。
リーオは【【夜】華麗なる円舞】によってジャガナタの迎撃を避けた。
「当たらないよっ」
「リーオ! 援護する!」
ゲーニーたちが射線を空けたのを確認すると、真希那が【ヒートネクローシス】を放った。
リーオも反撃にと、『ブルーホエール』を振るい衝撃波を放った。
攻撃を真正面から受け止めるジャガナタを見ながら、ロッカは『CHファミリア』で感覚を最大限に高めた。
「呼んでみせるよ。ジャガナタの動き……」
「邪魔されたくは無いんでな」
真希那も【フェブリス】で炎の壁を創り出すと、『ファミリア【レベル3】』によってジャガナタの弱点を探し始めた。
「弱点を見つけないと……」
真希那を妨害しようとレモラの群れが襲いかかってきた。それを、『栄光の小瓶』で目をくらませ阻止すると、たまは『覇竜の戦斧』を振り回してレモラたちを断ち切った。駆けつけたシルヴェリアは【瞬刻の見切り】でレモラの攻撃を回避すると、串刺しにして返り討ちにした。
「何としても、奴を止める!」
その間に真希那は【トランス】で覚醒した。
真希那の視線の先では、リーオが【フレイムディザスター】でジャガナタの巨体を炎の渦で覆っていた。
「さすがに大きい体してるねー!」
炎に包まれてもジャガナタの攻勢は止まることを知らない。そして炎を振り払うと同時に、身じろぎした。
ネヴュラは【サバイバルセンス】で、ロッカは【チャネルオブワンダー】で、ジャガナタがプラーナを放射すると感じ、
「皆、この壁の後ろに待避を!」
「放射、来るよ!」
竜一たちに声を掛け、ネヴュラは【錬成【鉄壁】】を発動した。
リーオもカレンたちと共に後退した。
クロエ・クロラは、ロッカの言葉を聞くや、【俊足のルーン】でリーオたちの前に駆けつけ、
「そうはさせない!」
【大盾のルーン】を展開した。
生み出された2つの防御壁が、プラーナの奔流を防ごうとした。
「ぐあ!」
しかし、勢いはすさまじく壁ごとネヴュラたちは吹き飛ばされた。
「回復させる。しっかりするんだ!」
駆けつけたすばるが【癒しの雨】を使った。
「……助かった。感謝する」
立ち直ったネヴュラも【癒しの雨】で仲間たちを回復させた。
あちこちで転戦していたが、たまも自信の消耗を感じ取った。そこで【ブラッディブースト】を使って無理やり体を動かしクロエの所まで後退した。
「……今、回復する!」
たまに気づいたクロエは、【癒しの雨】で回復させた。
真希那は懸命に探すが、弱点は容易に見つからない。
「ならば力押し……しかないか?」
焦る真希那は、春虎の存在に気づいた。
ピオも一つ目も既に特異者たちの手で撃破されている。
「皆のおかげで、もはや邪魔する者はいねぇ!」
春虎はジャガナタの後方高度上空に移動した。
当のジャガナタは後ろを取らせまいとしたが、ネヴュラが『クロニカマーカー』で威力を上げた【ファフロツキーズ】を浴びせた。
更にすばるも【スマイル☆シュート♪】を繰り出し、ジャガナタの動きを牽制した。
春虎が考えていた仕掛けるタイミングとは、プラーナ放射の直後。そして他の特異者の攻撃でターゲットの注意はそれている。
「今だ!」
目指すはジャガナタのうなじ。春虎は『ライグナイト』の浄化の炎を纏い突っ込んだ。
「射程に入ったぜ!」
『ブルーホエール』のアビリティを発動させ、音波を撃ち込んだ。繰り出された弩級の音波が、戦場の音をかき消し、ジャガナタに飛んでいく。音波をくらいジャガナタが怯んだところに、春虎はうなじへ剣を突き刺すと、【妖力解放】した。
「焔天逆捲け! フレイムディザスター!」
力を引き出した春虎は続けて【フレイムディザスター】を繰り出した。
「不撓不屈! 俺の全力を注ぎ込んでやる! 今ある危機を乗り越え、希望を照らせ! 炎よ!」
ジャガナタは再び炎に包まれた。
この機を逃すまいと、真希那は全員に合図した。
「待たせたな、フィナーレの時間だぜ!」
合図と同時にたまは【アミューズ召喚】を行い、テュポーンを蹴散らした。
炎に包まれたジャガナタだが、まだ倒れない。またもプラーナを放つモーションが見えた。封真は【瞬刻の見切り】で動きを見極め接近した。
「させませんよ」
相手の迎撃を避けつつ、封真は渾身の【ダークネスインパクト】を放った。
瞬間的にジャガナタは視界を封じられ、僅かながらに間ができた。
「これで!」
だめ押しとばかりに、竜一が『ランドクエイク』で、無数の鋭利な地柱を作り出した。
「いまだ!」
ジャガナタの動きが鈍ったのを確認すると、【兵は神速を尊ぶ】を使い、皆に助言した。一気に決めるべき時が来たのだ。
「俺の血も使え!」
竜一やネヴュラの血も借り、シルヴェリアは【血海檄】をジャガナタに放った。
「……後は頼むぞ、竜一」
昏倒したシルヴェリアを竜一が助け起こした。
たまの露払いとシルヴェリアの攻撃に飲み込まれ、もはや邪魔者はいない。
「リオ、カレン! 今だよっ!」
ロッカの合図で、リーオとカレンたちリヒトシャテルンがジャガナタに突撃した。
「いっけぇーーッ!!」
カレンたちの攻撃に続くように、リーオが【アブソリュートアライブ】を叩き込んだ。
特異者たちの攻撃を受け続け、耐え続けてきた体のあちこちに亀裂が入り、その一つ一つが大きくなっていった。堅牢を誇った巨躯が崩れ落ちていく。
こうして超巨大ギガンティック・ジャガナタはついに撃破された。
「被害は出たみたいだけど無事に倒せたみたいだね。
よかった。みんなのおかげだよ、ありがとう」
そう言って笑うトーマスの笑顔は少し苦さまじりだった。
その笑いは恐らくこの戦いが終わった後自分がどうなるか、それを想像してのことだ。
「……でもいい。これが僕の選択だから。
さあ子供たちを守ろう、この世界に入れる限り」
トーマスに言われた皆は頷きあい、子供たちを守るためにまた走り出す。
必ずマリスが倒されると信じて。