7 最後の涙
エリーは揺れ動いていた。
自分の思う「新世界」は何故望まれざるものなのか……。
激しく葛藤しながら、エリーは自分の心がが望んでいなかったはずの方向へ傾きつつあるのを感じていた。
そんな彼女を突き動かすのは、もはや意地と「引くに引けない」という思いのみだった。
「まずはあのロボットからね……! 行きなさい!」
エリーはエビのような脚を生やした大きな魚型のテュポーンを操り、
ピュータに向けて放った。
テュポーンたちは歯をガチガチと鳴らしながら、大きな硬い頭でピュータに体当たりした。
「危ない!」
フォーゼル・グラスランドは危険を察知し、ピュータの前へ躍り出ると、ファミリアを憑依させたランドクエイクを地面に突き刺した。
地面から出現した鋭利な地柱の群れがテュポーンの行方を阻む。
そうして自分たちを庇いながら、フォーゼルは怯んだ敵をアブソリュートアライブの連撃で攻撃した。
「へぇ……おもしろい事するじゃない。でも、邪魔だから2回目はナシよ!」
エリーはフォーゼルを危険視したらしい。
再びフォーゼルがランドエイクを地面に突き立てた時、地柱は出現しなかった。
「サガッテクダサイ! ヤツハ、ファミリアヲ奪ウノデス!」
ピュータがそう言ってフォーゼルの前へ出た。
エリーはフォーゼルの作った地柱の上に立ち、こちらを見下ろして笑っていた。
「さぁ、次はだれがかかってくるの? それとも、今度は私があなたの技、使ってみようかしら」
「そんなことはさせませんよ!」
飛び出していったのは
守塚 桜花だった。
ウィスパードを手にした桜花は素早くエリーに接近すると、ダストバーストの一撃を放った。
しかし、その刹那目の前に飛び出したテュポーン達がエリーを庇い、エリーは無傷で桜花の攻撃を避けた。
「お兄ちゃん! みんなも! エリーに隙を与えちゃダメだよ!」
フォルトゥナ・ベルリネッタはフォーゼルや他の仲間に向かって叫びながら、エリーに向けて虚数魔銃を撃ち放った。
フォルトナはコールドリーディングでエリーの行動を読み、そのパターンを掴んでいた。
「油断したらファミリアを取られちゃう……! でも、エリーも一度にいくつもいろんなことはできないの!」
「生意気な子! 良くもそんな余計なことを!!」
エリーがカッとなった様子でフォルトナにテュポーンをけしかける。
しかしこれは、図星を当てられたが故の攻撃だった。
「やっぱりね! 大当たりでしょ!?」
フォルトナは向かってくるテュポーンをシークエンスチェーンで捕らえ、退けた。
さらに、桜花も エネルギシールドで身を守りながらテュポーンの攻撃から仲間を守る。
フォーゼルはファミリアを奪われながらも攻撃の手を緩めず、ピュータを庇い続けた。
「イケマセン! 御自分ヲオマモリクダサイ!」
「そういうわけにはいかないさ」
逃げろと言うピュータに向けて、フォーゼルは笑ってみせた。
「自我に目覚め、マリスの支配を自らの意志で振り切る。世界に満ちるプラーナの量を観測し、“生存指数”を導き出し、そこから“新たな世界”を創造できる確率を弾き出す。お前はただのコンピュータじゃない。守られるべき存在だ」
「フォーゼルサン……」
「何だかんだ言ってもお前の存在は、
タクミ達にとって必要なんだ!」
特異者達はピュータを守りながら、必死にエリーと戦い続けた。
四方八方から攻撃され、隙を奪われたエリーは次第に押され気味になった。
「勝者が正しいですって? それは罪悪感を棄てた獣が、己を正当化する言葉ですのよ!」
ズィキス・バルタは『運命の翼』で舞い上がると、『髪飾り型アシストユニット』、『極上のバニースーツ』、『俊足のルーン』で思い切り加速した勢いで一気にエリーへと接近した。
「過酷な世界なのは百も承知! でも、より強い力に打ち負かされれば、貴女は満足ですか!?」
高く滑空したズィキスは太陽と太陰の鎮魂曲による光と闇の波動をエリーへと浴びせかけた。
さらに、急降下して接近すると、戦闘音を吸収した『悲愴の剣』をエリーに向けて振り抜いた。
「争いに正義は無い……貴女と戦う罪、私が背負いますわ」
続け様にズィキスはダストバーストの一撃を放った。
しかしエリーはよろめきながらもしぶとくテュポーンを操り、ズィキスの攻撃を軽度のダメージに押さえ込んだ。
「こんなもので……私はやられないわ」
エリーは額から血を流しながら特異者達を睨みつけた。
「そっちが正しいっていうなら、私を倒して見せなさいよ!」
意地を通したい一心で、エリーは攻撃を繰り出す。
しかし、既に大ダメージを負っているのは明らかだった。
蘇ってまだ体が万全ではないのかもしれない。
「ピュータ、あれ……ヤバイよね?」
八神 京がそう話しかけると、ピュータは「オソラク」と答えた。
「モウアンナ状態デハ動クノガヤットノハズ。京サン、モシアナタガエリーヲ死ナセタクナイノナラ……」
「分かった」
京はファミリアと心を一つにし、エリーに向かっていった。
そしてパストショットを人型に変形させると、拳の弾幕ラッシュでエリーと周囲のてシュポーン達の動きを抑え込んだ。
「……っあ……」
「もう動けないよね。なら、これで大人しくして」
動きの鈍ったエリーを京はシークエンスチェーンに絡め、捕らえた。
もはやそれ以上の攻撃は必要なかった。