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大和妖奇譚 ―妖魔行―

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大和妖奇譚 ―妖魔行―
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あの村では


 以前埴輪の大群が押し寄せた村。
 あの時とは段違いの脅威が近付いているとなって、村人たちは完全に恐慌状態に陥っていた。
 あるものは我先にと身一つで逃げ出し、あるものは祟りだと泣き喚き、またあるものは魂が抜けたように立ち尽くすのみ。
 
「大丈夫ですか?」

 逃げ出そうとしたところで足をもつれさせて転んだ村人に、結城 紫苑が優しく声をかける。
 村人はその声にすら恐怖し、体を震わせたが、紫苑が『治癒術』で怪我を治療し始めたのを見て、徐々に体の緊張を解いていく。

「た、祟りが、祟りが……」
「大丈夫です、祟りではありませんよ」
「で、でも、あんな雲、見たことがない! 祟りに違いない!!」
「あの雲があなたを襲うことはありません。京まで落ち着いて避難しましょう、私たちの仲間が守ってくれますから」
「ほ、本当に、守ってくれるのか……?」

 縋るような瞳に、紫苑は微笑みと共に頷いた。

「おじさん、大丈夫だよ!」

 後押しするように明るい声をかけたのはエステル・ブルーム
 『変装術』によって、その姿は村の子供と変わりない。そんなエステルの明るい声と笑顔を強がっていると勘違いしたのか、村人は徐々に冷静さを取り戻す。

「ああ、すまなかった、君みたいな子供に気を遣われるなんて……」
「えへへ、冷静になってくれてよかった!」

 エステルはそう言ってにっこりと笑うと、他の混乱する村人の方へと走っていく。
 村人は紫苑に礼を言って立ち上がると、紫苑と共に避難列の編成を手伝い始めた。

 村の入り口では、九曜 すばるナイン・フォスターが、混乱する村人をまとめようと奔走していた。

「あああ、もうこの世は終わりじゃ、みな鬼に祟り殺されてしまうんじゃ……」
「落ち着いてくれ、もう大丈夫だ。俺たちが京まで送り届けるから」
「京まで行って何になる? 祟りから逃れられるものか」
「あれは祟りじゃない、敵の式神だ。大体、今回は祟りに遭うようなことはしていないだろう?」

 すばるが冷静に指摘すれば、村人たちは「確かに、あの事件からは何もしていないが……」と口ごもる。
 
「はーい、そういう信心深いお話は避難してからにしましょうねー」

 やや投げやりにも聞こえる口調で言いつつ、ナインはひらひらと手を振って村人を誘導する。
 そんなナインの言い方が気に障ったのか、数名の村人が食って掛かった。

「お、お前みたいなのがいるから俺たちまで祟られるんだ!」
「皆ここで殺されるんだ!」
「ああ、祟りじゃ祟りじゃ、祟りじゃあああああ!」

 ぶちり、とナインの堪忍袋の緒が音を立てて切れた。

「いいからとっとと避難しろっつってんだろうが! 皆あんたら守るために戦ってんのにのんびりしてんじゃねえよ! チンタラしてんじゃねえ!」

 豹変した口調と表情に、村人はおろかすばるまで目を丸くする。
 ……が、すぐにナインはへらりと上品な笑顔に戻る。

「……なーんて荒っぽいことを僕が言い出す前に、すばるさんたちの言うことを聞いて避難してくださいね?」

 その笑顔は、有無を言わさぬ迫力を纏わせていた。





「皆様、落ち着いてください」

 凛とした、よく通る声が響く。
 アイリス・クロンヴァールは、動揺する村人一人一人に語りかけるように、心をこめて語りかけた。

「わたくしたちは一人ではありません。大切な人達と無事にこの場を切り抜けるためにも、今は冷静に自分達にできる事を選択しましょう」

 アイリスの声が、村人の心に勇気の火を点す。俯かれていた顔が、次々に上がっていく。
 危機が迫る状況で、今自身がすべきことは泣き叫ぶことでもがむしゃらに走り出すことでもない。
 村人たちに冷静さが戻ってきたところで、錆原 アイネフカザワ ツヾラが手分けして村人をまとめに向かった。

「霊力の乱れがどこまで広がるかわからねぇから確定じゃないが、とりあえずはこの道を行くぜ」
「……わかりました。私は列から少し離れて哨戒します」
「私は子供たちの傍を哨戒しよう」

 坂又 璃佐が土地鑑と陰陽知識を活かして考えた避難経路を、護衛に加わるリュナ・ルキュル天龍 華凜と打ち合わせる。
 避難列の編成と避難経路の確認が終わるまで、アイネは神楽舞と歌で特に不安がっている子供を宥め、妖狐が小さな火の玉のお手玉であやす。
 
「ほら、もう泣かないで? 大丈夫だよ、キミたちはボクたちが守るからね」
「お腹がすいたらいつでも小生に言って下さいね、少しですがおにぎりとお饅頭を持ってきていますから」

 ツヾラがそう言って荷物を示せば、数人の子供たちが物欲しげな視線を向ける。
 その様子に小さく微笑んでもみじまんじゅうを分けてあげると、子供たちは一瞬だけ恥ずかしそうに俯いた後、「ありがとう」とお礼を言って受け取った。

 それから少しして、一行は村を出発する。
 最初のアイリスの激が効いているのか、村人たちの動揺は少ない。子供たちも、アイネの歌やツヾラの食べ物でずいぶん落ち着いていた。
 時折浮かべる柔らかな笑顔に、華凜は目を細めた。

「いつ見ても幼子の笑顔ほどよいものはないな」
「……ロリコン……?」
「ち、違うぞ!?」

 たまたま見回りに通りがかったリュナの何気ない指摘に、あからさまに動揺する華凜。
 子供が好きなだけで断じてロリコンではない! と主張する。

「……不安に思うことはないぜ。平常心だよ、平常心。ああ見えてもきちんと仕事はするから気にするな」

 先頭で一行を誘導していた璃佐は、はしゃいでるようにも見える護衛に対しなにやら物言いたげな村人に、そう言った。





 シルノ・アルフェリエインクル・アルフェリエは、避難誘導を他の特異者に任せ、霊力の乱れが大きい地点を目指していた。
 インクルが霊力の乱れを感知し、シルノが先行して進む。
 やがて、二人の前にぼんやりと青白い光が現れる。

「鬼火……!」
「シルノ、僕が行くよ」

 実体のない鬼火には、剣が効かない。シルノが「お願いします」と退くと、インクルは符を構えた。
 青色の符は、狙い違わず鬼火にまっすぐと飛んで行き――まるで水風船が割れるように、ぱん、と言う破裂音と共に水を振りまいた。
 鬼火は、撒かれた水によって次々と消えていく。

「ふぅ、こんなものかな」

 何度か符を放ち、鬼火が完全に消えたのを見て、インクルは息を吐く。
 『残心』で敵の不意打ちに備えていたシルノも、これ以上の追撃がないのを確認して構えを解いた。

「ここの霊力の乱れは、さっきの鬼火が原因でしょうか」
「多分、そうだと思う。少し占ってみるよ」
「わかりました」

 インクルが占いをしている間、シルノは再び太刀を構えて警戒を再開した。


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